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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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それぞれの特性

「ていうかそこまで詳しいなら複製もできるんじゃないのか?適当な分身もどきもできるっぽいしさ」


「あのね・・・私もそこまでなんでもできるってわけじゃないのよ?ちょっとまって・・・術式だけなら・・・」


恐らくは複製の一種の魔術を以前どこかで見たことがあるのだろう。エアリスの修業場にはありとあらゆる魔術の術式が保管していあるようだった。子供のころからあの場に出入りしていたのであれば複製の魔術をどこかしらで見ていても不思議はない。


「あー・・・よりによって土属性か・・・苦手なんだけどなぁ・・・」


該当する術式を記憶の中から掘り起こしたのか、文は眉間にしわを寄せながら集中していく。魔力が練り込まれ魔術が発動すると文の手のひらの中にゆっくりと何かが作られていく。


まるで半透明な繊維で編み込まれていくかのように、文の手の中にあるそれは徐々に形を成していく。数分かけてその手のひらの中に一つの箸を作り出して見せた。


二本で一対の箸だ。文が弁当を食べる時に使っていたそれを複製したようなのだが微妙に形が違う。というか二本とも同じ長さにならないとおかしいのに微妙に長さが違っていた。


約二センチほど片方だけ短い。しかもオリジナルは四角錐なのに対して複製の方は円錐のそれに近い。もっと言えば真っ直ぐではなく若干湾曲している。恐らくこれが今の文の複製の限界なのだろう。


「うっわ・・・自分で作っておいてなんだけど酷いわね・・・」


「お前でもそんなに難しいのか・・・やっぱ難易度高めなんだな」


「苦手な属性っていうのもあるけどね・・・わかったでしょ?これだけ時間がかかるのに得られるのはオリジナルより劣った物品ができるだけなんだから。正直そこまで有用な魔術ではないわ」


そう言いながら文は複製された箸を軽く手で握って見せるが、すぐに投げ捨ててしまった。


放り投げられた箸は地面に落ちるよりも早く霧散してしまった。


今のが複製の魔術。解除すると霧散してしまうただの複製。確かに彼女の技術をもってしてもあの程度の物しか作れないとなると複製の魔術を極めることに対する意義を見出すことは難しい。


「ただのものでもあんなもんか・・・ちなみになんか特殊な道具とかは複製できるのか?ゲヘルの釜みたいなマジックアイテムとか」


「もちろんできるわよ。ただそう言う特殊なものであればあるほど複製の難易度は跳ね上がるわ。少なくとも私はできる気がしないわね」


マジックアイテム。魔術的な効果を持った道具のことを総称して康太はそう呼んでいるのだがそう言った物もどうやら複製することはできるらしい。


もちろんそれだけ複製の難易度は上がるようだ。現実というのはままならないものである。


「それじゃマジックアイテムを売りさばくのも無理そうだな・・・いやでも待てよ・・・一時的にでも金を複製できるようになればそれを使ってすぐに魔術解除で問題なく買い物できるんじゃ・・・」


「あんたお金がどれだけ細かく細工してあるか知ってるわけ?できたとしても単純な硬貨くらいのものでしょ?労力に対するリターンが少なすぎるわよ」


先程文は単純な構造である箸でさえも相当苦労して作っていた。それを紙幣や硬貨で同じことをしようとなると一流以上の技術がいるだろう。


硬貨ならばまだ何とかなるかもしれないが紙幣に関してはいろいろと仕掛けがしてある。それら全てを複製の魔術で作り上げることができなければ康太の頭の中に描いているような行動はとれないだろう。


複製の魔術を覚えても最大で五百円程度の買い物しかできないのでははっきり言って覚えない方がいい。というかそもそも偽金を当たり前のように作ろうとする康太の頭に若干ではあるが呆れてしまっていた。


文は知らないことだが以前も康太は方陣術の技術がカンニングに利用できるのではないかと考えていた。康太は基本的にそこまで善人というわけではなく、技術を知ってそれをまず悪いことに利用しようとしてしまうのである。それを実行するかどうかは別問題だがそう言う考えをまず最初に浮かべてしまうあたりその人格が歪んでいることがうかがえる。


いやもしかしたらこれが正常なのかもしれないと文は小さくため息をつく。


「なんでもいいけど、お願いだから面倒だけは起こさないでよ?特に魔術を使った犯罪とかは本当にやめてよね」


「わかってるって、そこまでバカじゃないっての。こういうのは考えるのが楽しいんじゃんか。あぁでもないこうでもないって完全犯罪考えるようなもんだって」


「・・・ごめん私その考えはわからないわ」


人間誰しも一度は完全犯罪に関して考えたことがあるだろうくらいに思っていた康太はかなり驚いてしまっていた。


魔術という超常的な技術に出会って以来、できることできないことを模索しながらどのような事ならできるか、どのような犯罪ならできるかという事をかなり真面目に考えていた康太。


実際に犯罪を犯すような度胸は無いがこういうのは考えるだけならタダだ。むしろ考えるだけだからこそ良いのだと思っていた。


もちろん誰しもこういうことを行うわけではないというのを初めて知ったショックは大きいが、今のうちにそれを理解しておいてよかったのかもわからない。


「うっそだろおい・・・男なら誰だって考えるぞこのくらい」


「男子がそうなのかどうかは知らないけど私は女子だから。ていうかその考えも偏見に満ちてると思うわよ?」


文の指摘にそうかなぁ・・・と康太は首をかしげてしまっている。実際全ての男子がそのようなことを行っているかと聞かれると正直疑問である。


「そういやお前って土属性の魔術苦手だったのか?なんか何でも使えるようなイメージあったけど」


「そりゃ使おうと思えば何でも使えるわよ。ただ得手不得手は誰にだってあるでしょ?ていうかそれが当たり前なの」


人間得意なものがあればその逆、つまりは苦手なものがあるのが当然だ。それは魔術に関してだけではなくそれ以外のあらゆるものに該当する。


運動が得意な人もいれば逆に苦手な人もいる。勉強の特定の教科が得意な人もいれば逆もまた然り。どのような物事にも得手不得手があるのが人間というものだ。


自分より魔術師としての経験があるとはいえそのあたりが変わるわけではない。得手不得手は克服しても当然のように存在するのだ。


「あんたも一応各属性の魔術で得意とか苦手っていうのは調べておいた方がいいわよ?一番得意なのが無属性ってのはわかってるんでしょ?」


「あぁ、起源を調べてもらってそこから判別したけど・・・それ以外の属性の魔術ってのは使ったことがないな・・・」


「それなら今からでもいいから二個目の属性を使うことを念頭に入れておきなさい。一つの属性だけじゃどうしたって限界があるもの。必要ならうちの師匠やあんたの兄弟子に協力を要請しなさい」


本来であれば複数の属性を扱ってみて自分の適性のある魔術を重点に使用していくのが魔術師としての魔術の修得方法だそうだ。


得手不得手というのは必ず一つのものとは限らない。いくつかのものが得意なものもあるだろうし、逆に複数のものが苦手という例だって存在する。


文の場合で言えば雷水風光という四属性を得意としている。逆にどれくらい苦手な属性があるのかは知らないが先程の複製を見る限り苦手と言いながらも使えないわけではない。


選択肢は多くしておいた方がいいという事は理解できる。だが同時に魔術師になった時の師匠である小百合の言葉を思い出していた。


「でもさ、俺みたいな駆け出しだったら得意なのをとにかく覚えていったほうがいいんじゃないのか?師匠とかからはそんな感じの事言われたけど」


複数の属性に手を出すよりは一点突破に訓練したほうがいいという内容だった気がする。


康太は魔術師としてのスタートが遅かったため周囲に追いつくためには得意な属性をとにかく覚えて少しでも多くの魔術を身に着けることが最優先。あまりに多くを学びすぎるとどっちつかずになるというのが彼女の談だった。


「まぁ確かにそれもそうだけどね・・・自分がどの属性に向いているかどうかくらいは知って損はないと思うわ。無属性の魔術は確かに汎用性は高いけど、相手にそれしかないと悟られるより『騙し』目的で覚えるってのも手だしね」


騙し目的というのはつまり相手がどの魔術を扱えるかという点においての駆け引きに使用される考え方なのだろう。


先日戦った魔術師は徹底して氷の魔術を使ってきた。康太は途中からこの魔術師は氷の魔術しか使わない、あるいは現状では使えないと判断して徹底してそれに対応する形で攻撃を仕掛けた。


もし相手がもう少し別な魔術も有していたら康太の行動はまた変わっていたかもしれない。


相手も康太が無属性の魔術しか使ってこないという事には半ば気付いていたかもしれない。だからこそ完全に伏兵となっていた文の一撃が決まったのだ。


魔術戦において相手がどの属性の魔術を扱えるのかというのを把握するのは基本であり最重要事項でもある。そしてそれを上手く行えないようにするために騙し目的、つまりはこけおどしのような形で魔術を修得するのも悪くはないと文は言っているのだ。


小百合の言も文の提案もどちらも比較的実戦に近い形での案だ。どちらを取るべきかは結局康太の決定に左右されるだろうがどちらかというと文の提案の方が魅力的だ。


もちろんメインで修業するのは無属性の魔術になるだろう。覚えやすい魔術から覚えていって徐々に手の内を増やしていくというのは何らおかしな話ではない。だがまずは得意不得意を調べてその中で無属性以外に一番適性のある属性の魔術を覚えても損は無いように思えるのだ。


もちろん急ごしらえの魔術がそうそう役に立つとは思えない。まだ三つの魔術しか覚えていない康太からすればまだ手が届くかも怪しい部類の難易度だが、それでも挑戦してみるのは悪いことではないはずである。


「とりあえず得手不得手だけは調べておくかなぁ・・・そうしないと何ができるかどうかも分からないし」


「わかったわ。今日あんたの所で・・・やるのは危なそうね、うちの方で調査しましょ」


「そうだな・・・師匠のところでやったらまた死にかけるかもしれないし」


ただ魔力の適性を調べるだけでも死にかけた康太からすればちょっとした調査であっても小百合の下で行う気はしなかった。


何度も何度も死にかけていたら命がいくらあっても足りないのだ。自分の命を投げ捨てられるほど康太は自暴自棄にはなれない。


「一応師匠に話しておくから、今日はうちの方に来なさい。もしあれならジョアに来てもらってもいいかもね」


「あぁ、確かにあの人も複数属性使えるもんな。何かしらいいアドバイスがもらえるかもしれないな」


複数属性扱える魔術師は文だけではない。一応兄弟子である真理も複数の属性を扱うことができるのだ。


文は雷水風光、真理は地水火風のそれぞれ四属性。二人がどの属性が一番得意かというのはこの際おいておいてもらえるアドバイスは何だってもらっておくのが吉だろう。


自分の師匠である小百合がどのような属性を扱えるのかははっきり言って不明だ。無属性が得意ということ以外分かっていないのが何とも複雑である。自分も同じ状況であるゆえに小百合の上位互換となるか下位互換となるか、それが今日決定すると言っても過言ではないだろう。















康太と文は放課後真理と合流してからエアリスの修業場へとやってきていた。図書館の地下という特殊な立地であるゆえに比較的通いやすいが誰かに見られるのではないかと戦々恐々である。


「それにしてもビーの二個目の属性ですか・・・私たちが扱える魔術ならいいんですけどね」


「確かにそれならアドバイスとかももらえますもんね。その方が俺としてもありがたいです」


大学の授業を終えた真理はそのままこちらにやってきたのだろう。私服にカバンを持ってその中には幾つも教材が入っているのがうかがえる。


なんというか本当に大学生らしい一面である。


「ところで姉さんは四つの属性の中でどの属性が一番得意なんですか?前は水の魔術使ってましたけど」


「そうですね・・・一応得意なのは水と火でしょうか。比較的扱いが楽な部類のものですね」


「へぇ・・・ベルは?」


「あんまり他の人に得意属性とか教えない方がいいんじゃ・・・まぁいいか・・・私は雷と風が四つの中では得意かな。雷はちょっと扱いが難しいけど」


文の主力の魔術は基本的に雷を基本としている。防御や移動に風を使っているという事もあってある程度風も得意な魔術であるらしい。


思えば屋上から飛び降りても助かったのは文が風属性を得意としていたからだったんだなと思い出し康太は何度も頷く。


やっぱり複数の属性が扱えることはよいことだなと思いながら康太たちは図書館の地下へ続く階段を歩いていく。


階段を下り終え、扉を開くと康太は何度か来たことがある本棚の群れがそびえる部屋が広がっていた。


相変わらずすごい数の本棚と思いながら康太たちは一礼した後でその中に入っていく。


「いらっしゃい・・・今日はジョアも一緒か」


「いつもビーがお世話になっています。今日はこの子の属性を調査するのに同席させていただきます」


まるで保護者の立ち振る舞いだなと思いながらも実際間違っていない。兄弟子であり師匠がいない今真理こそが康太の保護者のようなものだ。


実力的にも性格的にも康太を守ることができる唯一の魔術師であると言っていいだろう。


「それは構わないが・・・自分の二番弟子を私のところで属性調査などと、あのバカは何か言っていたか?」


「まぁちょっと拗ねていましたが、自分のやるそれが危険であるということくらいは理解しているみたいです。あ、あとこれつまらないものですが」


「おぉ・・・これはこれは・・・あいつも君のように丸くなるといいんだけど・・・」


「それは難しいでしょうね・・・あの人のあれは筋金入りですから」


何やら妙なやり取りをしている真理とエアリスを横目で見ながら文はてきぱきと属性を調べるための準備を進めていく。


互いに仲の良い魔術師はこうして交流を持つものだ。互いの弟子を交流させて互いに研鑽させることでさらに上を目指す。所謂ライバルのようなものだ。


もっとも小百合とエアリスの仲は最悪と言ってもいい状況ではある。だが小百合の弟子である康太と真理はそこまでエアリスに対して嫌悪感を抱いているというわけではない。小百合もエアリスの弟子である文にそこまで強い嫌悪感を抱いているというわけではない。そう言う意味では弟子同士の交流というのは問題なく行えるのだ。


師匠同士の交流がほぼゼロなのはもはや仕方がないと言えるだろう。


「あと今度のゴールデンウィーク、別荘を貸していただけるという事で、本当にありがとうございます」


「気にすることはない。あいつに借りを作ったままというのは気に食わないというだけさ。うちのベルをよろしく頼むよ」


「はい、責任もってお預かりさせていただきます」


もう魔術師の会話というよりは保護者同士の会話に近い。こういう現場を見るのは本当に新鮮だなと思いながら康太は文の手伝いをしながらその様子を眺めていた。


「なんていうかさ、エアリスさんって本当に常識人っぽいよな。うちの師匠とは大違いだ」


「あんたの所の師匠がちょっと変なだけでしょ?あれで超がつくほど優秀なんだから厄介極まりないけどね」


文に言わせると小百合は超がつくほど優秀らしい。もちろんそれは良い意味でも悪い意味でもだ。


徹底的に問題児扱いされているという意味では悪い意味だし、問題解決する技術などに関しては一流と言ってもいいほどだ。あれであの性格と面倒事を引き寄せる体質さえなければ魔術協会からの評価ももっと違っていただろうと文は小さくため息をつく。


「うちの師匠ってそんなにすごいのか?なんかそんな感じしないけど」


「あの人が関わった事件ってたいていが面倒なものばっかりなのよ。しかもそう言うの全部解決済み。資料で読んだ中では死屍累々な現場もあったみたいよ?後始末は面倒だけどその分成果もすごいんだって」


「あー・・・あの人壊すこと専門だって言ってたもんなぁ・・・」


小百合は自他ともに認める程に壊すことに関しての専門家だ。それこそありとあらゆることや物を壊すことができるのだろうが、当然その後片付けや事後処理などは全くと言っていいほど得意ではない。


特に魔術などの隠匿、あるいは証拠隠滅などの作業は自分から好んではしないのだろう。他にやる人間がいない場合は仕方なしにやるだけで本来できないのだからやる理由がない。


周りの人間に後始末をすべて押し付けるという意味では迷惑極まりないが、それでも問題を解決しているのだから優秀というほかない。確かに厄介極まりない存在だと言えるだろう。周囲の人間が一目置くのも納得できるというものである。いい意味でも悪い意味でも。


評価者人数が95人突破、そして日曜日なので合計三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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