表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十四話「旅行で斬り捨てるもの」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1063/1515

女の戦い

「えっと・・・言いたいことは何となくわかった・・・けど俺はあの人の代わりを探してるわけでもないし、お前がその人の代わりになれるとは思えないよ」


「・・・えと・・・私、頑張って八篠君にいろいろ」


「頑張って誰かになれるなら苦労はないよ。俺が好きなのはそいつだけだ。それ以外のやつに好きになるつもりも、手を出すつもりもない・・・悪いけどな・・・」


努力して誰かの代わりになれるのであればどれほど楽だったか。努力だけですべて解決できるならどれほど簡単だったか。康太はそのあたりをよく理解している。


努力ではどうにもならないことがこの世界にはあふれている。それは才能というだけの話ではない。誰かが誰かの代わりになるなんてことがあり得ないということを康太はよく知っている。


いつの間にか康太の頭の中には真理ではなく文がいた。文が告白してきて、文のことを好きになって、康太は文以外の人間に好意を抱くというのが想像できなくなっていた。


そもそも、そんなことをすれば文にものすごく怒られるだろうし、すごく泣かれるだろう。そんなことをするつもりは毛頭なかった。


「というか一応確認なんだけど・・・これ・・・告白だよな?」


「え!?あ・・・はい・・・そうです・・・」


「えっと・・・一応ありがとう・・・けどごめんなさい。俺には心に決めた人がいるのでその気持ちには応えられません」


「・・・そう・・・ですか・・・」


目の前の萩野は目に見えて意気消沈してしまったように見える。少しでも可能性があると思っていたらしく、この修学旅行というタイミングで何とか関係を作ろうとしていたのだろう。


明らかに落ち込んでしまっている。ここまで落ち込ませるというのはさすがに申し訳なく思ってしまうが、こればかりはどうしようもなかった。


「疑問なんだけどさ、俺のどこがいいの?いいところそんなにないと思うんだけど。勉強も平凡だし、部活でもそんなぱっとしないしイケメンってわけでもないし・・・背がそこまで高いってわけでもないし・・・」


自分で言っておいて悲しくなってくるが康太は実に平凡な見た目をしている。細身で身長は百七十前半、髪の毛は短く、康太がいうように成績もそこそこ、部活でもそこまで活躍しているということはない。


顔立ちはやや三白眼気味で、やや釣り目気味。比較的平凡な顔立ちをしているといえるだろう。


康太よりイケメンな人間は山ほどいるし、康太よりも魅力的な人間は三鳥高校の中には山ほどいる。

その中でなぜ自分なのか、康太には理解できなかった。


「えっと・・・八篠君・・・時々すごくかっこよくなって・・・友達と話してるときはそうでもないんだけど、一人でいる時・・・たまに何考えてるのかわからないけど・・・それがすごく・・・」


時々かっこよくなるという言葉に康太は少し複雑な心境になってしまう。とはいえ何となく言いたいことはわかった。


そうでもないと言われたときは少し傷ついたものの、これで康太のことをあきらめてくれるのであればそれでいい。


「とにかく、悪いけどお前の気持ちには応えられない。もうみんなとはぐれそうだ、みんなのところに戻るぞ」


とりあえず合流しないと面倒なことになるだろう。康太は萩野の手を取って強引に引っ張る。


「・・・その人のこと・・・そんなに好きなの?」


「・・・あぁ、そいつ以外には考えられないくらいには好きだよ。それに、たぶん俺にはそいつ以外にはありえない」


文以外に自分のすべてを受け入れられる女はいないだろうと康太は考えていた。こんなひどい性格で、わけのわからない魔術に憑りつかれ、攻撃的なことばかり考えているような危なっかしい人間を受け入れてくれる人間なんて限られている。


「お前が悪いってわけじゃなくて、俺がちょっと変なんだよ。少なくとも、お前と一緒になってもお前が不幸になるだけだ」


「・・・そんなのわからないよ、やってみなくちゃ・・・」


変なところで意固地な奴だなと康太は苦笑しながら、その体から黒い瘴気を噴出させていた。


それが見えたのならまだ考えたが、彼女には黒い瘴気は見えていないようだった。当然だ、彼女は魔術師でも何でもないのだから。


「ほらな・・・やっぱり駄目だ」


「え?何か言った?」


「なんでもない。俺はあいつ以外は嫌だ。だからごめん。俺以外のいい男を見つけてくれ。青山とかどうだ?あいつも結構いい男だぞ?」


「・・・いつも一緒にいる人?あの人は・・・ちょっと・・・」


本人の知らないところで勝手に推薦されて勝手にふられるというなかなかかわいそうな状況になっているが、青山にいつか彼女ができることを祈るほかない。


康太は面倒くさそうに萩野の手を引きながら、ひそかに団体に紛れるように友人たちと合流した。


そして人ごみに紛れると同時に萩野の手を放し、ゆっくりと離れていく。


「あぁもう・・・なんでこんないやな気分にならなきゃいけないんだか・・・」


告白されるという男子高校生ならばうれしいはずのイベントだったというのに、康太の気持ちは落ち込む一方だった。





















「あぁ、やっぱり告白だったのね」


その日の夜、康太は文と話をしていた。話の内容はこの日の告白に関してである。今日告白をされてから、康太が鬱陶しく感じていた視線は消えていた。


康太の不満は解消された形になるのだが、康太は少し腑に落ちないという表情を浮かべていた。


「・・・お前・・・知ってたのかよ・・・」


「そりゃね。女子のネットワークを甘く見ちゃいけないわよ。こういう色恋沙汰に関しては特にね」


年頃の女の子というのは良くも悪くも色恋沙汰に弱いということである。それは文の周りの同級生も同様であるようだった。


文は魔術と話術を武器に同級生たちから情報を集めていたのだろう。そして康太の親戚という偽の立場を利用していろいろとアプローチをかけていたようだった。


そしてそこに引っかかったのが、先ほどの萩野というわけである。


「・・・一応さ・・・止めようとか思わなかったのか?」


「だって視線が鬱陶しかったんでしょ?見るのを止めるには玉砕する以外に方法がないじゃないの」


「・・・玉砕しない可能性に関しては考えなかったのか?」


「考えなかったわけじゃないけど・・・まぁ、そのあたりはあんたを信じてたってことで・・・ね?」


少しいたずらっぽく康太に微笑みかける文に、康太は少し複雑な心境になりながらため息をつく。


康太としては少し嫉妬してほしかったというのと、心配してほしかったというのもある。経緯や内容はどうあれ、彼氏がほかの女から告白されているという状況だったのだ。もう少し何かしら思ってくれてもいいのではないかと思えてしまう。


「私としてはさ、心苦しくもあったのよ?あの子の気持ちわかっちゃうから」


「気持ち?」


「人を好きになるって気持ち・・・どうしようもなくて、見ないように、考えないようにって思ってても、やっぱりいつの間にか目で追っちゃってて、頭の中そればっかりになっちゃうのよ」


「・・・さすが恋する乙女は違うな、よくわかってらっしゃる」


「・・・そのあたりは男子と女子じゃ違うのかもね。いや、あんたとは違うというべきなのかしら?」


「・・・どうなんだろ、よくわからない」


康太は間違いなく文が好きだ。だが文が先ほど言ったような感覚や考えはそこまで浮かんでこない。


文が康太に抱いている好意と、康太が文に抱いている好意は別物であるということであるのか、康太は悩んでしまっていた。


好きという言葉一つで片づけられるほど人間の感情は単純ではない。その程度のことは理解している。


だがそれにしても、その状態を表す言葉が少なすぎることに、康太は少しだけ煩わしさを覚えていた。


「その気持ちがわかるから、焚きつけたのか?」


「焚きつけたっていうのは正確じゃないわね。あの子、もうこの修学旅行で告白するつもりだったのよ。私は少し導いただけ」


「・・・なんか性悪の魔女みたいだぞ?」


「ひどいこと言うわね。性悪かどうかはさておき、魔女っていうのはあながち間違ってないかもね」


文は楽しそうに笑った後で、少しだけその笑みに影を落とす。


あの子の気持ちがわかるといっていた。その気持ちがわかっていて、その気持ちが満たされることがないとわかっていて、文は彼女を導いた。


決して成功することのない道へ、彼女を歩ませた。


文ならば止めることだってできただろう。別の方法だってとれたかもしれない。文のもつ魔術を使えば、この修学旅行中には無理かもしれないが、長時間かければその気持ちを康太ではない誰かに向けさせることだって不可能ではなかったはずだ。


だがそれをしなかったのは、おそらく彼女なりのけじめだ。


「・・・そんな風に笑うくらいなら最初から止めときゃよかったのに」


「それはダメよ・・・それは私が許さない。あんたは正々堂々と勝ち取りたいの」


自責の念を覚えたとしても、後悔したとしても、文は康太を勝ち取りたいと考えていた。


魔術に訴えれば、魔術に耐性のない一般人は簡単にその気持ちを変えるだろう。


だがそれではだめなのだ。いくつもの選択肢があって、多くの女性が周りにいて、その大勢の中から文は自分を選んでほしかった。


「康太、女の子にとって恋っていうのは命がけなのよ。誰かに好かれたいとかそういうのじゃないの。特定の人に好きになってほしいの。他の有象無象なんてどうでもいいのよ」


「なんかものすごいこと言ったな。世の男性を有象無象扱いかよ」


「当たり前じゃない。あんたに比べたら世の中の男なんてミジンコ同然よ。それだけ私があんたを高く評価してるんだってこと、よく覚えておきなさい」


そういって文は立ち上がり、未だ座っている康太の顔を両手で包む。


「そして覚えておきなさい。この先何百人って女があんたを誘惑しても、あんたが私を選んでくれるような女でいてみせるわ。必ずあんたに私を選ばせてみせる」


自信満々に、それでいて少しだけ楽しそうに笑って見せた文は康太に背を向けるとそのままホテルの中を歩いていく。


その場に残された康太は女の子は大変なんだなという感想しか抱くことができなかった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ