話の本筋は実は
将来の夢。安直な言葉ではあるが自分の未来を決めることでもある。小百合はともかくとして、周りの魔術師は普通に一般人としての職業も有しているのだ。
康太の周りの魔術師はあまり参考にはならない。社長職だったりバスの運転手だったりほぼニートに近いフリーターだったりと、参考にしていけないような職業も含まれているあたり普通とは違う人種が多いことがわかる。
バスの運転手に関しては一般的な職業だが。
「将来の夢かぁ・・・姉さんはそういうのをいつ頃決めましたか?」
『私ですか。私もまだ漠然としか決めていませんよ?ですがやっぱりそうですね・・・師匠の後始末をしていた時に感じたんですが、壊すよりもずっと作るほうが難しくて、作るには技術が必要だというのを思い知りました』
当たり前のことではあるのだが、仮に一つのものを壊した場合、それを直すのに必要なのは金だけではない。金があってもそれを直せるだけの技術者がいなければ直すことは不可能なのである。
魔術を使えば多少は便利かもしれないが、今の世の中で魔術でできることは個人レベルのことに限られる。
技術は個人の垣根を飛び越えて、広く数多く存在を許容している。人の役に立つものから人を害するものまで多種多様だが、かなりの数を一度に用意することだって可能なのだ。
壊すのも直すのも、魔術よりも現代技術の方がよほど便利になっているのが現状なのである。
将来的に魔術の存在も脅かされることになるかもしれないと感じながら、真理は技術の道に進むことに決めたのだ。
『康太君も今後、いろんな経験をすることになると思います。その中でご自分が感じたことをそのままに職業にするというのもいいかもしれませんよ?幸いにも私たちの周りには相談できるだけの人生の先輩が多くいますから』
「参考になるかは微妙ですけどね・・・特に約一名」
『あはは・・・確かに師匠はそういうのには不向きでしょうね。それに、将来のことであれば康太君のご両親にそういった話をしてみるのもいいかもしれませんよ?』
「うちの親に・・・?それは別にいいんじゃ・・・?」
康太の両親は魔術の使えない一般人だ。康太自身、魔術師として活動している自分の将来の話をするのに適しているとは思えなかった。
だからこそ康太は両親への相談は必要ないのではないかと思ったのだが、電話の向こう側の真理は康太の考えを否定した。
『康太君、あなたが魔術師であろうと精霊術師であろうと、かりにどのような存在になろうともあのお二方はあなたの親で、あなたはあのお二方の子供なんですよ?必要だとか必要ではないとかそういう話ではなく、相談するべきです』
「・・・そういうもんですか」
『そういうものです。親という立場からの意見もあるでしょう。それは康太君たちでないと話せないものです』
康太は自分の人生なのだから自分で決めるという考えが難しく、一番大事なことであるとわかっているが、自分の人生というのは良くも悪くも自分一人で形成されているわけではないのだ。
家族や友人、親戚や周りの人間に支えられ、そして支えることで成り立っている。それが人生というものだ。
相談する価値があるかないかで言えば、人によっては相談する必要も価値もないかもわからない。
だが相談するべきだと真理は言った。それは当たり前のことでもあり、意識しにくいことでもあるのだ。
『もちろん、康太君がいまだに反抗期で、親と話すどころか顔も見たくないというようなことであれば、少しは考慮しますが』
「いや、反抗期はたぶんとっくに終わってると思いますよ?っていうかたぶん俺には反抗期はなかったかと・・・」
康太の場合、姉の存在が大きすぎたために両親への反抗というものはほとんどといっていいほどになかった。
姉に対する不満を愚痴るくらいで、両親に対しては特にこれといって不満はなかったのである。
そう考えるとかなり灰汁の強い姉なのだが、そういえば姉はどのような職業に就くつもりなのだろうかとふと気になった。
康太の姉も大学に通っている。年齢的には就職をまじめに考え始める年齢だったはずである。
少し気になりながらも、あんな姉はブラック企業にでも勤めてしまえばいいのだと若干投げやりになりながら会話を戻すことにした。
「まぁ、暇を見て相談してみます・・・うちの親にこういうことを話すのって初めてな気がしますけど・・・」
『一つ注意ですが、魔術を使ってはいけませんよ?暗示の魔術とかはご法度です。一般人から意見を聞きたいときはそういうことも気をつけなければいけませんからね』
「了解です・・・ありがとうございます姉さん、すいません、休憩中に」
『構いませんよ、私もちょうどいい息抜きができました。では、魔術の活動もいいですが、勉強や学校での生活も頑張ってくださいね』
「はい、頑張ります」
生きていくうえで他者からの評価は必要になる。そういう中で普段の生活態度というのはかなり影響してくるものだ。
康太は真理の言葉をしっかりと反芻しながら、召喚の手を他に誰に借りようかと悩んでいた。




