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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十五話「釣りをするのも大博打」

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チーム

康太と幸彦の戦いが終わったころ、倉敷は徹底的に攻撃をし続けていた。


自ら作り出した水流に乗り、空中機動を可能にした倉敷に対して相手の魔術師はほとんど打つ手がなくなっているようだった。


周囲の水を一気に凍らせても倉敷の放つ縦横無尽に動き回る水圧カッターとゴルフボールの攻撃にどんどん氷を砕かれて行ってしまう。


そして先ほどから妙に氷が解けるのが早い。その違和感を覚えた頃にはもう遅かった。


氷の魔術を扱っている自身の周りは水の温度は低いままだが、先ほどから倉敷が操っている水の温度が明らかに上昇しているのである。


倉敷も気づいていないが、これは文の援護だった。電撃は相手の土の魔術で封じ込められる可能性が高いため、文は徹底的に倉敷の補助に回ることにしたのである。


文はあまり得意としてはいないが一応炎属性の魔術を扱うことができる。


その中で水の温度を上げる魔術を身に着けていた。


サバイバルの時などに使うための生活用の魔術だが、水の温度を四十から七十度程度にすることができる。


文の魔力すべてを用いて大量に存在している池の水を一気に熱してるのである。


巨大な氷の塊であれば融けるのにも時間はかかるだろうが、倉敷が細かく砕いているのであれば融けるのは早い。


倉敷自身、文に援護されているとは気づかないだろう。それほど彼は今高い集中を維持している状態にある。


どのように攻撃すればよいか、どのように回避すればよいか、とにかく考えながら水を動かしていく。


今の状態で消費と供給はほぼ同等、このまま集中が続けばいつまでもこの状態を続けることができるだろう。


だが相手がいつまでも防戦一方であるという保証はない。その証拠に魔術師は自らの周りを巨大な土の塊で覆い始めた。


池の中に作り上げられていく巨大な陣地、その陣地めがけて水圧カッターを放つのだが、土はずいぶんと分厚くなってしまっているのか水の勢いだけでは長時間当て続けないと土を貫通するのは難しそうだった。


そうしている間にも土の塊は大きくなっていく。あのまま何かを作ろうとしているのだろう。


それがゴーレムか、それとも別の何かなのかは倉敷には判断できなかった。


『こちらブライトビー、トゥトゥ、そっちは大丈夫か?』


倉敷が攻めあぐねていると無線から康太の声が響く。もうすでに戦闘を終えたのかと倉敷は喜びながらも悔しさをかみしめていた。


康太が二人倒している間に自分は一人を倒すこともできないのかと。


「あぁ!?こちらは今交戦中!引きこもりを引きずり出そうとしてるところだよ!」


『攻勢に出てるなら何より。こっちは片付いた。今から援護に向かうぞ』


「さっさと来い!でないと終わらせちまうぞ!」


土の塊に対して倉敷ができることはいくつかあるが、相手が作り出した土の形を確認して倉敷は水を大きく動かしていく。


土の塊を覆うように巨大な水の塊を形成し、その水を高速で回転させていく。


まるで水の竜巻のように作り出された水の激流。一部に当てるのではなく全体に当てるように、削り取るようにその流れは大きくなろうとする土の塊を徐々に小さくさせていく。


ゴルフボールだけではなく、池の中にあった小石やごみなどを利用して土の塊にぶつけることでその土を徐々に削り取っていく。


土が大きくなる速度よりも、水が削っていく量の方が大きい。このままならば削りきられると判断したのか、土の塊の一部が勢いよく隆起し、水の塊のもっとも回転の影響が少ない真上に向かって上昇していく。水の塊を突き破って倉敷めがけて攻撃を仕掛けようとするが倉敷はその攻撃を予想していた。


「悪いな、そういうのはあいつでもう懲りてるんだよ」


待ち構えていたかのように多方向から水圧カッターの術を放ち、倉敷は隆起してきた土の塊を一気に切断していく。


以前康太に水のドームを破られたときのことを倉敷は覚えていた。


回転の影響を最も受けない真上がこの魔術における弱点である。そしてその弱点を相手がついてくることを予測し、あらかじめ術の発動の準備を整えていたのである。


徐々に削られていく土の塊の本体、最後の抵抗か土の塊ごと冷気によって凍っていく中、倉敷は自らが使える術の中で最大のものを放つ。


周囲にある水が一斉に集まっていき、その水の塊の体積を一気に増していく。


徐々に凍りつつある水だが、倉敷は焦らない。


水には多量の空気が含まれてしまっている。そして土の塊にも多量の水が含まれてしまっている。


不純物を含んだ氷は脆い。倉敷は水を操るものとしてその性質をよく理解していた。


「潰れろ・・・!」


倉敷が両手で包み込むような動作をすると、周囲に大量にあった水が一気に小さくなっていく。


質量が変わっているわけではない。倉敷が行っているのは水に高い圧力をかけているのだ。


水に高圧をかけることで圧縮していると言えなくもない。その中心にある土と氷の塊は徐々にその圧力を耐えることができなくなっていき、亀裂を作っていく。


そして圧力が一定に達した瞬間、氷と土が砕け水に押し潰されていく。中にいた魔術師も水に飲まれ一気にその圧力にさらされていた。


水に飲まれればもはやなす術はない。倉敷は相手が気絶するまで水の包囲を解くことはなかった。
















「お見事、結局一人で倒しきったわね」


「ざっけんなよお前。結局ほとんどフォローしてくれなかったじゃんか」


「あら、フォローなしでもちゃんと倒してたじゃないの。あんたの実力が付いたってことよ。素直に喜びなさい」


実は陰ながらフォローはしていた文だが、あえて自分がそれをさぼっていたように話していた。


倉敷は良くも悪くも自己評価が低い。今回魔術師を単独で撃破したという事実をつけることで自信をつけさせようとしたのである。


倉敷にはそれだけの実力があるのだ。いつまでも精霊術師であることを理由に自分を低く見積もるのはやめてほしかったのだ。


「おーい。もう終わっちゃったか?」


そんなことを話していると康太と幸彦が二人のもとに小走りでやってくる。その後ろには倒した魔術師が二人引きずられていた。


最低限の応急処置はされているようだったが相変わらず雑な扱いだなと倉敷は眉を顰める。


「ごめんごめん、二人を引きずってたら遅くなっちゃった・・・」


「もう終わったっすよ・・・ったく・・・結局ほとんど俺一人だったんだぞ」


「あれ?ベルはフォローしてくれなかったのか?」


「周囲の索敵に気を張りすぎたわ。ごめんなさいねトゥトゥ、悪かったとは思ってるのよ?」


「心にもないことを言いやがる・・・ったくよ・・・」


拗ねてしまっている倉敷をよそに、康太はその発言の違和感に気付いていた。文がフォローしないなどということはありえないと思ったのだ。


どのような状況にせよ、文ならば状況を有利にするようにことを運ぶはず。いくら倉敷の能力が高く、相手の魔術師を一人でも倒せるだけの実力を持っていたとしても、手伝わない理由にはならない。


康太が文の方を一瞬見ると、文はその視線に気づいたのだろう。仮面の奥の瞳を細めて薄く笑って見せる。


その反応に康太は何となく状況を理解していた。要するに今回は倉敷に花を持たせようとしているのだ。


せっかく一人で倒せたという事実があるのに、実は文が陰ながらフォローしていましたなどという水を差すこともない。


なぜそのようなことをしているのかは康太には分からなかったが文なりの思惑があるのだなとあえて口に出すことはなくその場では文の言葉が真実であるということにしていた。


「いやぁ、一人任せて何とかなればいいなとか思ってたけど本当に何とかしちゃったか。よしよし、今後とも頼むよトゥトゥ。立派な戦力の仲間入りだ」


「今度また一人で任せるようだったらお前らとは絶対に組まないぞ。せめて一人フォロー要員をよこせ。一人だとできることが限られるんだよ属性的に」


「わかってるわかってるって。次はベルもちゃんと援護してくれるだろ?」


「そうね、気が向いたら手伝ってあげるわ」


「これだよ・・・まぁいいや・・・で、こいつらも連れて行くんだろ?」


そういって倉敷は自分の術で窒息させた魔術師を水を操って引きずり出す。肺の中にも水が入ってしまっているためにそれらもすべて取り除き、文が即座に風の魔術で蘇生措置をとる。


肺の中に空気が循環していき、やがて息を吹き返すが未だ意識は戻らなかった。


「っていうかお前・・・そいつ酷いな・・・腕斬り落としたのかよ」


「おうよ。結構やばめの威力を出してたからな。こっちにも聞こえてたろ?」


「・・・集中してて気づかなかった・・・あっちの方はすごいことになってるんだろうな・・・どんな魔術だ?」


「爆炎よ。発動場所は爆心地みたいになってるわよ。あとで協会の人間に直してもらうけど・・・とりあえず目標地点まで移動する?いつまでもここを封鎖しておくのもまずいし」


「そうだな・・・って夜明けか・・・さすがにもう派手な行動はできないな」


康太たちが捕まえた魔術師たちを厳重に拘束していく中、あたりはもうすでに夜が明けてしまっていた。

空は黒から青へと変わり、日の光があたりを照らし始めている。


徐々に人も活動を開始するだろう。一般人の目が増えるということもあってここから戦闘などを行うことは難しそうだった。


「まだ来るかな?こっちとしてはちょっと消化不良なんだけど」


「とはいえ、これ以上の戦闘を行うなら大々的に隠蔽が必要になるんじゃないですか?大規模な術も使えませんし、俺が雨を降らせるにも限界がありますよ」


「ここは引き上げるべきでしょう。幸いゴール地点もあと少しの場所なんだし、十分目的は達したと思うわよ?」


「ん・・・あいつが来ると思ったんだけどなぁ・・・俺の勘も当てにならないか・・・仕方ない・・・今日はここまでにするか」


四人で相談した結果今回は引き上げるということになった。


成果は上々。襲ってきた魔術師全員の捕縛に成功したことになる。


幸彦という戦力がいたことと、今回は相手の戦力を分散させるような作戦をとっていたというのもあるが、ここまで容易く成功するとは思っていなかったために康太たちは少しだけ拍子抜けし、同時に安堵していた。


「前回みたいに逃げ帰らずに済んでよかったわ。戦力が一人増えるだけで違うわね」


「前回は三人だけだったからな・・・今回も三人だったらわからなかったぞ?」


「配置が換わるだけの話さ。ビーが主力でベル、トゥトゥが一緒になって戦うっていうのはなかなか道理にかなっているよ。君たちはかなりいいチームだよ」


チームと言われて康太たちは顔を見合わせる。康太、文、倉敷の三人が一つのチームであるというのは初めて言われた。


なるほどそういうのもいいかもしれないなと三人は苦笑してしまっていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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