康太の中の居候
「そういえば康太、お前以前に精霊を宿していたな」
「え?あぁあの物件で一応・・・雷属性のやつです」
「あれから何か進展はあったのか?妙な状態になっていたのは覚えているが」
康太が曰く付き物件から回収してきた精霊は、普通の精霊の状態とは異なり宿主に強烈な影響を及ぼすほどに変異してしまっていた。
最初こそ唐突に泣き出すなどの行動が見られたものの、最近はそういった症状は見られない。
さすがの精霊もようやく元に戻りつつあるということだろう。
「一応、最近は妙な行動もなくなってきたんですけど・・・相変わらず意思疎通ができないというか・・・何考えてるかわからないというか・・・」
「ふむ・・・せっかく雷属性の精霊を入れているのだから、雷属性の魔術の一つも覚えたらどうだ?」
「そうしたいのはやまやまなんですけど・・・そもそも雷属性の魔力がまだ作り出せてないんですよ?最初は精霊に頼んで魔力を供給してもらおうとか考えてたんですけど・・・一向に反応がなくて」
康太は今まで何度も精霊と意思疎通をしようと試みてきた。デビットとするときのような感覚になってしまうが、それでも少しでも精霊に力を借りようとしてきたのである。
もっとも、それらは全く意味をなさなかった。
自分の体の中にしっかりと存在を確認できているというのに、その存在がいったい何を考えているのかさっぱりわからないのだ。
デビットも基本何を考えているかわからないが、少なくともその力の片鱗であるDの慟哭は扱えている。
そもそも精霊とデビットを同一のものであると考えていること自体が間違いなのかもわからないが。
「ふむ・・・たいてい精霊は体内にいれば感情などが読み取れるものなんだが・・・そういったこともないのか?」
「ないですね。そもそもこいつに感情があるのかすら不明です。なんていうか・・・いるんだけどいないのと一緒みたいな」
「・・・文、君の意見を聞きたい。現場にいた君なら少しいい意見が聞けるかもしれん」
急に話を振られた文はどう答えたものかと悩んでいるが、康太の方を一瞬見てから小さく首を横に振る。
「私もわかりません。せめて康太の中にいる精霊を私の中に入れてみればその意味とか状況がわかるのかもしれませんけど・・・康太とその精霊はかなり親和性そのものは高まってるらしくて、出てこないらしいんですよ」
「そうなんです。出て行けって考えても全然で・・・」
「・・・良くも悪くも気に入られたということか・・・だがそれならそれで反応がありそうなものなんだがな・・・倉敷、君はどう思う?」
「・・・普通の精霊じゃないっていうのが俺にはよくわからなかったんですけど、どういうことなんですか?」
「あぁ、所謂悪霊もどきになっていた精霊だ。強い人間の意志に中てられて、存在が変異してしまっていた精霊らしい。アリスに言わせるとらしいがな」
アリスの名前が出てきたことでなるほどなと倉敷は小さくつぶやいて状況を理解したのか康太の方を見る。
雷属性の精霊を身に宿しているといいながら、今まで雷属性の魔術を使ってこなかった理由がようやく理解できたために倉敷は納得すると同時に疑問符を飛ばしていた。
「普通精霊だったら住処を提供されると恩返しみたいなものをしようとするんですけどね・・・住まわせてもらってるしお返しするぜ的な」
「お前の精霊ってそんなに義理堅いのか。うちのとは偉い違いだな。ずっと住んでるくせにうんともすんとも言わないんだけど」
「それが変なんだよ。普通は反応するもんなんだって。ていうか本当にお前の中に精霊がいるのかも怪しいぞそれ」
「いるんだって、本当に。神加・・・俺の弟弟子に聞くと間違いなくいるっていうんだよ。俺も存在は感じてるし」
神加のように精霊に特化した感知能力を持っている人間が言うのだから康太の錯覚ではないのだろうということは確信を持って言える。
問題なのは存在しているにもかかわらずコンタクトがとれないという点である。いっそのこといなくなってくれたら楽なのだが、いつまでたっても居座られているためにどうしたものか対応にも困ってしまうのだ。
「家賃払わずに住んでるようなもんなんだから追い出せばいいじゃんか・・・って言ってもダメなのか。反応してくれないんだもんな」
「そういうこと。大家の言うことなんて全く聞いてくれないんだようちの子は・・・っていうか聞こえてるかどうかも怪しい」
「まだその変異が完全には修復されていないと思うべきなのか・・・それとも何か別の原因があるのか」
「・・・別の原因って言われるとこいつが真っ先に浮かびますけどね・・・異物中の異物ですし」
そういって康太は体の中から黒い瘴気を噴出させる。確かに精霊でもなく魔術ともいいがたく、人間ではない存在であるデビットは異物中の異物といえるだろう。
そんな存在を体内にずっと内包し続けている康太も康太だが、それが原因と言われると微妙なところである。
「他の普通の精霊を入れた時のことを思い出してみれば原因がつかめるかもね。今まで何度か入れたことあるけど、あの時はどんな感じだったの?」
「違和感が強かったことしか覚えてない。いきなり全部を理解しろってのは無理だよ」
康太の言葉にまぁそうだろうなとその場にいた全員が納得してしまう。全員何かしら思うところがあるのだろう。しみじみとうなずいていた。




