奏の評価
「もう一度言うが、見事なものだ。同じ属性でここまで苦戦させられたのは実に久方ぶりだった・・・水属性の打ち合いでは間違いなく私より実力は上だろう」
「ほぉ・・・奏さんのお墨付きとは・・・倉敷やるなぁ」
「大したものね・・・いい勝負だったわ」
「あのままやってたら負けてただろうけどな・・・一つの属性で勝っただけじゃあんまり誇れないよ」
倉敷自身はありとあらゆる属性を水属性の術で攻略するつもりだったのだろうが、完全に凍らされてしまっては取れる手段は激減してしまう。
あのまま戦いを続けていたら間違いなく負けていたであろうことは容易に想像できていた。そのためあまり素直に喜ぶことはできないようだった。
「同じ魔術師でも私と同じ属性を使って競り勝つことができるものなどそういない。誇りなさい、水属性に関しては君の実力は支部の中でもトップクラスだ」
支部の中でもトップクラス。倉敷からすればかなりうれしい言葉なのだろうが、康太からすれば少し引っかかる言い回しでもあった。
「本部にはこれ以上の使い手がいるってことですか?」
「あぁ、師匠の世代だが、すごい人がいたのを覚えている。私は直接戦ったことはないが、あの人ほどの実力になれば世界の中でも指折りの実力に入るのだろう」
世界は広いという言葉の通り、倉敷ほどの実力を持った術者でもまだ上には上がいるという事実に康太は気が遠くなる。
総合的な戦闘能力ならば康太も支部内ではトップクラス、本部を含めた協会全体であれば上位に入る程度の実力は持っていると言われた。
どんなに強くなっても、どんなに力をつけてもまだまだ上がいるという事実は康太たちにとって努力を続ける理由にもなっている。
「でも水属性ってちょっと地味じゃないですか?その・・・正直最近ちょっと伸び悩んでて・・・特に攻撃なんですけど」
「ふむ・・・なるほど・・・何となく言いたいことはわかった・・・確かに水属性には直接的な攻撃能力があるものが少ないな・・・話を聞く限り水での捕縛、時折水圧カッターのようなものを使うと・・・」
「はい・・・でもやっぱりなんか攻撃手段にしては微妙だなって・・・もうちょっと確実な攻撃方法が欲しいんです。どうしても水の流れを受け流されちゃうと簡単に防がれてしまうので」
水の勢いによって攻撃する水圧カッターなどはその向きを変えてしまえば防御自体は可能だ。
少しずつ防壁は削られていくとはいえ、相手がその場所にとどまり続ける保証もないのである。
「ふむ・・・なるほど・・・物理的な攻撃手段が欲しいと判断していいか?」
「はい・・・そういう攻撃があればもう少しましになるのかなと・・・」
単純かつ防ぎにくい攻撃があれば、倉敷の戦闘の幅も大きく広がる。今のところ捕縛からの窒息攻撃、水圧カッターくらいしかまともな攻撃手段がないのだ。今後戦闘が増えていくことが予測される以上、ある程度攻撃手段を増やしておいて損はない。
「ていうか水属性の攻撃魔術って確かに少ないように思いますけど、どうしてですかね?結構凶悪だと思うんですけど」
「水属性において攻撃手段が少ないのは単純な性質の問題だな。水は流体だ。炎のように現象そのものに攻撃性能があるものと違って、水が攻撃力を有するのは一定以上の速度と条件を満たしてからになる。そういう意味では攻撃手段になりにくい属性ではある」
確かに炎の中に突っ込んで火傷をしたという話は聞くが、水の中に飛び込んで怪我をしたという話はあまり聞かない。
ただし水の事故などは多い。少し水位が上がっただけで体を簡単に攫うだけの威力を発揮することができてしまうために、物理的エネルギー自体は高いものが多いのだ。
「一番単純かつ簡単なのは、水の中に物体を仕込んでおくことだが、やはりこれも高速で動かさなければ効果をなさない。それに弾丸状にすれば水のせいである程度威力は減衰してしまうだろう」
「はい、水弾の術も覚えてるんですけど、牽制程度にしか使えなくて・・・」
水の弾丸を放つ術を倉敷も覚えているが、相手に決定的なダメージを与えるには至らない。いやがらせ程度の威力しか持たないためにあまり意味がないというのが現状だ。
「応用が利いて、なおかつ高い攻撃力を有する手段か・・・なかなかに難しいことを簡単に言ってくれるものだな」
「すいません・・・エアリスさんにもいろいろ相談はしているんですけど」
「・・・そうか、文の師匠はあの子だったか・・・なるほど、そういったつながりもあったか」
倉敷が春奈のもとで修業しているということを知ってか、奏は少し考えこんで該当する魔術を探しているようだった。
難題といえば難題だ。水のような攻撃手段としては不向きな属性に高い攻撃性能を持たせようというのだから。
「君は基本水の属性しか使えないのだったな?」
「はい、水属性しか使えません・・・他の属性・・・氷とかが使えれば話は違ったんでしょうけど」
「使えないか・・・なら・・・そうだな・・・」
奏は少し考えてから倉敷に一枚の紙を渡す。そこには奏が先ほど書き記した術式が込められていた。だが倉敷は術式解析が使えないために、それを文に見せる。
「これは・・・なるほど、これなら結構使えるかもしれませんね」
「結構どころではない。はっきり言ってかなり危険な魔術だ。正直に言えば学生にこのような危険な術は教えたくないんだがな」
奏をして危険と言わしめるだけの術式、文はかなり興味深そうにそれを見ている。倉敷はどのような術なのかを早く教えてほしいのか、そわそわしてしまっていた。




