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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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夏なので

七月ももう終わり、世間は夏休みに突入していた。


そんな中、康太たちは魔術師としての活動が活発になりつつあるのを実感しながら、同時に自分たちにやってくる依頼を見て辟易していた。


「どうしてこう協会は俺らをこき使いますかね・・・専属魔術師にどうにかしてもらうって話はどうなったんですか」


「まぁまぁ、いきなり体制を変えろといったところで無理の一言だよ。それに今来てるのは例の組織がらみじゃないんだからいいじゃないか。夏ってこともあってみんなはっちゃけたいんだと思うよ?」


「でもこうも何度も呼び出されると・・・それにこの依頼、明らかに私たち向けじゃないじゃないですか」


「俺ら向けの依頼っていうとどうしても戦闘系になるからな・・・それを考えりゃ少しはましなんじゃねえの?」


康太たちのチームはもはや固定化されつつあった。康太、文、倉敷、幸彦の四人で構成された一つのチーム。


このチームに対しての直接依頼が増えているのは支部長からの頼み事というのもあるのだが、どうやらほかの協会専属の魔術師がほとんど出払っているのが原因であるらしい。


支部長は支部長で専属魔術師を主に動かそうとしているのがうかがえるだけに、この状況を生み出したのが半ば自分たちが原因であるということを理解して複雑な気分になっていた。


なお、現在康太たちがやっているのは長い間放置された魔術師の拠点に残された魔術的道具の回収である。


魔術師の中には高齢の人間もいる。そういった人間が急死した場合、本来身内などが拠点を片づけたりするのだが、中には身内もすべて死亡していたり、親しい魔術師のいない単独活動を好む魔術師も多い。


そんな魔術師が残した遺品、異物ともいうべきものを康太たちは片づけている。ほとんどのものは処分したりするのだが、中には貴重なものや危険なものもあるためそういったものを分別して支部の中に運び込むのが仕事である。


話を聞く限り、どうやらこういったものの中に禁術の類が隠されているということもあるため、基本的に協会の専属魔術師がこういった役割を担うのだが、今専属魔術師は出払っているものが多く手が回らない。


そういう事情もあって信用できる康太たちに話が回ってきたのである。


「ていうか、このくらいの仕事だったらバズさんが手伝わなくても私たちだけでもよかったんですよ?お仕事大変なのに無理してこなくても・・・」


「そういわないでくれよ、なんだか仲間外れみたいじゃないか。チームという形で動いている以上、どんな仕事でも一緒にやるものさ。そういうところから結束っていうのは生まれてくるんだよ?」


苦楽を共にするという言葉があるように、苦しいことも楽しいことも、くだらないこともどうでもいいことも、一緒に過ごし一緒に経験するからこそ絆というのは形成される。


なんでもない会話から、こうしたちょっとした雑用まで一緒にやるからこそ意味があるのだと幸彦は考えていた。


学生であり、現在夏休み中の康太たちからすれば普通に仕事をしている幸彦と同じ活動をするというのは申し訳なくもあった。


社会人は学生と違って忙しい。自分の時間もあまりとれないのが実情だ。そんな中でこうして夜に一緒に活動してくれるというのはありがたくはあるのだが、康太たち学生からすれば少しだけ気がかりでもある。


「そういえばビー、ベル、この間姉さんがまた仕事を手伝ってほしいって言ってたよ?そろそろ手伝いに行ってあげたらどうだい?」


「え?この間行ったばかりなんですけど・・・またあの人仕事溜めてるんですか?」


「あはは・・・あの人のあれはもう仕方ないよ・・・昔からあぁなんだ。良くも悪くも仕事ができるから、どんどん仕事を増やすんだよ」


「あの人らしい・・・まぁ夏休みだし、修業の合間にバイトっていうのもいいかもしれないわね」


「え?お前らバイトしてんのか?割のいいバイトなら紹介してくれよ」


割りのいいバイトかと言われると正直微妙なところではあるが、康太たちからすればなかなかに実入りの大きいバイトであることは間違いない。


「俺の師匠の兄弟子が会社やってるんだけど、そこでいろいろ手伝いのバイトだ。基本ホワイトだと思うんだけど、その人だけブラックのにおいを漂わせてる」


「どっちなんだ?ブラックなのかホワイトなのか」


「・・・グレーね。会社員はホワイトなんだけど社長だけ超絶ブラック。大体一週間に一度その人のところに行くんだけど、ひどいときはゴミ箱にカロリーメイトとか携帯食料系が大量に捨ててあるのよ。何日も徹夜して仕事するような人だから、私たちが止めに入らないとまずいこともあったわね」


「うわぁ・・・そんな人のところでバイト・・・?」


「いろいろと勉強になるぞ。俺とベルは頻繁に手伝いに行ってるし、同時に稽古も付けてくれるしな」


「稽古って・・・魔術的な?」


「そうそう。師匠の兄弟子だからな。バズさんの兄弟子でもあるし魔術師的にはトップクラスの実力を持ってるぞ」


「・・・強いのか」


「強い。魔術師として活動しなくなって結構長いって言ってたけど、手も足も出ないのが現状だな」


康太はそれなりに強いし毎日のように訓練している。だがそれでも奏には全く敵わない。それだけの実力差がまだ康太と奏の間にはあるのだ。


圧倒的強者との訓練は小百合とのそれで常に行っているが、奏との訓練はまた別の次元でのものなのである。


「なんだったらトゥトゥも今度行ってきたらどうだい?姉さんのところではいろいろと学べると思うよ?あの人水属性の魔術も使えるし」


「んっと・・・どうしようかな・・・すげー迷う・・・すごい人なのは間違いないんだろうけど・・・ブラックっていうのがな・・・」


「っていうかあれですね、連れていく前にちゃんと身だしなみ整えるように言っておかないと・・・この前みたいなのを初対面で見せるわけにはいきませんよ」


「確かに。一応連絡だけはしておくか・・・明日行きますっと・・・」


思い立ったが吉日という言葉があるように、康太はもう明日奏のもとに向かうつもりだった。

奏のもとに向かうと大抵丸一日は仕事や訓練をすることになる。今日中にこの遺品整理の仕事をしなければ明日がつらくなるだろう。


「そもそもその人ってどんな魔術師だったんだ?お前のところの関係者だから何となくお察しだけど」


「んー・・・俺も実はそのあたりはよく知らないんだよな・・・俺が初めて会った時にはもうすでにあの人はあんな感じだったし・・・バズさん、サリーさんは昔どんな活動してたんですか?」


「活動・・・かぁ・・・んー・・・姉さんの場合はお弟子さんの育成に必死になってたイメージだなぁ・・・とにかく技術を叩き込んでた感じ。魔術師としての活動は・・・それより前だと主に協会の依頼を片づけながら師匠と一緒に行動してたよ」


幸彦の師匠、つまり奏や小百合の師匠である智代のことであるが、当時どのような活動をしていたのかは幸彦もあまり知らないようだった。


奏はいわゆる智代の正統後継者ともいうべき存在だ。智代の知るすべての魔術や技術を継承した魔術師であり、それを後世に残すべく、いろいろなところに出向いて教育されていたのかもわからない。


「師匠はあぁ見えてかなり武闘派だったからね。今でこそ丸くなったけど、昔はすごかったんだよ?」


「・・・まぁなんとなく想像はできますよ。皆さんの師匠ですもんね」


奏、幸彦、小百合という武闘派の魔術師の三人を育てたという時点で智代も必然的に武闘派であるというのは想像に難くない。


今でこそ身体能力は衰えたかもしれないが、魔術に関する技術はむしろ向上している可能性がある。

全盛期はいったいどれほどの強さだったのか、気になるところではある。


「僕も詳しくは知らないけど、師匠と姉さんは協会の中でも切り札的な扱いだったんだよ。えっと・・・先々代・・・・かな?それくらいの支部長の頃には、本部にも何度か出向して問題を解決していた時期もある。たぶん今の本部長や副本部長とも顔見知りだと思うよ?」


「へぇ・・・さすがですね・・・そう考えるとやっぱりすごいな・・・」


「本部の依頼だったらお前らだって何度か受けてるだろ?」


「依頼を受けるのと出向するってのは違うわよ。期間限定とはいえ本部の人間になるってことなんだから」


本部の依頼を受けるのであれば康太たちも何度か経験しているが、本部に出向となると話のレベルは大きく変わってくる。


一時的にとはいえ拠点や所属を本部に移して活動していた時期があるということなのだから。


どのような思惑や理由があったのかはさておいて、本部の中でもかなりその実力を認められていたということになる。


「こいつみたいに問題ばっかり引き寄せる人間を内側に入れようとはしないでしょ?優秀でなおかつ活動内容にも問題がなくて、さらに言えば人徳もあったってことよ。単に実力だけじゃ本部に行くことなんてできないわ」


「そういうこと。力だけ持ってたら俺みたいに体よくつかわれるだけだって」


「自分で言ってて悲しくならないか?」


「・・・ちょっとだけ・・・」


康太は本棚に入れてある書籍の中から魔導書を見つけ、それらを分別しながらため息をついて少し落ち込む。


自分が面倒くさいタイプの魔術師であるというのは自覚しているらしい。だが自覚していてもそれを素直に認められるかどうかは話が別である。


「まぁとにかく、師匠と一緒に行動することが多かったかな?技術が急に発達した時代に、一度魔術師たちの中でも意識改革があっていろいろもめたしね。そういうのの解決にいそしんでたんじゃないかな?」


「へぇ・・・なんか時代を感じますね」


「そういうのはたぶん、アリスの方が詳しいんじゃないかな?彼女はずっと魔術師として生きてきたんだ、そのあたりはむしろ独壇場だろう」


「・・・いやぁどうでしょう・・・アリスの場合趣味のことがメインですからね・・・」


「協会にほとんど顔も出してませんでしたし・・・そういうの知らないんじゃ・・・」


長年生きてきたという意味では、アリスはそういった時代的な話をできるのかもわからないが、普段のアリスの生活を知っている康太たちからすれば語り部的なアリスの姿は想像しにくかった。


基本クーラーの効いた部屋でアイスを食べながら漫画を読んでいるアリスは趣味のために生きているといってもいい。


悪く言えば半分ニートのようなものだ。康太としてはいつ神加がアリスの真似をするのではないかとひやひやしているところである。


背丈が近いということもあって神加はアリスと近しい関係にある。最近はよく話をしているのを見かける。いろいろと不安があるが、話を積極的にするというのは良いことだと思ってしまうために少し複雑な気分でもあるのだ。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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