精霊ガチャの闇
「なんかリセマラしてる気分だな・・・いったい何日かかるんだ・・・?」
「一日三回限定ガチャで好みの精霊を当てられる確率・・・何百分の一かしらね。何か月?いやもしかしたら年単位かかるかしら?」
「そんなに待ってられるか。お前らの時はどうしてたんだよ。何日も待ってたのか?」
何か月も何日も待っているようではいつまでたっても先に進めない。特に倉敷のような精霊術師の場合は精霊がいないと魔力を練ることもできない可能性があるのだ。
そんな状況では満足に修業すらできないだろう。
「倉敷は確か精霊との相性がよかったから弟子入りしたとか言ってたわね・・・あいつの場合は順序が逆か・・・私の場合は根気よく続けてたわよ?親や師匠に頼んでコツコツ召喚してもらってたし」
「あそっか、お前のところは親御さんの力も借りられるのか・・・効率二倍以上だな」
文の家は魔術師しかいない。父親も母親も魔術師であり、さらに言えば二人ともなかなかレベルの高い魔術師であるということは知っている。
父、母、そして師匠である春奈、三人が同時進行で精霊を召喚し続ければ確かに効率は良くなるだろう。
相変わらず環境に恵まれたやつだなと康太は眉をひそめていた。
「あんたのところは・・・師匠の時点であれだもんね・・・」
「あの人はたぶん召喚とかはできないだろうからな。壊すことしかできないから。姉さんなら何とか・・・っていうかそうだよ、姉さんも結構精霊を入れてたよ。あの人どうしたんだろ・・・?」
小百合はともかくとして、真理はあの環境にありながらまっとうな魔術師の道を歩んでいるように見える。
精霊も体内に内包しており、いつの間にそんなことをしていたのかと康太は不思議でもあったが、少なくとも現状においてもっとも気になる人物である。
「あの子の場合はいろんな人間に掛け合っていたようだがね。あの問題児が師匠ということもあって同情する人間も少なくはなかった。あの子がまだ幼かったころ、あいつがいろいろ問題を起こした時に必死に何とかしようとしているあの子を何人も見ているからね」
前支部長を再起不能にした時の事件などは協会の日本支部内部でも割と有名な話であるらしい。
小百合と前支部長が戦っているのを真理が必死になって止めようとし、小百合の兄弟子を探して協会内を駆け回っている姿を見ていたものも多かったのだという。
そのため真理に対しては比較的早い段階から同情の視線が強かったようだ。
康太のように支部に行った初日に大きく破壊行動を起こしているというわけではないのである。
「他の魔術師を頼るかぁ・・・俺には絶対にできない方法ですね。さすが姉さん」
「脅せばできるんじゃないの?あんたの場合結構警戒されてるみたいだし」
「脅してもいいけど、その分敵を作りそうでヤダ。それならコツコツ召喚してもらって何とかするわ。ということでお願いします」
「私に頼るのね・・・まぁいいけどさ・・・」
康太は精霊召喚の魔術は扱えない。そもそも魔力の継続放出という行為自体が苦手な康太では精霊召喚の魔術で消費する魔力をため込むのに何日かかるか分かったものではない。
さらに言えば康太は方陣術自体がまだ完璧に扱えているわけではない。そのため術式を教わっても発動すら危ぶまれるというのが現状なのだ。
そのために文を頼るほかないのである。
「少々邪道かもわからんが、誰かの精霊を譲ってもらうというのも一つの手かもしれないぞ?親族や似たタイプの魔術師なら波長が似ていれば精霊も同じような反応を示すことがある」
「・・・うちの家族は全員パンピーなんですよね」
「・・・あー・・・ではお前の兄弟弟子の中で精霊を入れている・・・いや、どちらもタイプが違うか・・・」
「神加なんかはたくさん精霊を入れてますけど・・・あの精霊たちは神加の専属ですからね・・・たぶん引っ越しはしてくれないかと」
神加のような優良物件(?)から出ていこうとする精霊がいればありがたいのだが、おそらくはそんな精霊はいないだろう。
間違いなく康太の体に引っ越すような奇特な精霊はいない。
誰かから譲ってもらうにしても、康太の周りには譲ってくれそうな魔術師そのものが非常に少ないのである。
「となるとやはりコツコツ召喚が一番か・・・まぁ精霊に関してはあまり期待しないほうがいいのかもしれんな。現時点でもかなりの強さを持っているわけだし」
「そりゃそうですけど、さらに強くなるために必要って考えれば・・・」
「それ以上強くなるとあのバカのように手に負えなくなってしまうぞ?いろんな意味でほどほどにしておいたほうがいい。もう若干手遅れな気がしなくもないがね」
魔術師になって一年と半年、その程度の時間で戦闘に特化した魔術師になってしまうほどに康太は努力してきた。
努力させられてきたというほうが正確かもわからないが、どちらにせよそれほどの力を持つことになった康太が今後さらに強くなっていくとなれば協会側も対応せざるを得なくなってしまう可能性は高い。
小百合のようにかなりの問題児扱いされるか、あるいは体よく使い潰されるかの二択を迫られるかもわからない。
今のところは日本支部支部長、そして副本部長というコネを有しているとはいえそれもいつまで続くかもわかったものではない。
なるべく謙虚に生きていたほうがいいなと、康太は小さく意気込む。もっともその謙虚さが実際に周りからどのように見られているのかは本人には分らないことなのだが。
「なぁアリス、召喚で効率よくいい精霊を引く方法ってないのか?」
「・・・効率?なんだゲームのリセマラの話か?」
康太の言い方にも問題があるのだが、この発言に対して即座にリセマラという言葉が出てくるあたりアリスもだいぶ現代に毒されてきているなと康太は眉をひそめていた。
「いや普通に精霊の話。新しい精霊を調達したいっていう風に考えてるんだけどさ、消費魔力とかも準備も馬鹿にならないじゃん?」
「あぁそういうことか。いったい何のゲームを始めたのかと思ったぞ」
「リセマラするほどはまってるのは基本はないよ。で?どうなんだ?」
精霊召喚に必要な魔力は文でさえもかなりの時間魔力注入が必要になってしまうほどだ。そのために一日にできる回数に限りがある。
何とかその数を増やして召喚の効率を上げたいと考え、アリスに知恵を借りに来たのである。
何百年も続いた精霊召喚。なのに一日一回程度しかできないような発動方式が正しいとは思えなかったのだ。
正確に言えばもう少し効率よくできる手段があると思っただけの話だ。
「精霊の召喚か・・・協会では昔何人もの魔術師が総出で召喚して、その召喚したものの中で一番相性のいいものに精霊を譲渡するというのがあったが・・・今はないのか?」
「ほう、そんな方法が・・・でもそれってあれだろ?基本的に方陣術ができることが最低条件だろ?」
「それはそうだろう。方陣術もできない魔術師が精霊を入れたところで持て余すだけだ。技術がないものに追加の力を持たせるくらいならまず基礎を学べということだの」
「・・・耳が痛い話です」
方陣術を壊すことならばまだしも、方陣術を発動するとなると康太はまだ自信がない。ようやく分解の魔術であれば方陣術にして発動できるようになったくらいだ。そんな状態で精霊の召喚などという魔術の方陣術が発動できるとは思えなかった。
何より康太の有している魔力には限りがある上に、魔力供給量が低いためそこまで魔力を注げない。
大勢の中に混じって召喚するというのはなかなか難しいのである。
「でも複数人で召喚を行うっていうのはいい考えかもしれないな。何も一人でやる必要はないかもしれない」
「うむ、まぁ召喚の方陣術を扱えるレベルの魔術師を集めなければならないがな。それか依頼でも出したらどうだ?精霊召喚できる魔術師の合同での召喚ということで」
「そうか・・・俺自身が依頼を出すっていうこともできるのか・・・なるほど、それは考えてなかったな」
今まで康太からすれば依頼は受けるものであったが、康太も魔術協会の魔術師である以上依頼を出すことだってできる。
今までも何度か破壊したものの回収や修繕や武器の作成を頼んだのも一種の依頼と取れなくもない。
そのため今回のこれも依頼という形で出せば何人かは手伝ってくれるのではないかと思えた。
「それに、こういう時にコネは使うものだろう?せっかく支部長などの太いパイプをつないであるのだ。多少わがままを言って専属魔術師十人くらい呼べば早く済むのではないのか?」
「そうか・・・その手があったか・・・!なるほど、頼んでみる価値はありそうだな・・・せっかく今までいろんな依頼を受けてきたことだし、多少のわがままくらいは許容して然るべきだよな!」
「・・・面倒な奴扱いされないように注意するのだぞ?というか今更だの。以前精霊を入れた段階で一緒に何体か入れてしまえばよかったものを」
「簡単にポンポン召喚できればそれでもいいんだけどさ、一日の発動回数に限りがあるし・・・何より文への負担がな・・・」
「なるほど・・・そういうことを考えるようになったか・・・よいよい、そういう気遣いは必要だ。なればこそ、協会の門をたたくがよい。一応あそこにはそういう制度の一つもあるだろう。フミに負担をかけたくないというのであれば、他の誰かを頼るほかあるまい」
「なんかアリスに相談したにしてはすごく平凡な回答だな。もうちょっと変なことを言うのかと思ってたけど」
「私を何だと思っているのだ・・・まぁいいたいことは少しわかるがの」
そういいながらアリスはため息をつきながら冷たい麦茶を飲みながら漫画のページをめくっていく。
「時にコータよ、どの精霊を入れるつもりなのだ?条件を出すにしても考えておく必要があるだろう」
どの精霊を入れるのか、その言葉に康太はどうしたものかと悩んでいた。
属性は火か風なのは間違いない。今の気持ち的には火の属性のほうが傾いている妥当かというところである。
「とりあえずは火属性を入れておこうかと思ってるよ。今のところ使用頻度が高いし」
「・・・あぁ、そういうことではない。属性だけではなく、どのレベル、どの種類の精霊を入れるのかと聞いているのだ」
どのレベルという言葉はさておき、どの種類の精霊かという言葉に康太は首をかしげてしまっていた。
精霊にそもそも種類があるのかという表情に、アリスはため息をつく。そのあたりから説明しなければならないのかというアリスのつぶやきに康太は少し申し訳なくなってしまっていた。
康太は精霊という存在に疎い。今まで一緒にいなかったからというのもあるが、かかわろうとしてこなかったというのが大きい。
これを機にきちんとした知識をつけておくのもいいだろうなと康太は姿勢を正していた。
「コータ、お前の中にある精霊の知識を教えてくれるか?」
「えっと・・・自然そのもの?自然の中に住んでて、その力の源みたいな・・・そんなイメージかな・・・あとは・・・人と精霊同士で好き嫌いがあるとか、かなり上位の精霊になると子供並の意識?が出てくるとか?」
自然現象の中に宿り、その力を発揮する、あるいは糧とする存在が精霊であると康太は認識していた。
その認識が正しいのかわからなかったため、康太は説明に困っていたが、アリスも康太が何を言いたいのかは何となく理解したのだろう。何度か頷いて康太の説明を止めさせる。
「大体あっておるな。認識としてならば間違っておらん。では精霊の種類について教えよう。属性だけではなく、精霊にはいくつか種類がある。といっても私が知っている限りのものであるため、他にももっと多くの種類があるかもしれんがの」
そういいながらアリスは近くにあったメモ帳とペンを念動力で手元に引き寄せると、メモにいくつかの円を書いていく。
「まずコータが認識している自然界、所謂現象に根ざしている精霊たちだ。火や風、水、氷、光、雷、そういった現象の力を利用、あるいは糧としている存在が現象精霊と呼ばれる存在だな。コータのイメージは一般的にはこれだ」
「うん、普通の精霊ってイメージ。これ以外にもいるんだろ?」
「あぁ、こっちは似ているのだが、少々条件が異なる。現象ではなく、その場所そのものを糧としている存在だ」
「・・・場所?地縛霊的な?」
「似ているが全く違う。例えばそうだな・・・大きな水のうねりを想像してくれ。海でも川でも滝でもいい。そこにある水の動きは現象の一つだが、そこには場所としての力も持っている。川であればその流れは一方的で、滝であればその勢いは激しく、海であれば大きいだろう?」
「・・・うん・・・何となくは」
水は地形によってその動きを大きく変えるものだ。
そのため地形によっては人を殺しかねない威力を有する場合がある。単純な現象でありながら、地形的な意味合いと違いを持つのが水の特徴ともいえる。
「場所によって力は変わる。風も水も雷も火も光も、その場所そのものによって精霊の力や効果が変わってくるといえばわかりやすいか。そういった種類が存在しているのが場所そのものに存在している力を糧としている精霊たちだ」
「・・・んん?」
「イメージしにくいか・・・どういえばいいか・・・説明が難しいな」
アリスはなるべく言葉を選び、康太にも理解しやすいように説明しているつもりなのだが、康太は理解が追い付かないのか首をかしげて疑問符を大量に飛ばしている。
どうしてもわかりにくいのは自分が精霊の知識を正しく入れていないのが原因だろうかと康太は考えていた。
「精霊によっても専門的な分野が変わると思えばいい。場所にも属性的な意味合いが存在しているため、それを糧としているかどうかが変わるだけだ」
「・・・えっと・・・場所それぞれに、それぞれの属性の力があって、その属性の力を糧にしてるっていう認識でオッケー?」
「大体あってる。よし、では現象、場所と説明してきたところで、次は生き物を糧としている精霊を例に出していこう」
「え・・・生き物を糧にする精霊?それって憑依とかそういう感じ?」
「んー・・・正確ではないな。康太も使っている肉体強化の魔術にいくつか属性の違いがあるのは知っているか?」
「あぁ、火属性なら筋肉とか臓器の機能を、風属性なら感覚器官、土なら骨だっけ・・・水は血?」
「そうだ、そうやって肉体そのものにもいくつもの属性の要素が含まれている。精霊たちはそういった肉体に含まれているそれぞれの要素を糧にし、また力に変えている。人間の中で時折ものすごい力を発揮することがあるだろう?火事場の馬鹿力という奴だが、そういうのは精霊たちが無意識に力を貸している場合が多いのだ」
アリスの説明に康太はそうだったのかと素直に感心してしまっていた。自分の体の中に宿っている精霊はまったく力を貸そうとしないのに、ただ糧としてもらっているだけなのに力を貸すとはなかなかに殊勝な精霊たちだなと。
「だがこの精霊たちは各生命に宿っているものが多いため力そのものはそこまで高くはない。所謂下級精霊などだな・・・先に挙げた現象、場所は、まぁ条件にもよるが、たいていは中級程度のものだと思ってくれ」
「ふむふむ・・・じゃあいわゆる上級は?どんな精霊がいるんだ?」
「うむ・・・これに関しては私も数える程度しか会ったことがないがな・・・いわゆる概念的な精霊というべきか」
「概念的・・・どういうこと?」
「うむ、現象や場所、生き物、それらすべてをひっくるめて糧としている存在とでもいえばいいか・・・規模そのものが違うということもあって出力も性能もけた違いだな。ゲームなどに出てくる四大精霊などがこれに該当すると思ってくれ」
「おぉ・・・なんかすごそう・・・じゃあ生き物、現象、場所、概念の順に強くなっていくって感じか」
「現象と場所に関しては多少前後するがの。まぁ大体そんな感じだ。他にも私の知らない精霊もいるかもしれんが・・・今のところ、私の研究で分かったのはこれだけだ。といっても精霊たちに教えてもらったことも多いため嘘を交えられている可能性もあるがな」
長年魔術師をやっていて暇だったからこういうことも調べていたのだろう。良くも悪くもアリスらしいなと康太は感心していた。
「ちなみに、俺が使う魔術であればどんな精霊が合いそうだ?」
「先にもいったが、精霊も相性が個体ごとにあるから何とも言えんが・・・コータの場合、属性魔術であれば現象系の魔術を主に使うだろう?現象を元にした精霊のほうが合うとは思うぞ?」
精霊の種類によって発動する術の合う合わないが決まるのであれば、精霊もある程度吟味したほうがいい。
問題はアリス以外の魔術師がこの精霊の違いに気付いているかどうかという点である。
「アリスから見て、神加の中にいる精霊はどのタイプだ?」
「ん・・・かなり強いものから弱いものまでより取り見取りといったところか。上位から下位までありとあらゆる精霊が内包されているように見える。あの子の中がどうなっているのか一度本気で解析してみたいが・・・」
「神加に危ないことはさせるなよ?」
「いや、この場合むしろ危ないのは私の方だな・・・想像してみろ、自分が守っている子供の大事なところを覗こうとしている不審者がいたら、親としたらどう思う?」
「・・・そりゃ警察呼ぶよな。一発で通報案件だ」
「その通り。精霊には通報なんてことは考えないだろうから、どのような手段を使ってでも私を撃退する可能性が高い。防衛本能の高さが、同時に私への攻撃につながる」
「過保護な保護者がいると仲良くなるのも一苦労ですな」
「本当にな・・・あの子の場合は事情が事情だ。少々過保護くらいでちょうどいいような気もするがの」
見た目的にはアリスも保護される側の人間なのだが、彼女の場合外見と中身が一致していない。
もっとも神加も外見とその性質は一致していないために、危ないと言えば危ない。どちらかというと本人もそうだが、それを狙おうとする周りが危ない目に遭いそうである。
「精霊に関しては協会を頼るか・・・何人くらい集まってくれるかな?」
「それはお前の依頼内容次第だろう。精霊の召喚を何人で行うか、どのように行うかによっても集まり方は変わる。精霊召喚を行えるだけの人種を集めなければいけないのだ。多少値は張るだろうな」
「何度もはできないってことか・・・なおさら敷居が高くなるなぁ・・・」
「・・・マリやフミが合同で行うのはどうだ?マリも精霊召喚くらいはできるだろう?二人で行えばおそらくかなり短時間で召喚が行えるのではないか?」
文が全力で魔力を注いで一日三回であれば、真理が手伝えばそれを倍、あるいは少し回数を増やすことくらいはできるかもしれない。
だが康太としては真理に頼るのはなるべく遠慮しておきたいところだった。
「姉さんに頼むのもいいんだけどさ・・・今姉さん忙しそうじゃん?丸一日拘束するのは申し訳ないんだよ。それに二人じゃそんなに時間短縮にもならないだろ?」
「・・・なるほど、二人だけでは確かに短縮にはならんな」
そういいながらアリスはちらちらと康太の方を見ながらさりげなく胸を張っている。まるで私はここにいますよというアピールをしているかのようだった。
「・・・なに?アリスも手伝ってくれるわけ?」
「ふふん・・・まぁ私は暇だから・・・もとい実力があるからな。お前がどうしてもというのであれば手伝ってやらんでもない」
手伝いたいのかと康太は内心あきれる。素直に手伝ってやろうかとか、手伝わせろとか言えばいいのにそれができないのがアリスだ。
相変わらず面倒くさい性格をしていると思いながらも、康太は自分の周りで実際どれくらいの人員が集まるのかをまじめに考えてみる。
文は問題なく、真理はスケジュールを合わせれば一日くらいは付き合ってくれそうである。アリスはいつも暇なのでいつでもよい。
あと集められそうな人員といえば、春奈と奏、幸彦といったところだろうか。完全にほぼ身内だけで固められているが数えられるだけでも六人。文が一日三回が限度ということもあって六人がかりでやれば一日で十八回、それぞれの素質の問題もあるため一日で十五回前後の発動が可能だと考えるべきだろう。
素質が高い人間がいればそれだけ楽になるかもしれないなと考えて、康太はふと思い出す。
「そういえば土御門の二人って召喚の術は使えるのかな?」
「ん・・・どうだろうな・・・まぁあの二人は結構細かなところまで魔力を扱えているようだし、問題はないと思うが・・・」
今まで温室育ちをしていたということもあって、土御門の双子は細やかな魔力の調整や操作はかなり得意としていた。
文が普通に召喚の魔術を発動できているところから鑑みても、土御門の双子が精霊召喚を行えても何ら不思議はない。
逆に言えば、普通に子供のころから魔術の訓練をしていれば普通に使えるレベルの術なのだともいえる。
それが使えない康太は少しだけ情けなくなっていた。
「・・・ちょっと聞いてみるか。もし使えるようなら巻き込もう。あいつら素質に関しては文以上だし」
実力はともかく、あの双子の素質は文のそれを超えるほどのものを持っている。単純に消費魔力が多い召喚の魔術を発動するためには、その素質こそが重要になってくる。
仮にも土御門の秘蔵っ子として育てられているのだから方陣術の類の技術があってもおかしくはない。
聞いてみて損はないだろうと、康太はとりあえず地下で小百合と訓練をしている土御門の双子のもとに向かうことにした。
「というわけなんだけど、お前らって精霊の召喚とかできるか?」
小百合にいつも通りの如くボコボコにされて倒れている晴を起こして、康太はさっそくそんなことを聞いていた。
いきなり話をされた晴は混乱していたが、もはやこのやり取りもいつも通りだなと思いながらとりあえず答えることにした。
「えっと・・・一応できますよ?何度かチャレンジしたことはあります・・・俺も明も自分の精霊は自分で召喚しろって言われて家族と一緒に召喚してました」
「なるほど、さすがはエリート。周りにそういうのがいると便利だな・・・ちなみに一人だと一日に何回くらい発動できる?」
「んー・・・えっと・・・一日ずっと魔力を注いで・・・三回・・・ってところだと思います。でもどうしてです?」
「いやな、今度新しく精霊でも召喚しようと思っててさ。その手伝いが欲しかったんだよ。俺がいれる火属性の精霊」
「へぇ・・・ていうか先輩精霊入れてなかったんですか?」
「入れてるには入れてるんだけど・・・ちょっと役に立たない精霊でな。今のところ引きこもりのニートなんだよ・・・うちの子は頑張ればできる子だと思うんだけど・・・」
なんだかまるで母親のようなことを言うんだなと晴は眉をひそめながら小百合と戦い続けている、というか徹底的に攻撃され続けている明の方を見て小さくうなずく。
「俺らにお手伝いできることならいくらでも手伝いますよ。たまにはそういう日があってもいいと思いますし」
「・・・あぁ、そうだよな。ほぼ毎日師匠の相手をするのはつらいよな?」
「・・・わかっていただけるとありがたいです」
土御門の双子は時間の許す限り、ほぼ毎日のように小百合のもとを訪れている。そして毎回毎回やられ続けている。
そんな毎日を繰り返していれば体だけではなく心も摩耗してしまうのだろう。たまには休みが必要だと考えたのだ。
康太もその気持ちがわかるだけに涙をこらえながら小さく何度もうなずいていた。
「じゃあ二人分魔力追加できると・・・ありがたいありがたい。これで発動効率もよくなるってもんだ」
「今何人くらい集まってるんですか?」
「えっと・・・文とアリス、それにお前らで四人だな。他にもいろいろ声かけてみるつもりだけど・・・たぶんこの四人がベースになると思う」
「あれ?先輩は?」
「俺方陣術まだほとんど使えないんですよ。すいませんね未熟で」
戦闘能力に特化しすぎている康太は、未だ方陣術を完璧に扱えるほどの実力はない。
一番得意な分解の魔術でようやく発動にこぎつけたくらいなのだ。だがそれもかなり効率が悪い。
練度が足りなすぎるのと、方陣術の描き方が下手すぎて話にならないレベルなのだ。
今回必要なのは魔力を注ぎ込むだけなのだが、康太の場合それすらもたまに失敗する。そもそも素質が重要になってくる精霊召喚では、康太の魔力などはっきり言ってあってないようなものである。
「真理さんは?あの人なら間違いなくできると思ったんすけど」
「姉さんは今就職活動やら大学の卒論のほうが忙しくてな・・・一日時間を空けられるかは微妙なところなんだよ・・・文の師匠やら、師匠の兄弟子やらにも一応声をかけようと思ったんだけど・・・あの人たちも忙しそうだから・・・」
「あぁ・・・そうですか・・・そうなると・・・大体十二回召喚できるくらいですかね?」
「姉さんがいればもう少し増えるかもな。それだけガチャができればなんか来るだろ」
「いやいや、先輩、精霊ガチャをなめちゃいけませんよ。何回も何回も何回もやって全然来ないってことよくありますから。俺なんか丸三カ月くらいかかりましたからね?」
「・・・三カ月って・・・身内に手伝ってもらって、ほぼ毎日やって?」
「そうです。明は割と早く済んだので一カ月くらいでしたけど・・・三カ月・・・一日何回召喚できたかな・・・?確か五十回くらい召喚してたと思います」
一日五十回召喚し、それを三カ月続ける。単純計算で四千五百回は精霊を召喚したということになる。
精霊ガチャなどという言葉は適当に言ったのだが、実際それぐらい召喚しなければならないとなると恐ろしい日数がかかりそうである。
「四千回以上とか・・・気が遠くなるな」
「まぁ、俺らの場合は精霊を厳選しましたからね。そういうのもあって時間かかりましたけど、先輩の場合は相性が良ければいいんですよね?」
「あぁ、火属性で相性がいい精霊であればもう何でもいいかなって。多少魔力供給の手伝いをしてくれればいい程度にしか考えてないから」
「それならもう少し早く終わると思いますよ?ほら、俺らは星五の中でも欲しいキャラを厳選したけど、先輩は火属性で星三以上なら何でもいいやで済んでるみたいな、そんな感じです」
「あぁわかりやすい。すごくわかりやすい。なるほど、そういわれると少し気が楽になるな。出そうな気になってくる」
それでも出てくる可能性はかなり低いのだが、前者に比べれば後者はまだ出るんじゃないかなという気になってくる。
ガチャという日本の悪しき風習がまさか魔術の世界にも浸透していようとは思わなかっただけに、少しだけ複雑な気分になっていた。
もっとも精霊召喚のほうが歴史は古いのだろうが、そのあたりはご愛嬌といったところである。
誤字報告を20件分受けたので五回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




