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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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今回の行き先

「あの、その商品の取引相手って魔術師ですよね?」


「当然だ。そんなものを一般人に渡すわけがないだろう」


「その人って、師匠のこと敵視してたりしないですか?」


康太が最も恐れているのは今回の取引相手が小百合と敵対していて商品を守りながら戦わなければいけないような状況だ。


康太は基本的に守りの魔術をまだ覚えていない。この前の事件の後に小百合曰く防御の魔術の術式だけは教えてもらったがまだまともに発動できないのだ。


実戦で使えたという事もあって蓄積の魔術は満足に扱えるようになってきたもののその練度は分解や再現のそれには届かない。


まだまだ修業不足であることが否めない中守りながらの戦いというのはかなりつらいものがあるのである。


「安心しろ。その人は私が昔から世話になっている人でな、私に喧嘩を売るようなことはしない」


小百合の言葉に康太は安堵の息を吐いてしまう。商売相手が敵という可能性はほぼ消えたものの、まだ危険が無くなったというわけではない。


今回扱う商品に関してはかなり高価なものであるらしいし、それを狙うものがいるかもしれないのも事実である。


「ちなみにその人ってどんな人なんですか?」


「私の師匠の知り合いでな、私が魔術師になった時からいろいろと世話をしてくれた人だ。魔術と方陣術のスペシャリストで相当の実力者だ。まぁ最近は仕事が忙しくて魔術的なことはできていないと言っていたが」


魔術師というのは基本的に生業にするようなものではない。その為大抵の人間が魔術師以外の顔を持っているのが普通だ。


康太なら高校生、真理なら大学生、そのほかにも人によっては会社員や主婦、中には政治家などの顔を持っているような魔術師もいるかもしれない。


その為表の顔と魔術師としての顔を同時にこなす必要があるのだが、基本的に生活に直接かかわってくる表の顔を優先するのは当然だろう。


そう言う意味では魔術師というのは副業、ないし趣味のような形になってくるのも仕方のないことなのかもしれない。


二足の草鞋というのが正しい表現なのかどうかはさておき、社会人が魔術師として活動できる時間などには限りがある。そう言う限られた時間にこうして買い物や約束を取り付けたりするのだろう。


「姉さんはその人にあったことがあるんですか?」


「えぇ、確か名古屋に住んでいる方だったはずです。確か歳は・・・今年で五十・・・いくつかだったはずです」


五十代となるともうすぐ定年というのもあるだろうが働くのも佳境に入っている時期だろう。役職的にはかなり上の立場になっていても不思議はない年齢だ。小百合が確か二十代半ばだったから親と子供くらい年が離れていることになる。


世話になったというのも恐らく魔術師的な事だけではないのだろう。


「へぇ・・・魔術師的にはどういう人なんですか?」


「基本的に方陣術などを使った結界の作成を得意とする術師ですよ。一定範囲内に特定の条件を作り出すのが上手い方でその中に入ったら魔術師でも術にかかってしまうかもしれません。それほどの実力者です」


どうやら話を聞く限り戦闘に向いているというよりは補助などを得意とした魔術師であるらしい。戦いにならないという意味でも魔術の隠匿をするという意味でもかなり重宝するタイプであるということがわかる。


少なくともその人とは敵にはならないだろうなと康太は高をくくっていた。


「会いたいなら会わせてやるぞ。どうせ商品を運ぶのを手伝ってもらうんだ。その程度は事前に話を通しておいてやるが」


「あー・・・まぁ興味はありますけど・・・会ったところで特に何か用があるってわけでもないですし」


昔の小百合のことを知っている数少ない人物という点では会ってみたくもある。いろいろ話を聞いてみたいし何より結界に長けた人物という事で多少技術を見てみたいというのもある。


だが師匠である小百合が目の前にいるというのに本人の昔の話をするというのも憚られてしまう。


ここは自分は静観に徹しておいた方がいいなと感じたのだ。


「で、今回の商談先ってどこなんですか?名古屋ですか?」


「いや静岡だ。あまり遠くに来させるのも不憫だという事で向こうからも少しこっちに寄ってもらうことになっている。そう言う気づかいはできる人なんだがなぁ・・・」


小百合が何やら複雑そうな表情をするのに対して真理は苦笑いしてしまっていた。


小百合はその人のことが苦手なのだろうかと思ったが、彼女自身はその人に世話になったと言っていた。恐らく嫌いではないのだろう。だが先の言葉とその表情からは何やら複雑な事情がありそうだった。


「まぁなんにせよ、ゴールデンウィークはエアリスの別荘でゆっくりできるぞ。軽いキャンプのようなものだと思え。もちろん修業もさせるがな」


やっぱり休ませる気はないんじゃないかと突っ込みたくなったが、別荘でのキャンプついでに修業というのは康太としては少しだけ嬉しい内容だった。


この場所に残って修業となると徹底的にボコボコにされる状況しか想像できないが、キャンプなどの行楽ついでなら多少は良いイメージができるというものである。


小百合と一緒に行動するという最大の問題があるとはいえ、とりあえずはゴールデンウィークの予定がこれで埋まることになる。


ゲームなどができないのは惜しいがそれはそれこれはこれだ。こういうのもまたいい経験になるだろう。何より別荘という語感が康太に強い興味を抱かせていた。


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