水の精霊術師
倉敷はどうしたものかと迷っていた。空中で移動する手段は倉敷にはない。着地するにしてもすでにかなり高く放り投げられてしまった。水をクッション代わりにすれば安全に着地できるだろうが、水を大量に体にかぶればその分相手に凍らされるリスクが増えてしまう。
氷を扱う魔術師を前にそのような行動をとるほど倉敷は考えなしではなかった。
そんな中、倉敷は先ほど盾代わりに使った康太の装備に目が行く。
水の盾に着けるように使った康太の装備、そしてその装備の形状。盾のように使えるだけの独特の平たさに加え、もともと杭を入れてあったということもあって一部空洞のようになっているそれを見て、倉敷は思いつく。
こうすれば、こう使えばいいのではないかと直感的に理解し、即座に行動に移した。
失敗することなど最初から考えていない。失敗した時は失敗した時だと、半分自棄になりながら倉敷は康太の装備を足に装着する。
いや、康太の装備を踏み台にして、水をすべるように、サーフィンでもするかのように滑走して見せた。
着水ではなく、自ら水の道を作り出して水の上をすべる。その速度は先ほどまでの倉敷のそれではない。
落下しながら水の上をすべる倉敷の速度は走る速度を優に超え、さらに空中での複雑な軌道も可能にしていた。
本来であれば自然に身を任せなければいけないサーフィンだが、倉敷は自然に身を任せる必要などない。
倉敷は水の精霊術師。水を操ることに関しては魔術師よりも秀でている。
何せそれしかできないのだから。倉敷にとって水を操ることは手足を操ることと同義。空中を自由自在に滑る倉敷に、池の中にいる魔術師は狙いをつけられずにいた。
先ほどまでは倉敷の動きが遅かったために氷の魔術でも土の魔術でも狙いをつけられた。
だが空中を高速で、なおかつ不規則に動き続ける倉敷に狙いをつけられなくなっているのである。
空中にいることで相手の土属性の魔術もほぼ完封した。倉敷は相手の氷の魔術にだけ気をつければよくなったのだ。
高さが足りなくなれば自ら水の力で体を空高くまで押し上げ、再び落下する動きとともに水の道を作り出して波に乗る。
倉敷におあつらえ向きの機動手段だった。
だが倉敷は今までサーフィンなどやったことがない。体勢が不安定になることもしばしばあったが、この行動を本人も楽しんでいた。
思ったところに行ける、自分の思ったように水を動かし、同時に思ったように速度を出せる。
相手は倉敷の動きについていけず、見当違いの方向を攻撃し続けている。この状況が楽しくて仕方がなかった。
魔術師は倉敷の唐突な動きの変化に焦ったのか、周囲の水を一斉に凍らせ始める。水を凍らせて倉敷の動きを止めようと判断したのだろう。池の水の上辺部分が一気に凍っていくのを感じ取って倉敷は笑みを作る。
あれだけの水を一気に凍らせるにはかなりの魔力を消費する。しかも今は明け方とはいえ夏場だ。水温もそれなりに保たれているために凍らせるにはかなりの手間がかかるはずである。
そして倉敷は水の中に沈んでいたあるものに目をつけていた。
それは水の中に沈んだゴルフボールだった。
プレイ中に池の中に落ちてしまったゴルフボールがこの池の中には山のように沈んでいるのである。
ここがゴルフ場で本当によかったと思いながら、倉敷は水の流れを作り出してそのゴルフボールを自らが乗る波に徐々に集めていく。
康太の使う鉄球ほどの重さはないが、あまり重すぎず、なおかつある程度大きいことが幸いし倉敷の作り出す水の流れに乗って無数のゴルフボールは倉敷のもとへと集まり始める。
物体の熱量というものは大きければ大きいほど変化が難しくなる。逆に言えば小さければ小さいほどにその状態が変化しやすいものになる。
水滴は蒸発しやすく、小さな氷は融けやすい。だが大量の水は蒸発しにくく、大きな氷は融けにくい。
相手が大量に氷を作り出しているというのであれば、その氷を砕いてしまえばいいだけの話だ。
「今日の天気は明け方まで晴、明け方からは雨と一緒にゴルフボールが降るでしょう・・・ってな!」
空中で波に乗りながら倉敷は集めたゴルフボールをウォーターカッターの術によって一気に打ち出していく。
高圧で射出された水の流れに乗って射出されたゴルフボールは猛烈な勢いで魔術師めがけて襲い掛かっていく。
魔術師は再び氷の道を作り出すが、倉敷はそれを読んでもう一つ別の方角からウォーターカッターの魔術を発動する。
二つの角度から襲い掛かった水の猛威に、魔術師はとっさに氷の盾を発動する。氷の道ではなく、氷の盾を。
倉敷の水の中にはゴルフボールが大量に入っている。周囲にある氷を砕きながら、その水は魔術師めがけて襲い掛かっていた。そして弾き飛ばされた、あるいは受け流された水がその勢いのまま進行方向を変えて再び襲い掛かる。
まるで意思を持った龍のように、魔術師に狙いを定めたかのように水の流れは魔術師めがけて襲い掛かる。
倉敷は自身もその流れに乗りながら、意識を集中していた。
楽しい、その感覚に満たされながらも倉敷は高い集中力を発揮していた。
それこそいつも以上の、訓練の時でもこれほどまでの集中力は発揮したことはなかった。それほどまでに、倉敷はこの状況を楽しんでいた。




