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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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組織の悩み

「ご苦労様。今回も大量だね」


「今回は十人です。報告にあった人数と一致はしませんでした、おそらくその場から離れていた人間がいたんでしょう」


康太たちはさっそくとらえた魔術師たちを協会に引き連れて支部長に報告にやってきていた。


雑に引き連れられてきた魔術師たちを手際よく協会の魔術師たちが別室に連れて行っているのを確認してから支部長は小さくうなずいて事前に用意していた資料を眺める。


「うん、了解したよ。別の拠点に移ったのか、それともただ単にその日は非番だったのか・・まぁどちらにせよこれからもその拠点は監視していく予定だから問題はなさそうだね」


「あとのことはお任せします・・・というか、規模的には四人に任せるような内容ではないと思いますが・・・協会側から援軍とかは出せなかったんですか?」


殲滅戦において重要なのは相手との人数差だ。相手を逃がさないためにも相手よりも多い人数で取り囲んで戦うのが理想形となる。


今回は相手との差は資料上では三倍近かった。いくら康太たちの戦闘能力が高いといっても、逃げられて情報が漏洩すればその分今後の作戦に支障が生じることとなる。


「下手に君たちに手を貸すと逆に足を引っ張りかねないからね・・・協会の人間はほとんどが後詰役として控えてもらっていたんだよ。たぶん君らの周りにもいたんじゃないかな?万が一逃げるような相手がいたら捕まえるようにしていたんだよ」


なるほどあの周りにいた魔術師にはそういう仕事が任されていたのかと、文は納得していた。


とはいえ倉敷は納得できていないという感じである。仮面によって表情を詳しく読み取ることはできないが、不満なのが明らかに態度に出ていた。


さすがに言及しないわけにはいかないなと、今度は文が前に出て口を開いた。


「支部長、今回はまぁ引き受けましたが、毎回毎回こういうのを私たちに持ってくるというのはどうかと思いますよ?」


「え?でも君たち以上に手ごろな戦力っていないんだけど」


「手頃とか思ってても言わないでください。そうじゃなくて、協会全体で打倒しようとしてる相手を、協会専属の魔術師が直接戦わなくてどうするんですか」


「あー・・・んー・・・でも君たちほどの戦闘能力は・・・」


「戦闘能力のありなしや依頼しやすいからという理由で頼んでばかりいると万が一私たちが出られない時に困りますよ?専属の魔術師はいわば支部の主力なんですから、支部長が率先して指示しないと実戦も積めません」


「いや・・・まぁそれはそうなんだけど、君たちは基本的に支部にいるだろう?本部に引き抜かれるとかもなさそうだし」


「万が一私たちが本部の依頼を優先して支部の危機に立ち上がれなかったらどうするんです?そういうリスク管理も必要なんじゃないですか?」


「・・・おっしゃる通りです」


文の正論に支部長は返す言葉がなかったのか、うなだれてしまう。文の言うことは何も間違っていないため、支部長という立場がある人間としては自分の行動があまりにも雑だったことを思い知らされているようだった。


康太たちが使いやすい戦力であるのは間違いではないのだろうが、康太たちはあくまでただ支部に所属している魔術師というだけだ。


今後どのようなことが起きるかわからない以上、支部としての戦力の育成はしっかりとしていくべきなのだ。


「いや・・・いっそのこと君たちを支部専属の魔術師にしちゃえばいいんじゃないかな?実績は十分だしさ」


「こいつの問題行動やら問題を全部支部が抱え込むと?封印指定やら禁術やらのオンパレードですけど?」


「・・・うん、ごめん、言ってみただけさ。でも君たちを専属にできたらどれだけいいことか・・・僕の胃痛の種も三割は取り除かれるよ」


康太たちを専属として支部に取り込んでも三割しか取り除かれないのかと康太たちは若干戦慄するが、残りの何割かが小百合案件なのだろうなと何となく察してしまう。


支部長の胃が壊れるのが先か、小百合が引退するのが先かのチキンレースになりつつある。もしかしたらその可能性の中に支部長が倒れて支部長交代という状況もあり得るのかもわからない。


「でも専属になるってそんなに簡単なことなんですか?なんかもっと特殊技能がないとダメなんだと思ってたんですけど」


「君、自分が特殊技能を持っていないとでも思っているのかい?戦闘能力に特化しているとはいえ、君のそれは立派な特殊技能だよ?」


「戦うだけが特殊技能なら俺だけじゃなくて師匠や姉さんも専属にできるのでは?」


「ジョアはともかくクラリスはまず無理だね。専属魔術師になるには実績とあとは信頼できるかっていうのが重要になってくる。人柄も加味されるってことさ・・・そういう意味でクラリスはまずアウト」


「あぁ、そういうことですか。じゃあ姉さんはなんで専属にしないんですか?」


「実はジョアの場合は実績がちょっと不透明なんだよね・・・一緒に行動していた魔術師が大きな功績を残したことはあっても、彼女の場合はその補助として参加していたことが多くて、彼女だけが残した実績って案外少ないんだよ」


「なるほど・・・そうやって目立たないようにしてきたのか・・・」


今まで兄弟子の真理がどのように戦闘能力を隠してきたのか不思議でしょうがなかったが、優秀な魔術師を援護する立場として、なるべく表舞台に立たないようにわき役に徹してきたのだろう。


実績と人格面で評価され選抜される専属魔術師ならばその両方が必須なのだろう。


「でも姉さんの実力は確かですよ?意図的に目立たないようにしてきたのかもしれませんが、ぶっちゃけ俺より強いですし」


「それは百も承知さ。クラリスの一番弟子って時点で弱いはずがないからね。実際僕も何度か彼女が戦ってるところを見てるし」


「じゃあなんで?支部長権限で専属にしちゃってもいいんじゃないですか?姉さんの意見ガン無視でもできないことはないでしょう?」


真理が首を縦に振るかどうかはさておいて、支部長の権限を使えば真理を専属にできないこともない。


支部長が真理の実力を把握しているのであれば問題なく専属にすることだってできるはずである。


真理は周りの魔術師との交友関係も康太や小百合と違って良好だ。専属の魔術師になっても協会の人間とうまくやっていけるだけの実力は間違いなくあるだろう。


「それは・・・まぁそうなんだけど・・・その・・・あんまり大きな声じゃ言えないんだけどさ・・・彼女にはあまり強く出られなくて・・・」


「どうしてですか?師匠みたいにいきなり攻撃してきたりはしないと思いますけど?」


「そういうことじゃなくてね・・・その・・・彼女は支部の中でも重要な秘密を結構知ってるんだよ・・・だからその・・・」


「あぁ、弱みを握られてるからあまり干渉したくないと」


「・・・そういうこと」

なぜ真理は実力があるにもかかわらず支部の中であまり依頼を受けている姿を見たことがないのか、康太はようやく合点がいった。


今まで小百合の後始末という形でいろいろな問題にかかわってきた真理。それはつまり小百合がそれだけ関わってきた面倒ごとの顛末を知っているということでもあるのだ。


実力もあり温厚である彼女をなぜ支部長が数多くの面倒ごとで起用しなかったのかようやくその理由が分かったのである。


支部の中での面倒ごとの半分以上が小百合によって引き起こされたものである。そしてその半分以上の面倒ごとの後始末をしてきたのが真理なのだ。


それだけ彼女は支部内の事情に詳しい。影の支配者というにふさわしい人物といえるのかもわからなかった。


「何かしら、あの人のイメージが一気に変わったんだけど、気のせいかしら」


「ははは、ジョアは昔から姉さんに仕込まれていたからね。そういう立ち回りはうまくなっていたんだろうさ」


幸彦は笑ってかつての奏と真理の姿を思い出しているのだろうが、支部長としてはあまり笑えないことなのだろう。


支部長本人よりも支部の面倒ごとに詳しい可能性もあるために、あまり強く出ると真理の逆鱗に触れた時が怖いのだ。


よく一緒にいる康太からすれば、依頼の一つや二つで怒るほど真理が狭量とも思えなかったが、小百合の一番弟子という強力な第一印象が支部長に一線を引いてしまう原因にもなっているようだった。


相変わらず悪影響しか及ぼさないなあの人はと、康太は自らの師匠のことを心の中で罵倒しながら話を戻すことにする。


「でも実際、ベルの言うように俺らばっかり使うっていうのも問題だと思いますよ?もっと専属魔術師たちにも出番を上げないと」


「いや出番って・・・彼らは彼らで結構頑張ってくれてるんだよ?今回の拠点の情報やら裏どりをしたのは彼らなんだから」


「そういうのは裏方じゃないですか。もっとこう表舞台の仕事を増やしてあげてくださいってことですよ。直接的な手柄っていえばいいんですか?わかりやすい評価を上げられるような感じの仕事」


「情報収集も大事だと思うんだけどなぁ・・・」


「情報収集を軽んじるつもりはありません。でも全員が情報収集ばっかりやってたらいつか戦闘できる人間が誰もいなくなりますよ?ある程度戦闘させる人員も必要ってことです」


「・・・いっそのこと君たちが技術指導してくれたら楽なんだけどなぁ・・・君たちの戦闘能力をそのまま持った専属魔術師とかいれば・・・僕の悩みの種もだいぶ解決するんだけど・・・」


「技術指導とかは土御門の双子で手一杯なので無理です。現実逃避してないで対策を考えてください」


康太と文の正論に、支部長はこれ以上議論を続けると自分が不利になるばかりだなとうなだれてしまう。


後ろで待機している倉敷は言いたいことを言ってくれたことですっきりしたような態度をとっており、その隣にいる幸彦は笑いをこらえているようだった。


その様子に気付いた康太は気になって聞いてみることにした。


「そういえばバズさんは協会の仕事を結構お手伝いしてるみたいですけど、専属魔術師ではないんですよね?」


「あぁ、僕は専属ではないよ。以前勧誘されたことはあったけどね」


「その時には断られたらしいよ?僕が勧誘したわけじゃないからあれなんだけど・・・今からでも遅くない、専属にならないかい?優遇するよ?」


「あっはっは。申し訳ないけれどお断りさせてもらうよ。僕はこうやってのんびりのらりくらりしていたほうが性に合ってる」


「・・・はぁ・・・戦力増強はもう少し時間がかかりそうだね・・・新しい人員を・・・いやそれだと変な人間が入ってくる可能性もあるか・・・少しずつ実戦に・・・それだと時間が・・・」


支部長は自分の部下の育成について具体的な考えを巡らせ始める。これが組織の長というものかと康太はその悩む姿をしみじみと眺めていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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