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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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水を吸い寄せ

「どんな魔術なんだ?」


「簡単に言えば、特定の場所の水分を吸い取る魔術ね。原理的には・・・圧力が極端に低い部分を作り出して、そこに水分を強制的に集めるっていえばわかりやすい?」


「・・・スポイトみたいな感じか?」


「んー・・・微妙に違うけどだいたいそういう感じ」


文の説明では理解しきれなかった康太が術式を解析してみると、その詳細を理解することができる。


分類としては水属性の射撃系に属しており、文の言うように極端に水分や水の圧力が低い球体、外見的には泡のようなものを作り出し、直撃した物体の水分をその泡の中に強制的に吸い寄せる。


結果的に、直撃した物体に水分があれば、その水分を吸い取って泡の中にため込むことが可能になる。


水分がなければ泡に触れても何の変化も起きないという、少々特殊な条件を持った魔術のようだった。


「これってさ、人間に・・・ていうか生き物に直撃した場合どうなるんだ?一気にミイラ化するわけ?」


「だから危険だといったんだ。この魔術は生き物にとってはかなり危険なものになる。もっとも練度が低い状態、ないし出力が低い状態であればそこまで露骨な効果を発揮することはない・・・そうだな・・・一度見せたほうがわかりやすいか」


そういって奏は手のひらに泡のようなものを作り出し、それを近くにあった観葉植物に向けて放つ。


速度自体はそこまではない。軽くキャッチボールをするときの速度程度だ。時速に換算にすると四~五十キロ程度だろうか。


泡が直撃した観葉植物は、直撃した部分の水分を奪われ一気に枯れたように干からびてしまう。


長時間水を与えていなかった状態に近い。そしてその逆に、泡の中には観葉植物の葉から奪い取った水分がたまっていた。


そこまで大した量ではないが、こうもわかりやすく見せられては、この魔術が危険であるということは容易に理解できた。


「未熟なものが使えば、まぁ人体に当たっても乾燥肌やドライアイになる程度で済むだろうが、技術力があるものが使えば、間違いなく人を殺せるだけの術になる。本当に危険な魔術だ」


乾燥肌やドライアイというと、発揮される効果が微妙なように思われるかもしれないが、それは未熟なものが扱った場合に限られる。


倉敷のように水属性に特化した精霊術師がこの術を練習していけば、間違いなく高い攻撃性を秘めた術となるだろう。


「問題は弾速が遅いこと、そして物体に当たるだけで効果を及ぼすということだ。つまりちょっとした物体を壁代わりにしておけばそれだけで防ぐことができる。障壁などを展開すれば簡単に防げるだろうな」


「じゃあ人体用の攻撃ってことで、障壁や防壁用の攻撃じゃないってことですね?」


「そういうことだ・・・次に利点・・・同時に欠点にもなるんだが・・・これは風の影響を強く受ける。泡のような術であるため、このように風の魔術で自由自在に方向を変えることが可能だ」


奏は再び作り出した泡を、自らが発動する風の魔術で操っていく。シャボン玉のように風に乗ってふわふわと飛翔する泡を見ながら、康太はとりあえずシャーペンでその泡をつついてみた。


泡は一瞬シャーペンに触れたかと思うとわずかに震える。だがそれ以上何の反応も示さなかった。


「あぁ、別に触れても壊れるわけじゃないんですね」


「もちろんだ。壊れる条件としては、形成している膜を破壊できるだけの威力を持った攻撃をすること、泡の容量を超えるだけの水分を与えること、術者本人が泡を破壊するように意識することなどなどだ」


膜がどの程度の強度があるのか気になった康太は、再現の魔術で試してみることにした。


拳の殴打を再現して泡を殴るが、泡は弾かれるだけで割れることはなかった。次にナイフの斬撃を再現してみると、今度は弾かれず、泡は割れてしまった。


「打撃にはある程度強くて、斬撃には弱いって感じですか」


「まぁ泡だからな。風船のようなものだと思ってくれればいい。あとこの泡そのものも水分でできているため炎や冷気などに非常に弱い。留意しておけ」


「・・・なかなかいい術を教えてもらえたんじゃない?使い勝手がいいかはともかく、相手が威力を知れば間違いなく警戒するレベルの術よ?」


「そうだな。あとはどれだけ練度を高められるかってところか・・・ついでに言うと障壁を破るような術も知りたかったけど・・・」


「贅沢な奴だな・・・奏さんから教われるってだけで恵まれてるってのに」


「わかってるって、障壁を壊すような術は自分で何とかするよ・・・今のところは水圧カッターが一番の攻撃手段かなぁ・・・」


対人用の術としてはかなり有用な術とはいえ、相手の防壁を破ることができない以上攻撃手段が増えたとはいいがたい。


今後の課題ともいえるだろうが、倉敷にもまだまだ課題が山積みになってしまっているようだった。


それを見ている康太や文ももちろん課題が山積みになっているのだが、それはある意味仕方がないことなのかもわからない。


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