分担は平等に
料金所を通り過ぎた段階で相手との距離はかなり縮まってしまっていた。直線距離にして約二百メートルほど。その気になれば容易に追いつけてしまう距離である。
康太は常に背後を気にしているが、すでに一般道に戻っているということに加え夜が明け始めているということもあり徐々に一般車両も増えてきていた。
このまま戦うようなことは向こうもしないだろうというところで、康太たちを乗せたトラックは中継地点であるゴルフ場にたどり着いていた。
『ビー、到着したわよ!このままゴルフ場内に入るからちょっと揺れるわよ!』
「あいよ!ていうかこいつら転がしたまんまだけどやばいんじゃ・・・おっと!?」
文の言葉通り、大きく揺れるトラック、そして転がされたままの魔術師たちは壁や床に体をぶつけながらうめいている。
中には気が付いたものもいるのだろう、康太は目を覚ましかけた者たちに思い切り蹴りを食らわせて再び気絶させていく。
容赦ないなと倉敷が近くでつぶやく中、康太はトラックの背後の扉を勢いよく開く。
ゴルフ場のど真ん中、芝が多く、ところどころにバンカーや池などが存在する一般的なゴルフ場だ。
こんなところにトラックで入ろうものなら芝を傷つけそうだなと思いながら康太は周囲を見渡す。
「状況はどうなってる?ここは暴れてもいいのか?」
『協会の魔術師たちが人よけの結界と見えにくくなる魔術を発動してくれてるわ。上空からは見えないから存分にやりなさい。ここの営業時間は十時から。まだまだ余裕はあるわ』
「よっし、トゥトゥ、ここを拠点にして防衛戦だ。こいつらもビデオも守るぞ!」
「了解、総力戦だな。水辺も近くにあるし、なかなかいい立地じゃんか」
「今度は僕も活躍できそうだね。運転ばっかりでちょっと運動がしたかったところさ」
「あんまり派手に動かないでくださいね。フォローできる範囲にも限りがありますから」
康太と倉敷が外に躍り出ると同時に文も幸彦もトラックから降りていく。そして康太たちを追ってきていた車が勢いよくゴルフ場の敷地内に入ってきていた。
赤い車、車種までは遠すぎるために康太も判断できなかったが、スポーツ車であるということは何となく理解できた。
明らかに追跡を目的とした車だ。そんな車を傷だらけにしてしまったのは申し訳ない限りだと康太は笑う。
「相手は三人。どう分担しますか?」
「んー・・・一人僕に任せてくれるかな?残りの二人を君たちで頼むよ」
「じゃあ二人のうち一人は俺が担当する。最後の一人をトゥトゥが押さえてくれ。ベルは全員の補助、頼むぞ」
「ちょい待ち、え?俺が一人担当すんの?」
「実質の二対一を三つ作る形かな?ベルの負担が多いように思うけど・・・」
「待て待て、俺の負担が一番大きいって。お前らと一緒にすんなって」
「それぞれが早く片付けてくれればその分私の負担が減りますよ。お願いしますね」
「お、若い女の子から頼られるのは悪い気はしないね。よっし、おじさん頑張っちゃおうかな」
「バズさん、そのセリフちょっと犯罪臭いですよ?」
「だから待てって、なに?本当に俺一人でやんの?きついって、殺す気かよ」
「大丈夫だよ、お前なんだかんだ戦闘能力高いから。敵の誘導は俺とバズさんでやってやるから、うまいことお前の得意なフィールドにもっていってやるよ」
康太と幸彦が自分の胸を叩いて任せろと言ってのけるが、倉敷からすれば不安でしょうがなかった。
先ほどの会話を聞いていると、相手の中には文と同等以上の魔力を保有している者がいるのだ。
そんな相手にどのように立ち回ればいいのかなど倉敷には分らなかった。
「覚悟を決めなさい。あんたがやるしかないのよ。フォローはしてあげるから何とかしてみなさい」
「・・・頼むぞ?やられないように過保護に見守っててくれよ?」
「あんたね・・・まぁいいわ。これもいい機会でしょ」
文はあきれながら倉敷の背中を思い切り叩く。自己評価が低いのは倉敷の美徳でもあるが、同時に欠点でもある。
精霊術師として活動している以上、魔術師と比べた劣等感を抱えるのも無理からぬことだが、いつまでもそのままでいてもらっては困るのだ。
「さぁ少年少女よ、気合を入れ直していこう。ここからが本番みたいだからね」
幸彦の言葉に康太はウィルを鎧の姿に変え、倉敷は魔力をみなぎらせ、文は全体を把握しようと索敵を張り巡らせる。
遠くからやってきている車はどうやら止まる気がないらしい。このままトラックに突っ込んで先制攻撃をしようとしている節がある。
「随分と血気盛んな奴らしいですね。一発目はどうしますか?」
「よし、じゃあ一発目は僕が務めようじゃないか。君らは後詰を頼むよ。うまく合わせてくれると嬉しいな」
そういって幸彦は軽く準備運動をすると、その大きな体をかがめ、そして捻っていく。そのフォームは今まで康太が見てきたものの中で一つも該当するものがなかった。
あえて言うのなら、陸上選手の行う円盤投げの動作が最も近いだろうか。
大きな勢いをつけ振るわれた拳は、その場に風をふき起こし、砂をまき上げながら天へと突きあげられる。
そしてその攻撃動作に合わせるような形で、赤い車が突如現れた土でできた拳に殴り飛ばされた。
見事なアッパーだと康太は感心するが、車の進行方向、しかも車体部分にぴったりと合わせて魔術を発動したその技術こそ褒めてしかるべきだろう。
勢いをそのままに回転しながら宙を舞う車に、康太と文が同時に襲い掛かった。
康太は空中に躍り出ると、その両手に双剣笹船を取り思い切り振りぬく。拡大動作によって拡大された斬撃が車に襲い掛かり、一太刀目で屋根を切り裂き、ニ太刀目で車の扉から上と下を両断する。
車内にいた魔術師たちも傷つけられるだけの一撃だったが、康太の一太刀目が直撃すると同時に魔術師たちはすでに車外に脱出していた。
空中に投げ出される形になった魔術師たちは自らのもつ魔術で何とか体勢を整えようとするが、そんな暇を文は与えない。
文は車を中心に竜巻を発生させ、三人の身動きを封じていた。この竜巻から逃れるには高出力の魔術で体を外にはじき出すほかない。
三人の魔術師は連撃が来るとわかってはいてもこれほどのものが来るとは思っていなかったらしくかなり体の制動に苦労しているようだった。
そしてそんな中、康太と幸彦は自らが戦うべき相手を判断していた。
「僕は彼をもらおうかな、ビー、君はあの体格のいい人と戦うといいよ」
「了解です。それじゃトゥトゥ、残りの一人は池の方に弾いてやるから、あと頼むぞ!」
幸彦はこの中で最も魔力の多い魔術師を、康太は一番体格のいい魔術師を選択した。
幸彦が腕を振るうと、竜巻にとらわれていた魔術師が勢いよく風の渦の中からはじき出され、数十メートル吹き飛んでいく。
康太は自らも竜巻の中に飛び込んでいくと、一番体格のいい魔術師を捕まえて全力で噴出の魔術を発動し強引に竜巻から脱出する。そして拡大動作の魔術を発動して思い切り魔術師に殴りかかり距離を作って見せた。
そして振り返り際に槍を操り竜巻の中に残されている最後の魔術師めがけて拡大動作の魔術を放つ。
竜巻の中で身動きがとれていなかった魔術師は、拡大動作の殴打をよけることができず池めがけて勢いよく弾き飛ばされてしまう。
「んじゃ任せた、ベルはこのトラックの防衛も頼んだぞ!」
「わかってるわ!気をつけて!」
「あいよ!」
短いやり取りを追えると、康太は噴出の魔術で自分が弾き飛ばした体格のいい魔術師のもとに降り立つ。
幸彦は最も魔力が多い魔術師のもとに、倉敷は池に落ちた魔術師のもとにたどり着く。
三人の魔術師の前に立ったそれぞれは、自分の相手をしっかりと確認する。
最初に動いたのは倉敷だった。池という自分の術が有効な状況を最大限利用しようと一気に魔力を解放していく。
池に満ちていた大量の水が倉敷の意のままに動いていき、池の中にいる魔術師を捕えて逃さないように触手を伸ばしていく。
このまま水の檻にとらえてしまえば自分の勝利だと、倉敷は一気に勝負を決めるつもりだった。
だが次の瞬間、倉敷が襲い掛からせた水の触手がその姿を変えた。
いや、正確にはその状態を変化させていた。
水の触手はすべて凍り、倉敷の制御下から離れてしまったのである。
「よりにもよって・・・氷使いかよ・・・!」
自らが得意とする水の術に対する天敵とでもいうべき属性はいくつかある。水を蒸発させることができる火、水の進行を押しとどめることができる土、そして水を凍らせ固体へと変貌させられる氷。
今回の倉敷の相手は強力な冷気を扱えるようだった。
倉敷が一瞬絶望しかけていると、トラックの方から稲光とともに電撃が池へと向かって行く。
いくら相手が氷の魔術を扱おうが、すでに相手は池の中にいてまだ脱出できていない。この状態であれば電撃が有効だろうと文は判断し即座に行動に移していた。
だが次の瞬間、電撃を防ぐかのような動きで地面が勢いよくせり上がる。土と氷。その二つをこの魔術師は使うことができるのだと倉敷は歯噛みする。
よりにもよって自身の天敵となり得る術を二つも扱えるという事実に、倉敷は内心舌打ちしてしまっていた。
自分が一番の貧乏くじではないのかといら立ちを隠せなかった。だが康太と幸彦の方を見るとあちらもすでに戦闘を始めている。
助けを呼べるような状況ではない。時間を稼いで康太と幸彦が助けに来てくれるのを待つべきだろうかと考えたが、目の前の魔術師がそのようなことを許してくれるはずもなかった。
池の水を使って魔術師は倉敷めがけて氷の刃を放つ。
勢いよく放たれた氷の刃を、倉敷は巨大な波を作り出すことで押し返す。だが次の瞬間、倉敷の立っていた地面が勢いよく隆起し、その体を空中に投げ出した。
氷だけではなく地面にも気を遣わなければいけないのかと、倉敷は体勢を整えて何とか着地しながら池の周りを走る。
自分の立っている位置を常に変え、攻撃を当てられないようにしながら魔術師めがけて水の鞭と水の弾丸を放っていく。
だがそれらはみな一様に凍らされてしまう。水の弾丸に至っては氷の盾を作り出すことで防がれてしまっていた。
互いに攻撃力と防御力がほぼ同じ。そうなってくると不利なのは倉敷だった。
素質面で不利である倉敷に長期戦は望めない。倉敷は相手の魔術師の素質がどの程度であるかはわかっていなかったが、自分よりも上であると想定していた。
だからこそ早期に決着をつけるしかないと考えていた。
苦手な属性を相手に戦うなど何のメリットがあるのかと内心ため息をつきながら倉敷は目の前の魔術師に攻撃をし続ける。
倉敷が苦手な属性の魔術師と対峙している中、康太もまた自らの戦いに集中し始めていた。
体格の良い魔術師は康太によって地面にたたきつけられながらも、うまく受け身を取って態勢を整えて反撃する準備を整えた。
自分たち三人がそれぞれバラバラにされたということを即座に理解したのか、誰かに頼るということをするつもりはないようだった。
康太が接近してくるのに合わせ、康太めがけて炎の波を作り出していく。相手が炎の魔術を使うということで康太はウィルの鎧にエンチャントの魔術をかけて防御力をさらに上げ強引に突っ込んでいく。
広範囲に広がった炎程度ではエンチャントをかけられたウィルの鎧を突破することは不可能だ。
そして康太は黒い瘴気を魔術師めがけて這わせるとその体から魔力をわずかずつではあるものの吸い取っていく。
自らの魔力が吸い取られているということを理解したのか、魔術師は康太から距離を取ろうと炎をさらに強くし、なおかつ自分自身も後退していった。
だが相手が後退するよりも早く、康太は一気に接近していた。
身体能力強化に加え、噴出の魔術を用いたその加速は人間のそれをはるかに上回る。
一気に距離を詰めてきた康太に対して、魔術師が行った対応は適切だった。
空中に配置される無数の光る球。それがいったいなんであるのか康太はいくつか考えを巡らせて上空へと回避行動をとる。
見た目は文の使う雷属性の設置型魔術に似ている。似た性質を持っているのであればあれに触れれば連鎖的に電撃が襲い掛かるだろう。
そして康太が上空に退避たのを見計らって魔術師は康太めがけて炎を放つ。広範囲に放たれる炎を康太は大きな動きで回避していく。この程度の攻撃はよけるまでもないが、攻撃を受けてやる義理もない。
そして康太は遠くで戦っている倉敷の方に一瞬視線を向ける。
池は一部が凍り付き、倉敷が池の周りを走り回っているのが見えた。おそらく苦戦しているのだろう。
多少気を遣ってやらなければならないなと思いつつも、康太は目の前の敵に集中しようとしていた。
相手が使ってきた魔術はどちらも現象系。目視でこちらを確認しているようなそぶりがあるが、魔術師自らが炎によって視界が遮られているにもかかわらず確実に康太に攻撃を向けてきている点から索敵も同時に発動していると思われる。
ならばと、康太は自らが持つ装備の一つを展開していく。
背中に近い場所に配置された装甲が開き、そこから大量の鉄球が射出されていく。噴出の魔術と収束の魔術によって魔術師めがけて襲い掛かる鉄球は、蓄積の魔術を解放されたことにより一気に加速していく。
魔術師も攻撃が来ることを察知したのか障壁の魔術で防御するが、鉄球はその障壁を易々と貫通していく。
今までの鉄球であれば、これらを止められていただろう。だが、今の鉄球は正確に言えば『鉄』ではない。
鉄よりも重く、さらに固く特殊な加工がされた炭化タングステンを用いた球だった。
物体の威力は質量と速度によって決定する。炭化タングステンは加工の詳細にもよるが、同じ大きさならばおおよそ鉄の二倍以上の重さを有している。
同じ速度でぶつければ、当然威力も倍以上に跳ね上がる。噴出の魔術と掛け合わせた使用法によって威力の減衰も少なくなり、銃弾とほぼ同程度の威力を得ることに成功しているのである。
もっとも、その分装備が重くなり機動力が下がってしまうが、使えば使うほどに機動力は上がっていくことになる。
康太の射撃を受けて魔術師は単純な撃ち合いでは勝ち目はないと踏んだのか、康太の動きそのものを封じ込める作戦に出たようだった。
先ほど展開していた光球を空中に多量に展開し、康太の行動できる範囲を極端に減らしていく。
機動力が勝っている相手ならば動きを止めて攻撃する。常套手段に康太は眉をひそめながら、光球の隙間を縫って空中を跳びまわる。
これが攻撃かどうかも不明な状態で無理はできない。そんなことを考えていると文の方角から光球の一部に向けて電撃と水の弾丸が放たれる。
次の瞬間、電撃を受けた光球は大きくなり、水の弾丸が直撃した光球は周囲一メートルほどに電撃を放出していった。
だがほかの光球が連鎖反応していないことから、文の使う魔術とはまた少し違う魔術であることがわかる。
「ナイスタイミング・・・さすがベル、よくわかってくれてるな」
この光球が攻撃で、なおかつ物体に直撃すると放出するタイプの設置型魔術であるということが分かった時点で康太のとる手段は決定していた。
腕に取り付けていた装備の一つを展開する。
装甲から射出されたのは複数の鉄球に細いワイヤーがいくつも取り付けられ網のように形成された捕縛用の装備だった。
蜘蛛の巣のような形をした投網はまっすぐに魔術師めがけて飛んでいき、その途中にあった光球に触れその電撃を放出させていく。
そして魔術師を捕えようとするが、魔術師は障壁の魔術を展開することで網を防いで見せた。
だがすでに道はできた。康太は投網の後に続くように加速し魔術師の障壁めがけて槍を突き立てる。
何の強化もされていないはずの槍は、魔術師の障壁を貫通し、砕いて見せた。
「いくぞ・・・覚悟はいいか・・・?」
誤字報告を十回分受けたので三回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




