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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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鉛のような金言

「せっかく精霊入れてるのに放置してるのはもったいないよな。鐘子とか雷属性得意だろ?教えてやればいいじゃん」


「教えろって簡単にいうけどね、こればっかりは本人の相性の問題なのよ?そもそも康太は雷属性の適性が御世辞にも高いとは言えないし・・・」


康太の適性は無属性が最も高く、次点で風属性、その次に火属性と続く。雷属性ははっきり言って才能がないレベルだ。


いくら精霊を宿しているとはいってもその才能がない部分を無理に伸ばすよりは他の適性のある魔術を覚えていったほうが有意義というのは理解できる。


魔力を自動供給してくれる精霊がいるのであれば、一つくらいは雷属性の魔術を覚えておいても損はないかもしれなかったが、残念ながらその精霊も魔力を供給してくれないとなると雷属性を覚えるメリットがあまりないのである。


「適性があれば積極的に覚えたいんだけどな・・・文が得意だからいろいろとコツとかも聞けるかもだし」


「人によって感覚とかは違うからあんまり他人にアドバイスをもらうっていうのもよくないわよ?まぁ自己責任で聞く分には構わないけどさ」


文の言うように魔術を扱う感覚や魔力を作る感覚というのは人によって微妙に違うものだ。


そのために他人にアドバイスを受けて先入観を受けてしまうとずっと正しく魔力を作れなくなる可能性がある。


結局のところ誰かの力を借りて強引に術式を発動してもらうのが一番手っ取り早いのである。


「ちなみに、雷属性で近接戦で役立つような魔術はありますか?エンチャントの魔術とかは文も使ってますけど」


「ん・・・そうだな・・・近接戦で役立つ雷属性・・・となると放電や帯電の魔術だろうか。自分の体を中心に電気を放つ、あるいは纏う魔術だ。効果範囲が狭い分、扱いにくいが威力は出しやすい」


「あ、たぶん帯電の魔術の派生を私が使ってますね」


文がよく使っている魔術は自らの周りに強力な電撃を発生させるものだ。射程距離が短い代わりに高い威力を出しやすいその魔術に、水属性の魔術を合わせることで射程を強引に延ばすのが文のやり方である。


「近接戦で仮に空振りしても、電撃を放つことができるのであれば相手の動きを止めやすい。相手の動きさえ止めてしまえばあとは一方的に殴るだけだ。そういう意味では康太向きの魔術なんだが・・・適性がないのが痛いな」


「そうですね・・・適性があればかなりありがたかったんですけど・・・なかなかうまくいかないもんです」


康太が雷属性の魔術を覚えていれば、それこそ少し近づいただけで相手の動きを止めることができてしまう。


動かない相手など康太からすればサンドバック同然だ。そう考えると雷属性の適性がなかったことはある意味良かったのかもしれないなと文は考えていた。


「精霊に関しては今は置いておくことにするか・・・少なくとも他人がどうこうできる問題ではない以上、口出ししても仕方がないだろう。雷属性の魔術を覚えることに関しても、他の魔術を学ぶメリットと比較して覚える必要がないと思ったのなら覚える必要はない」


「そうなるとその精霊を追い出す方法考えないとね・・・下手にそのまま居続けると、あんた別の精霊をすごく入れにくくなるわよ?」


「あ、そっか、精霊同士でも相性とかあるんだっけか」


「そうそう・・・人を選ぶだけじゃなくて精霊同士でも相性があるから、仮にあんたの精霊がすごく人を選ぶ・・・もとい精霊を選ぶタイプだったらほかの精霊は入れられないもの」


「おいおい、ただでさえ素質面で劣ってるのに精霊でブーストすることもできないとかどういうことだよ。縛りプレイかなんかか?」


「人生縛りプレイ。その割には随分と好き勝手やってるけどな」


康太のように素質面でいろいろと不便をしている魔術師はその分精霊などを宿して素質を補おうとする。


康太もいくつか属性魔術を覚えてきたため、そろそろ精霊でも入れていいかもしれないなと考えていた時に今の雷属性の精霊に出会った。


これが役に立ってくれたのならよかったのだが、今はただの居候ニート状態だ。家賃も払わない居候にいつまでもいてもらうのは正直よろしい状態とは言えない。


「奏さん、精霊を無理やり体から追い出す方法ってないんですか?」


「んー・・・精霊を無理やり入れる方法ならいくつか知っているんだがな・・・そういうことならアリスに助言を求めたらどうだ?あいつのほうがこういうことには詳しいだろう」


康太たちのように数十年も生きていないような人間よりも、何百年も生きているアリスの方がよほど知識が豊富だ。


特に魔術関係の知識に関しては世界で一番といっても過言ではない。


こういう時にアリスを頼るべきなのだとわかっていても、康太と文はあまりアリスに頼るというのはしたくなかった。


「んと・・・それもいいんですけど・・・」


「アリスに聞くのは最終手段にしたいんですよね・・・可能な限り」


「・・・ふむ・・・お前たちの言い分は何となくわかるが・・・まぁいいだろう。そのうち時間があるときにでも聞いておけ。おそらく神加のことで精霊に関してはいろいろ手を打たなければならない時が来るだろうからな」


神加の中には大量の精霊が宿っている。今後もあのままなのであれば何かしらの弊害が生じる可能性はある。


今の内から精霊のことには詳しくなっていて損はない。そういうことだろう。


「さて・・・随分と話し込んでしまったな・・・仕事に取り掛かるか」


「とりあえず大まかにはまとめておきました。奏さんに確認してほしい書類はこっちになります」


「こっちは奏さんじゃなくても確認できそうなものです。あとこっちがこちらの企画書で用意するべきものです。確認しておいてください」


倉敷と奏が戦っている間、ずっと仕事をしていた康太と文は奏の机の上に書類をまとめておく。

いつの間にかこんなにやっていたのかと奏は目を丸くすると同時に小さくため息をつく。


「書類が積み上がっているのを見ると仕事が増えた気すらするな・・・実際のところは減っているんだろうが」


「確認作業だけは奏さんにやってもらわないといけないんで、ここはお願いします。少し休憩してからでいいので」


「こいつとの戦闘で多少集中力を使ったでしょうから、休んでからでもいいですよ?」


「いや、十分気晴らしにはなった。やはり時折こうして気を抜かないとダメになってしまうな」


どんな人間にだって息抜きといのは必ず必要になる。特に奏のように責任の重い仕事をやっていればなおさらだ。


いくら奏本人が休みを取りたがらない、というかとれないとはいえ、ちょっとした時間に息抜きくらいしなければ本人の言うようにダメになってしまうだろう。


「お前らっていつもこんなことしてるのか?」


「バイトみたいなものよ。たいてい片方が訓練つけてもらって片方が仕事してって感じかしら。仕事量と奏さんの体調によっては二人とも仕事に回るけどね」


「本当に助かっているよ。このままうちに勤めてほしいくらいだ」


「きちんとした学歴はほしいので大学には通わせてください。はい、コーヒーです。あとで食事も作りますんでしばらく確認しながら待っていてください」


「すまんな・・・ところで最近幸彦と一緒に行動することが多くなってきているそうだが、あいつはどうだ?どんな感じだ?」


どんな感じという抽象的な質問に、康太と文は顔を見合わせて首をかしげてしまう。どんな感じと聞かれてもいつも通りの幸彦としか言いようがないために返答がしにくかった。


「どんな感じ・・・って言われても普通ですよ?戦闘が多いせいか少しテンションが高いですけど」


「あとはあれですね、歳を取ったとか言ってました。複数相手にして倒しきれなかったって嘆いてましたよ」


「はは・・・なるほど、あいつらしい」


奏は乾いた笑みを浮かべながら文の淹れたコーヒーをゆっくりと飲んでいく。香りと味を楽しみながら、その笑みは穏やかなものになっていた。


「幸彦さんの昔ってどんな感じだったんですか?師匠は昔からあんな感じだったって聞いたことありますけど」


「ん?そうだな・・・自己評価は低い方だったな。少なくとも自分で自分を褒めるということはしない奴だった。自分のできることだけをやるという印象だ・・・だがそうか、少しずつあいつも老いているということか」


幸彦が複数人の魔術師を相手にして倒しきれなかったという証言に、奏は目を細めて小さくため息をつく。


奏からすれば何かしら思うところはあるのだろう。かつての幸彦の強さを知っているが故か、それとも兄弟子であるが故か、どちらかはわからないが少なくとも幸彦の努力を知っている者としては複雑な心境であるらしい。


「老いているって言っても幸彦さんも奏さんもそこまで年齢高くないでしょう?そんなに変わるものですか?」


「変わる。三十代を超えてからは一気に変わるぞ。体は動きが鈍くなるし、何より反応速度が落ちる。戦闘においては致命的な違いだ。あいつの場合比較的魔術師としての活動は多かったからそこまで落ちてはいないだろうが・・・私の場合は少々顕著かもしれんな」


「あぁ・・・奏さんほとんど魔術師としての活動してませんもんね」


「たまに縄張りに入ってくる馬鹿どもを追い払う程度だ。逆に言えばその程度しかできていない・・・どちらが本職なのかと聞かれると少し反応に困るくらいだ」


本職。奏の本職は社長職か、それとも魔術師なのか。どちらかというと社長職のほうが奏には合っているようにも思えた。


だが同時に魔術師であることも非常に似合っているのだ。高い技術と才能、そして積み重ねた努力は嘘をつかない。


そういう意味ではどちらが本職でもよいのだろうが、奏としてはどちらを本職というべきなのか悩んでいるらしい。


康太たちのように学生であればどちらが本職などということは悩まずに済んだのかもしれないが、社会人となるとこういうことにも悩むのだろう。


結局のところどちらを優先するかという話になるのだ。魔術師としての自分か、一般人、社会人としての自分か。


立場があり、責任がある奏はどうしても一般人としても自分自身を捨てきれない。だからこそ魔術師としての活動よりも社長としての仕事を優先してしまう。


だがそれもまた一つの形であり、決して間違いではない。本人が選んだことなのだからだれにも否定することはできないのだ。


できるとすればそれは選び抜いた本人だけである。


「お前たちが将来どのような仕事に就くかはわからんが、プライベートはしっかりと取れる仕事に就いたほうがいいぞ?魔術師として活動するにしても、家庭を持つにしても、休みが取れるというのは重要だ」


まるで鉛のような重さを持った言葉に、康太と文、そして倉敷は苦笑いしながら頷くほかなかった。

奏の生活を見ているため、その言葉の意味と重さは嫌というほど知っているのである。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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