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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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GWに思いを馳せて

高校生などの学生たちにとって四月の終わりというのはある意味年度初めにおいて最初に訪れる大きな連休である。


いくつもの祝日と土日、さらにその他の事情が合わさると一週間丸ごと休みになるような高校も存在する。もちろんそんな例は希少ではあるが五日程度の連休、一学生である康太も当然ながら楽しみにしていた。


当然康太のクラスも連休を楽しみにしていた。部活動によっては連休など関係なしで練習や合宿をするところもある。野球部などがそれにあたるが康太の所属する陸上部は基本的に個人練習がメインであるために合宿というのはあまり催されない。


その為にこの連休は非常に有意義に過ごすことができるだろう。久しぶりにのんびり過ごそうかと画策している始末である。


「ゴールデンウィークか・・・何するか・・・」


「とりあえず俺は徹底的にゲームだな。久しぶりに徹夜で延々とゲームやりたい」


「いいねそれ。通信できる奴なら付き合うよ」


康太だけではなく同級生である青山や島村も同様の考えを持っているようだった。ゴールデンウィークなのだから休むのは当たり前遊ぶのは当たり前という考えの下、徹底的にダラダラと遊ぶことだけを考えている。


当然学校側からすればある程度勉強はしてほしいという考えの元いくつかの課題を課したり休み明けにテストをしたりといろいろ工夫をするわけなのだが、そんなことを気にする生徒の方が少ないだろう。


課題と言っても普段出ている宿題と同じようなものだし、テストだからと言ってそこまで気合を入れるようなものでもない実力テストのようなものだ。


高校生活が始まって最初の連休を有意義に過ごそうと全員が考えているだろう。部活に娯楽にそれぞれいろいろとスケジュールを立てている。当然康太も例に漏れず遊ぼうと計画を立てていた。


主にゲームや買い物など、いろいろと行きたいところもあるしやりたいこともある。それこそゴールデンウィーク中にそれらがすべてできるか怪しいほどにやりたいことで目白押しだった。


他の部活はさておいて陸上部の中でもその動きは目立っていた。それぞれ自主練に加えていろいろと遊びたいこともやりたいこともあるのだろう。同級生や先輩たちにもそのような空気が満ちていた。


陸上部の中にも本気で陸上に携わっている者もいれば軽い運動のために活動している者もいる。


大抵そう言うのはチームで分けられる。本気の人間は合宿などを計画したり自主練習のメニューを組んだりと忙しい。


適度な運動を求めるチームは自主訓練の話題よりもゴールデンウィーク中にどのように遊ぶかを考えることに終始している。


どちらが高校生としてより正しいのかは不明だが、とりあえず康太は後者の部類に入っていた。


適度に鍛えて適度に遊ぶ、それが康太が部活に入った理由でもあるのだ。


とはいってもまだ四月の終盤、ゴールデンウィークまでは少し時間がある。


旅行を終えてまだ少ししか経っていないのだ。まだ旅行中の話をする者もいればゴールデンウィークの内容に花を咲かせている者もいる。


そしてそれは文の所属するテニス部でも同様だった。


この前の旅行の話とこれから訪れるゴールデンウィークの話が半分半分といったところだろうか。どの学生でもやはり連休というのは待ち遠しいものなのだろう。


少なくとも普通の学生であれば当然の事でもあるようだ。


「ていうかゲームしかしないのかよ、どっか遊びに行ったりしないのか?」


「えー・・・それもいいけどやっぱ自堕落に過ごしたいだろ。五連休だぞ五連休」


「まぁ気持ちはわかるけどね・・・そう言う八篠はどうするの?」


「俺か?俺はとりあえず映画とか見に行きたいよな。あとは適当に買い物とか・・・ゲームとか」


「なんだよ俺とほとんど変わらねえじゃねえか」


そう言われると康太も基本的に遊ぶことしか考えていないという意味ではほとんど変わりはない。むしろ遊ぶことに精力的になっている時点で同列と言えるだろう。


遊ぶことを第一に考えるのは学生の特権だ。学生の本分は学業であると言われてもどうしても遊ぶことを優先して考えてしまうのは仕方のないことだろう。


四月というのは年度の始まりという事もあって学校行事も少ない。その為に最初に訪れる連休が最初の楽しみでもあるのだ。


康太たち高校一年生にとっては初めての高校での連休だ。友人と遊びに行ったりする予定を立てるものも多い。中には家族で旅行に行くものもいるだろう。


「他の連中とかはどうするんだろうな?特に鐘子さんとか」


「お前まだあいつ狙ってんのかよ・・・いい加減諦めたらどうだ?」


「まぁまぁ、でも実際どうするんだろうね?やっぱり部活かな?確かテニス部だったよね?」


康太たち陸上部は基本的に個人的な練習ばかりで集団行動というものを必要としない。だがテニス部というのは時にはチームプレイも必要なこともあって合宿などが催されることもある。そうなってくると彼女はもしかしたら部活でもあるのだろうかと考える中康太は意識を隣のクラスへと向けていた。


彼女がもし部活で合宿に行くようであれば魔術師としての修業も当然軽減されるだろうなとそんな考えをしていたのは口にすることはできない。


もっとも口にしたところで誰かに信じられるはずもないのだが。









「はぁ?ゴールデンウィークの予定?」


康太は部活動の合間を見計らって文と接触を図っていた。とりあえず今後の予定を確認しておくというのもそうだが魔術師として同盟を組んでいるのだ。相方の予定を聞いておいて損はないと考えたのである。


「あぁ、一応確認しておこうと思って。それなりになんかあるんだろ?」


「まぁないわけじゃないけど・・・わざわざ呼び出してきたから何の用かと思ったわよ」


康太が文を呼び出すというのはこれが初めてである。その為文は何か面倒事でもあったのかと焦りながらも周囲に結界を張って会話がきかれないようにしたわけなのだが、はっきり言って勘ぐり過ぎである。


いつでもどこでも康太が面倒事に遭遇しているわけではない。そのあたり文はどうやら誤解しているようだった。


「にしてものんきねぇ・・・そんなこと考えられる余裕があるってのはある意味凄いわよ?」


「何でだよ、学生なんだからこういうこと考えたっていいだろ?なにせ五連休だぞ?めっちゃ遊べるじゃんか」


康太のこういうところは文も見習いたいところでもあるのだが、彼女としては若干呆れを含んだ視線で康太を眺めていた。


康太がただの高校生だったのならそれでもよかったのだろう。だが康太はただの高校生ではない、魔術師なのだ。それがいかなる意味を持つのかを正確に理解している文としては小さくため息さえついてしまう。特に康太の魔術師としての実力を理解しているからこそその溜息は重いものになっていた。


「私はどっちかっていうと遊びとかそっちの方よりも他の人の動向の方が気になるわね・・・なんか妙な感じがするし」


「他の人?」


「・・・この学校の他の魔術師の事よ」


この学校には康太たちを含めて全部で七人の魔術師が確認されている。一年には康太と文の二人、二年には三人、三年には二人それぞれ魔術師が在籍している。


それぞれが独自に派閥を作り互いに対立しているようなのだが、実際にそれがどのような形をとっているのかはほぼ把握できていない。


なにせ上級生たちは基本的に康太と文のことを腫れもの扱いしているのだ。


なにせもとより問題児デブリス・クラリスの弟子である康太と優秀だと知れているエアリス・ロゥの弟子である文、この両者が同盟を組んでしまっているのだ。


勧誘するにしろ敵対するにしろ面倒すぎる二人であるために互いに不干渉を貫くのが当たり前のような状況になってしまっているのである。


面倒に巻き込まれないという意味ではありがたいことなのだがまったく何もアクションを起こしてこないというのも不気味なものである。


「妙な感じって・・・なんか事件を起こそうとしてるってことか?」


「んー・・・まぁ確証があるわけじゃないんだけどね・・・どっちかっていうと勘の域に近いわ。なんか嫌な予感がするってだけ」


だから気のせいかも知れないわと付け足しながら文は近くにあるベンチに腰掛ける。


文の方が圧倒的に魔術師としての経験は多い。その文が何かしらの違和感を覚えているという事は何かあるのかもしれないと康太もいくつか考えを巡らせていた。


「なんか動きがあるならあれだけど・・・基本的に俺らの場合は静観するべきじゃないのか?相手が仕掛けてくるなら話は別だけど」


「まぁね、基本向こうが放置している間はこっちも同様にスルーしておくのが一番いいでしょうけど・・・それも時と場合によるわよ。もし面倒を起こそうとしてたら私たちが対処しなきゃ」


「まぁ・・・そうかもしれないけどさ・・・」


いくら魔術師といえど相手だって学生だ。ゴールデンウィーク中はそう言った活動は起こさないのではないかと思える。


誰だって休みがあればのんびりしたいし、遊びたいと考えるのは当然のことだ。それが一年に数回しかない連休ならなおさらである。


「でもなんでそんなこと思ったんだ?なんか理由でもあるのか?」


「ん・・・この前二人で先輩たちに事の顛末を大まかに報告しに行ったじゃない?その時の感じがちょっと妙だったのよね・・・って言っても本当にそう思ったってだけで確証はないからね」


この前というのはオリエンテーション代わりの小旅行が終わってすぐ、康太たちは事件の状況やその内容、そして生徒たちには一切問題はないという事を含めて先輩である魔術師たち、つまりは三鳥高校魔術師同盟の全員に報告しに行ったのである。


康太からすれば特に気になるようなことはなかった。相変わらず偉そうな態度をとっているな程度の感想しか抱かなかったがどうやら文は違ったらしい。


「妙・・・ねぇ・・・俺は特に何も感じなかったけどなぁ・・・」


「だからただの勘だって。もしかしたら思い過ごしかもしれないし・・・まぁゴールデンウィークに関しては何か起こる気はしないから大丈夫だと思うけど・・・」


「そう言えば結局予定はどうなんだ?それによっていろいろやること変わるんだけど」


一応同盟を組んでいる以上何かあったら困るだろと康太なりに気を回しているのだが、文は首をかしげてしまっている。


それを何故自分に聞くのかわからないという風だった。


「ていうか私に聞くよりもあんたの師匠に聞いた方がいいんじゃないの?たぶんあの人の事だから自分の意志云々に関わらず引きずり回される気がするんだけど」


文に言われてそう言えばそうかもしれないと康太は思い直す。五連休という休みの中小百合が何もしないわけがないと。


恐らくは修業をすることになるかもしれないがそれにしてもただの修業であるはずがない。今さらながら自分の師匠が小百合で恨めしい限りだと康太はため息をついていた。













「ゴールデンウィーク?あぁそれなら予定を入れてある。そこまで大したものじゃないから安心しろ」


放課後、部活が終わった後康太は小百合の店にゴールデンウィークの予定を確認しに来ていた。


小百合がすでに予定を入れているというのは少々驚きだったが、そもそもこの人は一体普段からして何の仕事をしているのだろうかと不審に思ってしまう。


よもやこの奇妙な店だけで生活費を稼いでいるわけではないだろうがと店の中を眺めながら目を細める。


今日も店にはほとんど人がいない。というかこの店に自分たち以外の人間が来たのを見たことがないのだ。


小百合曰くオカルト好きの人間がたまに来るのと、魔術関係の道具を購入しに魔術師がやってくることがあるそうなのだが康太は両方とも遭遇した経験はない。

なんというか小百合の将来が心配になってくる一面ではあったがとりあえず今は師匠の将来よりも自分のゴールデンウィークの方が大事だ。


その予定というのが自分に関わることでなければよいのだがと思いながら康太は奥から茶菓子を持ってくる兄弟子の真理に視線を向ける。


「姉さんはどうなんです?ゴールデンウィーク何か予定はありますか?」


「私ですか?とりあえず今のところはありませんね。大学のレポート提出が重なってるくらいでしょうか」


「あー・・・大学だとやっぱそう言うの多いんですね」


「まぁそうですね、高校の時よりは頻度も増えたと思いますよ。出す量も増えましたしね」


康太の兄弟子の真理は大学生だ。しかも理系の大学に通っているらしくそれなりに忙しい。さすがにゴールデンウィークまで授業があるということはないようだが、それでも実験や授業の課題などがいくつか出されているようだ。

大学生というのも大変である。


「そう言う康太君はどうなんですか?高校生だとやっぱり遊びたい盛りでしょう」


「えぇ、とりあえず遊んだりゲームしたりダラダラしたりする予定です。いやぁビバ連休って感じですよ」


「そうか、お前達は予定はないのか。それは何よりだ」


小百合の言葉が聞こえた瞬間、康太と真理はしまったという顔をした。ここは嘘でも予定が入っているというべきだったかもしれないと思いながらゆっくりと小百合の方を見る。


するとそこには僅かに笑みを浮かべながらプラモを作っている小百合の姿があった。


「・・・あの師匠・・・まさかですけどまたなんかあるんですか?」


「いやなに大したものじゃない。この連休にお前を鍛えてやろうと思っているだけだ。どうせならそうだな、泊まり込みでどこかに行くか」


泊まり込みでどこかに行く。それは聞きようによっては小旅行のように聞こえるだろう。だが康太には泊まり込みで修業に行くという風にしか聞こえなかった。


せっかくのゴールデンウィークが修業で潰されてしまう。それはこちらとしても可能なら避けたいところである。


確かに魔術師としてまだまだ未熟な自分は一分一秒を惜しんで修業をするべきなのかもしれないが、康太はあくまで高校生。しかも魔術師を生業にするというわけではないのだ。魔術師はあくまで副業以下のものであってそれで生活するわけではない。


こうした連休なら普通に休んだり遊んだりしたいと思うのが当然の思考だろう。

康太が真理に何とかしてくれという視線を送ると、真理は小さくうなずいてから小百合に視線を向ける。


「師匠、さすがに連休くらい休ませてあげてもいいんじゃないですか?康太君は先日の事件で結構疲労を抱えていますし」


真理のフォローに康太は内心ガッツポーズをする。さすがです姉さんと心の中で叫びながら小百合の方を向き何度も頷いていた。


せっかくの連休だ、たまには休みたいのである。


最近の康太は平日も部活に魔術師の修業、土日丸々使って魔術師の修業と魔術に関わらない日がないくらいに修業ばかりしていたのだ。たまには魔術を使わない日があってもいいのではないかと思えるほどである。


「確かに・・・まぁ労ってやるのも必要かもしれんな」


小百合が考え直してくれたのかもしれないと康太と真理は安堵の息を吐きながら彼女に見えないように互いにサムズアップするが、何やら小百合は誰かに電話をかけ始めた。


一体誰と話をするつもりなのか、というかそもそもなぜこのタイミングなのかと康太と真理は首をかしげていた。


「私だ・・・用もなければお前などに連絡するか。実は私の弟子達が休みたいと言っていてな・・・あぁ・・・まぁ早い話がそう言う事だ・・・あぁお前の方も一緒で構わんぞ。いい刺激になるだろうしな・・・。了解した伝えておこう」


小百合は早々に話を切り上げると通話を終了してしまう。


一体なんの話なのだろうかと嫌な予感がしながら康太たちは顔を見合わせていた。


「師匠・・・一体なんの話ですか?」


「ん、いやなに大した話じゃない。お前達をある別荘に連れて行ってやろうという話に持っていっただけだ」


別荘、単語だけで言えばかなり興味を惹かれるものだ。そもそも別荘なんて所有している人間が小百合の知り合いにいたのかと康太は目を輝かせているが、それとは対照的に真理は項垂れてしまっていた。


「師匠・・・それってもしかして今度の仕事と関係有りですか?」


「よくわかったな、その通りだ」


真理が複雑そうな顔をしている時点で康太は若干嫌な予感がしていたが、その予感は的中してしまったようだ。どういう事だろうかと首をかしげている中、真理は康太の方を見て小さくため息を吐いた後で説明をしてくれる。


「今度師匠が仕事で向かう先にエアリス・ロゥが所有する別荘があるんです。そこに向かおうという話ですよ」


誤字報告五件分、そして百回超えたので三回分投稿


百回突破をすっかり忘れてました。申し訳ありません。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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