精霊術師は平穏を望む
「さて・・・結構な人数になったね・・・全部で・・・十人?」
「最初の奇襲で二人倒して、ベルとトゥトゥが一人ずつと、二人で協力して一人、俺が二人、バズさんが三人だから・・・十人ですね。拠点としてはまぁまぁですか?」
「これだけの規模があといくつあるやら・・・横での連絡を取り合っていた場合、他の拠点にもこのことが知られちゃうかもね」
「それはそれで支部が見張ってるでしょう。もうすでに日本支部内での活動拠点は大まかに把握してるっぽいですし」
以前捕まえた魔術師の情報に間違いがなければ、支部は日本国内にある敵の拠点を大まかながら把握できていることになる。
相手がどの程度状況を把握しているのかを調べるための威力偵察を兼ねていた今回の襲撃だったが、相手は普通に待機していたし、こちらの攻撃に対して対応しようとしていた。
すでに無関係ではないのは支部の方で確認済み。これだけ出だしが遅れているということは、拠点の情報がすでに知られているということは相手はまだ把握していない可能性が高い。
「これなら一つ一つ確実につぶしていくことも可能かもね・・・とはいえ連日はきついけど」
「連日だと装備の補充が間に合いませんよ。週一くらいのペースでお願いしたいところです」
「週一でも多いっての・・・っていうかなんで俺らが駆り出されてるんだよ。協会の人間がやるべきことだろこれって」
協会に対して敵対行動をとっているグループの掃討戦だ。倉敷の言うように協会専属の魔術師が出てくるのが筋というものなのだろう。
だが相手は良くも悪くも連携を得意としている魔術師グループだ。協会の魔術師がいかに優秀とはいえ、みな一様に戦闘に長けた者というわけではないのだ。
「そういうなって。万が一があったときに対応できそうなのが俺ら以外にいなかったってだけの話だろ?お前も新装備試せたからいいじゃんか」
「こういうのは使わないに越したことはないだろ。っていうか支部の人間さぼってるんじゃないのか?面倒ごとを押し付けてるってイメージがあるぞ。体よくつかわれてる感じがする」
倉敷としては今のこの扱いがあまり良いものとは思えないらしく、不満を表している。
気持ちはわからなくはない。倉敷の言うように協会の人間が出るべき案件であるにもかかわらず康太たちが駆り出されているのだ。
何かしらの理由があるのならまだしも、康太たちが駆り出されてばかりというのは不公平というものである。
「実際のところどうなんだろうな・・・バズさん、協会専属の魔術師の戦闘能力ってどの程度なんですか?」
「んー・・・人によりけりとしか言えないけど・・・少なくともビーやベルよりは劣るよね。普通の魔術師よりはマシだろうけど、それでも毛が生えたレベルかな」
「トゥトゥと比べると?」
「トゥトゥのほうがましかな。今回の戦い方はだいぶ面白かったよ。あれなら相性がかみ合えばほとんどの相手は完封できると思う。土属性相手にはほぼ無敵だね」
幸彦の中で倉敷の評価はかなり上がっているらしい。戦いながら倉敷達の方に意識を向けていたから三人同時に相手をするのが大変だったのではないかと康太と文は首をかしげるが、今はそのことは後回しにしておくことにする。
「まぁそういうことで、協会専属だからといって戦闘能力がバカみたいに高いっていうわけじゃないんだよ?そういう人間を集めたチームもあるみたいだけど・・・それでも・・・んー・・・そこそこかなぁ」
協会の中にも戦闘に特化した魔術師というのは存在する。康太や小百合がその筆頭となるのだろうが、他にも戦闘を得意とした魔術師はいる。
康太たちが関わる案件にはほとんど彼らはやってこないために全く接点がないが、そういう魔術師たちの存在がないわけではないのだ。
「ならそういう人たちがこういうことをやればいいんじゃないんですか?俺らがやる必要あります?」
「んー・・・ないと言えばないよね。でもこういうところで恩を売っておくと後々効いてくるよ?ちょっとした我儘を通しやすくなる」
「確かにそれはあるかも。俺もちょくちょく支部長に迷惑かけてるけど、こういうことで相殺してるような感じあるし」
「あんたの場合はまさにそうよね。私の場合はあんまり迷惑はかけてないからいろいろと融通を利かせてもらってる感じだし・・・あんたもちょっといろいろ頼んでみたら?」
「そういうのはお前らがやってくれてるからいい。俺は平穏が欲しい」
倉敷の言葉に康太と文は同時に笑い出す。今更何を言っているんだこいつはと素直に面白かったようで爆笑してしまっていた。
「平穏ねぇ・・・いきなりビーに喧嘩を売った精霊術師の言葉とは思えないわ。一年前のあんたに聞かせてあげたい」
「あの時はあの時だろ。今は今だ。俺は平穏が欲しいんだよ」
「とか言いつつも呼んだらちゃんと助けてくれるあたりトゥトゥは素直じゃないな。別に戦いたいならいつでも言ってくれていいんだぞ?いつでも敵はいるから」
「お前みたいに敵だらけの日常は嫌だ」
倉敷にとって戦闘とはどうしようもなくなった時の最終手段だ。だが康太はこれを常用の手段としている。
これは平穏を望む倉敷からするととんでもない行為だった。少なくともこのままでは自分は身の破滅ではないのだろうかと少し恐ろしさを覚えているほどである。




