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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十三話「追って追って、その先に」

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豪胆な防御の主

「また急に呼び出されたと思ったら、なるほどそういうことだったんだね。防御の仕方を教えてほしいと」


「そうなんだ。この二人に最低限銃弾を守れる程度の防御能力を与えてあげてほしい」


支部長の呼び出しにアマネは思っていたよりも早く応じていた。支部の中で何かやるべきことがあったらしくまだ残っていたのだという。


アマネが来たことで小百合の機嫌はかなり悪くなっているが、せっかく防御方法を教えてくれるということもあって土御門の二人は姿勢を正し、康太と文もアマネの指導に耳を傾けていた。


「わかった。それじゃあ教えていくけれども・・・正直に言えば銃弾を防ぐこと自体はそこまで難しくはないよ」


「え?でも障壁を貫通させないようにするのは難しいんじゃ・・・」


「それだけ強度が必要になると思いますけど」


弾丸を真正面から止めようとしたらそれだけの強度が必要になってくる。少なくとも薄い鉄板程度の障壁では簡単に貫通されてしまうだろう。


それだけの強度を顕現するとなると、それだけ魔力と技術を要するのは目に見えていた。


「んー・・・支部長、確認しておきたいんですけども、今回教えるのはあくまで自分の身が守れる程度の障壁でかまわないんですよね?」


「そうだね、この二人が流れ弾なんかで傷がつかない程度であれば構わないよ」


「わかりました。うん、そういうことならやっぱり大したことはないよ。たぶん現段階の君たちでも十分に対処できる」


自分の身を守るためだけという限定的な条件が加えられるのならば、銃弾はさほど難しくはない。そういってのけたアマネに土御門の二人は半信半疑なのか顔を見合わせて首をかしげている。


「さて・・・では展開する障壁について教えよう。形を気をつければいいだけの話さ、展開する障壁の形は球状、ただし二枚展開してもらうことになる」


「二枚・・・それだけでいいんですか?」


「構わないよ。ただしなるべく完璧な球体に近づけることが好ましいかな」


完璧な球体。人間が作り出す物体の中で完璧な球体というものははっきり言って再現不可能だといえるレベルである。


限りなく近い物体ならば作り出せるだろう。技術者などの手によって、機械の手によって完全な球体に近い構造の物体は作り出されている。


だが完全な球体というものはつまり、平らな地面に置いたときの接地面積がほぼゼロであるということである。


それだけの物体を作り出せるかどうか。土御門の二人はとりあえず障壁を展開していく。


自らを囲うような形で作り出された球状の障壁を見て、アマネは首を横に振る。


「これではだめだね、楕円型になってしまっている。もっと球体に近づけるんだ。これだと当たる面積を増やしているだけだよ」


「・・・あの・・・球体ってだけで銃弾を防げるんですか?」


「防げる。平面部分が多ければ多いほど、直撃を受ける可能性が大きくなるけどね。弾丸だけじゃなくて勢いよく飛んでくる物体に対しては横の力をかけると簡単に受け流せるんだ。この障壁は防ぐためっていうより受け流したり弾いたりするためのものなんだよ」


アマネの言うように弾丸に限らず、高速で移動している物体に対しては真正面から力をかけるより、横から力をかけたほうが簡単に軌道を変えられるために防御が可能なのだ。


その説明に康太は思うところがあった。攻撃を受け止めるとなると、それ相応の力を込めなければいけないが、攻撃を受け流すとなれば、技術があればその攻撃に腕を添える程度でも十分可能な場合がある。


幸彦との訓練の時に何度か体感したことがある。拳を真正面から防ごうとすれば体ごと吹き飛ばされかねないが、受け流せばその攻撃で体が流されることはほとんどなくなる。


弾丸とは基本小さなものだ。正面から受け止めるような形をしている平面部の多い盾ならばその弾丸は間違いなく効果を発揮するだろうが、今回の障壁は球体に近づけ、なおかつ受け流すことを目的としている。受け流しているだけあって周りへの被害は出るかもしれないが、確実に二人の身を守ることはできるだろう。


「二枚展開するのはより防御を的確にするためですか?」


「そういうこと。一枚目で少し軌道をずらしておけば、仮に貫通されても二枚目で高確率で弾ける。って言ってもこれは経験則だから、絶対とは言えないんだけど・・・」


経験からくる防御方法。万全とはいいがたくとも、今までアマネが防いできた中で、かなり高い確率で弾丸を防いできた防御方法がこれなのだとか。


この発言に弾丸で何度も撃たれたことがあるのかと、さりげなくかなり恐ろしい状況にいたことがあるのだなと康太たちは眉を顰めるが、それでも彼が言っていることは道理にかなっている。


魔術師相手に対しては球体の障壁ははっきり言って自らの行動範囲を狭めたり、相手に包囲の隙を与えたりとデメリットも多いが、今回の相手は一般人。


多種多様な攻撃手段を用いないという点ではほぼ最適な防御方法であると思える。


「球体をイメージするなら、球体の実物を用意するのもいいだろうし、自分の写真を撮って編集して、どのあたりが球になるのかをイメージしてみるのもいいかもしれないね。ただこれにも一つ注意があるんだ。たぶんクラリスやそこのブライトビーなんかは気づいてるかもしれないけれども・・・」


アマネが小百合と康太のほうに視線を向けると、小百合は舌打ちをしながら土御門の二人が展開している障壁を見て目を細めた。


「いつも以上にボロボロだ。普段慣れ親しんだ形以外で展開しているからか強度が落ちている。銃弾を防げるかは怪しいところだな」


「ご明察。形を意識しすぎて肝心な強度が保てていない。今度の作戦決行まで、とにかく形と強度を維持することを意識するんだ。いいね?」


「「はい!」」


アマネの言葉に土御門の二人は元気よく返事を返した。小百合とは違う理知的な指導に感動したのか、目を輝かせている。


こういうところで知らず知らずのうちに小百合との差が明確になり、小百合の株が下がっているのだなと康太は今更ながらに理解していた。
















「師匠はアマネさんと何回戦ったことがあるんですか?」


「なんだ唐突に」


「いえ、話からすると何度か戦ったことがあるのかなと」


支部長室を後にし、康太たちはいつも通り小百合の店に戻ってきていた。


土御門の二人はとにかく障壁の展開訓練を行っている。アリスが監督しながら弾丸に近い形で攻撃し、それを防ぐ訓練も同時に行っているため、上達は早いだろう。


そんな中、康太と小百合は店の居間部分で話をしていた。


小百合とアマネの話を聞いていると、何度も戦ったことがあるような言い回しだったために気になったのである。


「戦ったことがある・・・そうだな・・・確かに、争った数で言えば間違いなくあいつは一番顔を合わせた魔術師だろうよ」


「へぇ・・・師匠と一番戦ったことのある魔術師か・・・っていうかたいていの魔術師は一回目で戦闘不能・・・っていうか再起不能になりますよね」


「当たり前だ。私をだれだと思っている」


小百合の攻撃力の高さ、そして徹底的な攻撃への姿勢、そして彼女自身の性格もあって彼女と戦った魔術師の大半が再起不能になる。


たまに五体満足で生き残れる魔術師もいるが、そんな中で小百合に対して再び敵愾心を抱くことができる魔術師は稀なのだ。


「でもどうしてそんなにたくさん戦うことに?」


「うむ・・・真理曰く、協会の中であいつは私の天敵扱いされているらしい」


「・・・まぁ嫌ってるっていう意味では間違ってないかもしれませんけど」


協会の中での評判を真理から聞いたというのが何とも小百合らしいと思ってしまう康太だったが、アマネが小百合の天敵という言葉には若干の違和感を覚えた。


天敵というよりはただ単に小百合が一方的に嫌っているだけのように思えるのだ。


「私とあいつが初めて会った時、私は師匠の、あいつは当時の支部長からの依頼を受けていてな・・・タイミングの悪いことに互いの依頼が、互いを阻害する形でブッキングしたわけだが」


「なるほど・・・それじゃあ師匠は引くに引けませんね」


小百合の師匠である智代からの依頼とあっては失敗できない依頼だ。たとえ相手が協会の支部長からの依頼を受けていたとしても小百合にとってその依頼は何よりも優先されるものである。


「結果的に依頼を完遂したのは私だった・・・その時にあのバカが私の攻撃をことごとく防いで見せてな」


「なるほど・・・その光景をほかの魔術師が見ていたと」


「しかも協会の魔術師と一緒に行動していたらしく、私の攻撃を防ぐことができる唯一の魔術師みたいな形でうわさが広がっていたらしい・・・そのせいで私が関わりそうな依頼にはあいつが引っ張られていったというわけだ」


「その中で何度か本当に遭遇してしまったと・・・なるほど・・・そういうことでしたか・・・なんか納得」


アマネもかなり不憫な立ち位置にいる魔術師なのだなと康太は複雑な気分になりながらも、彼が小百合のことを好いているということを考えるとそこまで不憫ではないのかなと考えなおしてしまっていた。


今の話の中でどこか惚れる要素はあっただろうかと少し悩むところではあるが、人の好き嫌いに口を出すようなことではないなと康太は自らを戒めていた。


「そうやって何度も何度も戦ってる間に、いつの間にか師匠の天敵扱いされていたと・・・そういうことですか」


「そういうことだろうな。実際あいつと相対して傷を負わせられたのも数度だけだ・・・周りの連中を守りながらであれば楽に倒せるだろうが、あいつ一人の場合だと傷をつけるのも苦労する」


「そんなに・・・師匠でもそこまできついんですか」


小百合の攻撃は決してやさしくはない。今までほかの魔術師がそうであったように、腕の一本や二本は簡単に落とされてもおかしくない。


最悪死さえも覚悟しなければいけないような戦いを何度も潜り抜けて、それでも小百合を好きになるというのは相当頭がいかれてしまっているのではないかと康太は考えたが、これが一種のつり橋効果なのかと思いついて妙に納得してしまった。


「その代わりといっては何だが、あいつは攻撃能力がほぼ皆無だ。あいつの師匠の教えなのか、あいつのこだわりなのかは知らんが、あいつが攻撃しているところを私は見たことがない」


「・・・じゃあ攻撃しっぱなしの師匠でも防ぎきれると・・・」


「魔力がもつ限りはな・・・あいつの相手は疲れる」


「そりゃ攻撃ばっかりしてたらそうなりますよ・・・攻撃と回避くらいがちょうどいいと思います」


「いや・・・そうじゃなくてな・・・あいつ防御しかしないのをいいことに戦いながら私のことを口説いてくるんだ」


「・・・あー・・・そういうタイプでしたか」


防御しかしないタイプの人間にとって、反撃をしなくていいのだから相手の攻撃に合わせて防御の魔術を展開するくらいのものだ。そう考えると優秀であれば多少処理能力が余るのかもしれない。


そんな中で小百合を口説く。なかなか豪胆な人だなと康太はアマネの評価をかなり改めていた。


ひょっとしたらアマネが小百合の天敵扱いされているのはそれが原因ではないだろうかと康太はしかめ面をしている小百合を見ながら考えてしまっていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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