倉敷の奮闘
康太の戦いが終わろうという中、倉敷は苦戦を強いられていた。
水を操って攻撃しようとしてもその水を凍らされてしまう。大質量の水を操って攻撃しても要所要所を凍らせることで氷の道を作り出し水の動きを強引に変えてしまう。
さらに大規模な水の奔流を作ればその氷の道ごと押し流せるのかもしれないが、そんな大質量の水を操り続けていれば魔力があっという間に枯渇してしまう。
さらに倉敷が立っている地面を隆起させたり陥没させたりと、土属性の嫌がらせも継続して行われている。
水があたりにまき散らされている中で周囲を冷気で包み、倉敷の動きを止めようとするような行動も見て取れた。
このままでは隙を狙い打たれて負けてしまう。倉敷は自分が圧倒的に不利な状況にいるということを自覚していた。
「この・・・!いい加減にしろ!」
倉敷のもつ攻撃の中で最も威力のあるウォーターカッターの術を発動するが、先ほどまでと同じように氷の道を作られ、高圧で射出された水を受け流されてしまう。多少水の勢いで氷を削ることはできても、本体に攻撃が届かない。
完全に八方塞がりだ。この状態で勝つ見込みはほとんどない。
どうすればいいのかと迷っていると、その迷いが動きに出てしまったのか倉敷の走る速度が若干下がる。
その隙を相手は見逃さなかった。
土の魔術によってわずかに土を隆起させ、倉敷を躓かせる。本当に些細な妨害だが、士気が下がっている倉敷にはそれで十分すぎた。
体勢を崩しその場に転んだ瞬間、水びだしになった地面が一気に凍り始める。
倉敷の腕と足を氷漬けにすると、徐々に冷気が倉敷の周りを覆い始めた。
まずい。
倉敷はそう思った瞬間に池の水を一気に操り魔術師を包みこもうとする。守りに入れば一気に氷漬けにされる。ここで攻めなければ間違いなく負ける。倉敷には確信があった。
かつて康太と戦った時も守りに入ったからやられた。こうして攻め続ける姿勢を見せれば、相手はこちらに決定打を撃てない。
倉敷は消費魔力など一切無視して攻め続けた。当然そんな無茶な攻勢はいつまでも続かない。
だがそれをしなければ負けるのだ。倉敷は自らの素質の限界まで魔力の供給量を増やすように精霊たちに頼み込むが、それでも供給より消費の方が圧倒的に多かった。
そしてそうしている間にも倉敷を包む氷は体に向けて進行し続ける。相手は防御しながらも倉敷を攻撃するだけの余裕がある。対して倉敷は攻撃し続けても守り切れない。
勝負あったか。
倉敷があきらめかけた瞬間、倉敷を凍らせている地面めがけて大量の杭が上空から飛来し、深々と突き刺さる。
いったい誰が。それを考察する必要はなかった。次の瞬間、杭を収めていたであろう康太の装備が倉敷の眼前に落下してきたのである。
そして倉敷を拘束する氷が一斉に融け始める。
いったい何が起きたのか、倉敷は地面に突き立てられた杭が赤色に発光し、高温を放っているということに気が付いた。
先ほどまではただの杭だったのに唐突に高温を発し始めた杭に、倉敷は理解が追い付かなかったが、自らを拘束する氷がなくなったことで即座に走り出す。
目の前に落ちた康太の装備を拾い上げ、すでに幸彦のもとに走り出している康太の方を一瞬見て苦笑する。
「なんだよ・・・もうちょっとこっち手伝ってくれたっていいんじゃないのか?」
倉敷はそう思いながらも、康太が自分を助けてくれたという事実に加えて、この装備を倉敷によこしたということに感謝していた。
康太は自分自身の装備を無駄撃ちするだけの余裕はない。特に幸彦が相手をしていたのはこの中で一番の実力者と思わしき魔術師だ。
そんな中で装備を使用してでも倉敷を助けようとした康太の行動に、そしてあえて幸彦を手助けしに行った康太の行動を倉敷は正しく理解していた。
援護はそれで十分だろ?あとはお前が何とかしろ。
笑いながらそういう康太を想像しながら、倉敷は康太の装備を片手に笑う。
「ったく・・・毎回毎回・・・無茶言いすぎなんだよ・・・お前らは!」
倉敷は走る。走りながら水を一気に操ることはせず、すでに動いている水を操りながら相手へと水を滑らせていく。
氷の道によって水の動きをそらされてしまうのであれば、その流れを利用してさらなる攻撃へとつなげる。
倉敷は自分の本質を思い出しつつあった。水に決まった形はない。決まった流れなどない。ならば常に動き続け、その動きを真正面から阻害するのではなく常に力に身を任せるように動かす。
強い力で逆方向に動かそうとすれば当然その分魔力を消費するが、力の流れに沿った形で水を動かせば消費魔力は激減する。
相手の力さえも利用して、相手の動きさえも利用して、倉敷は目の前の魔術師を攻略しようとしていた。
そして次の瞬間、相手の魔術師もこのままではまずいと感じたのか、倉敷の走っている地面全体を勢いよく隆起させる。
強引な発動だ。おそらく消費魔力も馬鹿にならないほどだろう。それだけ相手もあせっているのだということに気付いた倉敷は空中に放り出されながら自らに向かってくる大量の氷の刃を防ぐべく水の盾を作り出す。
水の盾だけでは防ぎきれないだけの巨大な氷の刃を見た瞬間、ちょうどその手に持っていた康太の装備を盾のように水の盾と合わせて使い相手の攻撃を完全に防ぐ。
だがその勢いを完全に殺すことはできず、倉敷の体は康太の装備ごと弾かれてしまった。




