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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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得手不得手

「ということになりそうだ。もうエアリスさんから話は聞いてるだろ?」


「あー・・・昨日の話はそう言う事だったのね・・・ようやく理解できたわ」


康太は翌日、昼休みに文と一緒に屋上で昼食を食べていた。


当然屋上は基本的に出入り禁止であるために文の魔術で鍵を開けてもらったのだが、そんな事より今重要なのはゴールデンウィークの予定の話である。


恐らく昨日の段階で小百合が電話した時、文もエアリスの下にいたのだろう。すでにゴールデンウィークの話は聞いていたようだがそこまでに至る内容を聞いたことでようやく現状を理解することができたようだった。


「まさか商談ついでに休みに行くなんてね・・・まぁ別荘でのんびりできるってのは悪い気はしないけどさ・・・」


「まぁな、ていうか俺としてはエアリスさんが別荘持ってること自体がびっくりだ。あの人って結構な金持ちなのか?」


そう言えばエアリスが拠点にしているのは図書館の地下だったということを思い出す。普通地下を作るのはかなり面倒だ。金もかかるし時間もかかる。そんなものを作っている時点で彼女は実はかなり潤沢な資金を有しているのかもしれない。


「あー・・・どうかしら。たぶんそれなりには持ってると思うけどそこまでお金持ちって印象はないわね。普段からして贅沢してる感じでもないし」


「でも別荘なんてそうそう持てるものでもないだろ?まぁ泊まれること自体はありがたいけどさ」


「まぁね・・・ていうかリフレッシュ代わりに商談の付き添いってどうなのかしら」


今回の事はあくまで康太と文、そして真理のリフレッシュが目的だ。小百合の商談に付き合う事でそれらを一度に行ってしまえというのが本音なのだろうがゆっくりと別荘での時間を過ごせるというのは学生身分としてはありがたいことこの上ない。


「ちなみにエアリスさんは来るのか?師匠の商談含めとはいえさすがにあの人が保護者役ってのは・・・」


「うちの師匠は来ないわよ、別の予定があってね。鍵とかそう言うのは私が預かっていくことになってるわ」


「うわマジか・・・いや姉さんも一応保護者役だから何とか・・・なるか・・・?」


今回のゴールデンウィークの商談に参加するのは康太、小百合、真理、文の四人になりそうだった。


その中で約一名トラブルメーカーがいるが、どうなるのだろうかと不安になってしまう。


「ていうかよくエアリスさん別荘貸してくれる気になったな。うちの師匠のこと毛嫌いしてたはずなのに」


「なんでも私たちが旅行に行ってる間にひと悶着あったみたいよ?その時そっちに借りを作っちゃったみたいでそれを返すために貸すんだってぼやいてたわ」


何があったかまでは教えてくれなかったけどねという文の言葉に康太は半ば納得する。


良くも悪くもあの二人は反目しあっている。互いに貸し借りなど作りたくないから早々に清算しておこうという腹積もりだったのだろう。


そこに都合よく小百合の商談、さらには弟子たちのリフレッシュが重なったというだけの話だ。


運がいいんだか悪いんだかわからなくなってくるなと思いながら康太はため息をつく。


「にしてもなんでわざわざ商談なんて出向くのよ?そんなの郵送でいいんじゃないの?」


「いやなんか実際に手に取って確認したいんだと。方陣術に使う紙となんかの薬品が欲しいんだとか。前に師匠がお世話になった人らしくてな」


「へぇ・・・そんな人いるんだ・・・まぁでも気持ちはわかるわね。自分にあった紙じゃないとちょっと術のかかり方が違ったりするから」


康太は方陣術をまだ扱えないからそう言った感覚はわからないが、やはり人によって相性というものがあるらしい。


魔術にも属性などの相性があるが方陣術にも同じように相性があり、それにあったものを使うことによって術の性能が上がったりするようだ。


「やっぱり方陣術って慣れたものとか相性がいいもの使ったほうがいいのか?」


「まぁね、自分の体じゃなくて体外の物質に術式を刻み込むわけだから相性は大事よ。中には紙じゃなくて木とか金属とかとの相性がいい人とかだっているしね」


「金属、そんなのもあるのか・・・なんか大変そうだな」


紙などは基本的に軽く、証拠隠滅も容易だが金属となると重く、証拠の隠滅も容易ではない。


紙などは燃やしてしまえばいいが金属は燃やしたところで簡単に消えるものではないのだ。高温で熱しない限り形もそうそう変わらない。ましては刻み込まれた術式などを排除するのは相当時間がかかるだろう。


「まぁ大変でしょうけどその分利点もあるわ。他者からの妨害を受けにくいっていうのと設置するときに遠距離から飛ばすってことができるんだもの。大抵どんなものにも得手不得手があるのよ」


文のいうように、そして先日の旅行の際に康太がそうした様に紙などはいちいち設置場所に足を運び何かしらの重しなどを施さないと飛んで行ってしまうことがある上に一般人でも簡単に消すことができてしまう。


それこそタバコの火でさえも脅威になる。そう言う意味では設置が面倒な割に物理的な排除も容易なのである。


逆に鉄に刻まれた方陣術などはその場所から基本動くことはないし、仮に誰かしらの妨害を受けたところでそう易々と術式が物理的に破壊されることはない。


どちらがより便利かといわれると正直どちらも便利だしどちらも不便だというほかないのである。


「あんたも方陣術を覚えればなんとなくわかるようになるわよ、私なんかは紙の方が相性がいいから結構多用してるけど、たまには杭みたいなものに刻み込んだりもするわよ」


その分複雑な術式は書き込めないけどねと付け足しながら文は弁当の具を口の中に放り込む。


方陣術の術式というのは複雑になればなるほど必要面積が増える。その為に紙などであれば比較的書き込みやすいのだが杭のように書き込める面積が少ないと当然単純な術式しか書き込めない。


どのような効果を書き込むか、どのようなものに書き込むか、それら全てを考慮に入れたうえで方陣術は使わなければいけないのだ。


なかなか面倒だなと思いながら康太も一度は方陣術を扱ってみたいとは思っていた。


もっともただの魔術でさえまだ数個しか使えないのだ。そんな高等技術に手を出すのは恐らくかなり先のことになるだろうなと康太も同じように弁当の具を口の中に放り込んでいく。


「でもやっぱ魔術と方陣術は使いたいよな・・・精霊術も可能なら使いたいけど・・・そもそも無属性の精霊っているのか?」


「無属性の精霊ってのは私は聞いたことないわね・・・そもそも自然的な属性を有しているから精霊って言われるわけでしょ?それがないんならそもそも精霊なんかにならないんじゃないの?」


自分が無属性の魔術が得意という事もあって精霊術を扱う場合無属性の精霊を仲間にしなければいけないわけだが、無属性の精霊というのは文もどうやら聞いたことがないらしい。


思えばゲームなどでも精霊というとたいていが属性を持っている。地水火風やら光や闇やらその種類は様々だが無属性の精霊というのは康太も聞いたことがない。というか無属性という時点で自然現象的なものがあるとも思えなかった。


「そうか・・・そうなると精霊術は難しいかなぁ・・・」


「あんたもいっそのこと属性魔術覚えればいいじゃない。得意じゃないにしろ何かしら覚えておいて損はないわよ」


「えー・・・まぁ一応使うことはできるんだろうけど・・・」


康太は魔術師だ。苦手であるとはいえ一応他の属性の魔術も扱えるだけのポテンシャルは有していると言っていい。


もっともどれくらいの精度で魔術を発動できるかはやってみない限りわからないのだが、それでも使えないよりはましというものだろう。


「ちなみにさ、文の場合はどうなんだ?やっぱ得意じゃない属性の魔術使うと精度とか威力とかが落ちるのか?」


「そうね、例えば炎の魔術を使う場合威力と精度が二割減ってところかしら。それでも風の魔術と併用すれば同じくらいの威力で扱えるけど・・・」


どうやらその魔術単体では多少劣化するようだが、他の属性魔術と併用してその効果を助長することで威力に関してはある程度補強できるらしい。


だが当然同時に複数の魔術を使うというのは面倒だ。いろいろと疲れるのは言うまでもない。それなら得意な魔術を使ったほうがいくらか楽なのだ。


「んんん・・・確かに威力がちょっと落ちるくらいなら・・・でも難しそうだよなぁ・・・使った感じどれくらいの差がある?」


「そうねぇ・・・ポケモンで言うところの不一致技で攻撃してるくらいかしら」


なんとも反応に困る例えだが、それで納得できてしまう康太も康太である。


文の出した例えは技のタイプがポケモンのそれと一致していなかった場合、一致していた場合に比べて威力が下がる現象のことを指している。


正確にはタイプ一致すると威力が数割上昇するというものだ。康太の場合は無属性、つまりはノーマルタイプの攻撃は数割上昇。文の場合であれば雷水風光の四つの属性の場合数割上昇といった感じである。


もっとも実際の魔術の場合そんなに簡単な数式であてはめることができるはずもないが。


「そもそも俺って無属性魔術しか扱ったことないんだけどさ、属性魔術を発動する場合ってなんか違うもんなんじゃないのか?精霊術云々の話があるわけだし」


康太の言っているのは魔力の性質の話である。精霊を介して魔力を操作するとその精霊の属性専用のものに魔力が変質してしまいその属性しか使えなくなってしまう。逆に言えば属性専門の魔力というものが存在しているという事でもあるのだ。


つまり属性魔術を扱う場合、自分で魔力をある程度操作する必要があるのではないかと思ったのである。


「あー・・・まぁ感覚的にちょっと違うかもね。魔力の操作をその分やらなきゃいけないけど、大抵すぐ慣れるわよ」


文曰くそんなにたいしたものじゃないという事のようだが、まだ普通の魔術しか扱えない康太にとってはそれでもだいぶ難易度が高く感じてしまう。


そもそも魔力の属性などと言われても全く分からないのだ。一度精霊に協力してもらって別の属性の魔力を注いでもらうのもいい経験になるかもしれない。


「やっぱりちょっと変化させなきゃいけないのか・・・面倒だな・・・」


「方陣術の場合もっと面倒よ。その属性にあった魔力だけじゃなくて量や波長も精密に変化させなきゃいけないんだから」


「うっへ・・・さらに難易度上がるのかよ・・・なんか一人前になれる気がしないな・・・」


「一人前どころかあんた普通の魔術師がもってる魔術も持ってないでしょうが、そんなこと気にしてる余裕あったら修業しなさい修業」


まったくもって反論できないほどの正論に康太は項垂れてしまう。学生としての生活もしなければならないというのに魔術師としての修業もしなければならない。


自分の体が二つあればもう少しまともになるのになと本気で思ってしまうあたり徐々に壊れてきているのだろうかと思えてしまう。


「なぁ文、分身できるような魔術ってあるか?」


「はぁ?いきなり何言ってんのよ」


「いやさ・・・学生として生活する俺と魔術師として生活する俺を分割できないものかと真剣に悩んでてな・・・」


康太の言い分を理解してなお、文はあまりいい顔はしていなかった。分身というのは一見すれば簡単に見えるかもしれないがその実高等技術なのである。


無論できないわけではない。だがそれを行うのは容易ではないのだ。


「分けたところで片方はあんたが操るわけだから苦労的にはあんまり変わらないわよ?それに基本的にただの人形みたいなものだし」


「え?消したら経験値が本体に移るとかそう言うのは無いのか?」


「ないわよそんな都合のいい魔術」


某忍者漫画のように手っ取り早く修業するには一番だと思ったのだが、どうやらそんなに世の中甘くないようだ。


誤字報告五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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