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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十三話「追って追って、その先に」

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才能だけではなく

船越はすでに康太が感じたようにじり貧であるということを自覚していた。


晴のほうが魔力量に余裕があり、なおかつ高い出力での魔術の発動が可能になっている。同時発動の量も多いことを察していた。


このまま何の手も打たなければ間違いなく負ける。何か手を打たなければと思いながら息を整え、船越はゆっくりと魔力を蓄えていた。


晴の対応能力は高い。単純な魔術の攻撃では間違いなく対応できてしまうだろう。


だがその反面攻撃は船越と同レベルか、それよりも低いように思えた。近接戦の心得があるという意味では船越よりは有利ではあるものの、射撃戦に関していえば攻撃力は船越のほうがやや勝っている。


攻撃で優る船越、防御で優る晴、素質面でも晴が優勢であることを考えれば長期戦ならば圧倒的に不利なのは船越の方だった。


船越は晴の感知能力を徐々にではあるが把握しつつある。視覚をベースにして何らかの形で魔術を見ている。逆に言えば見えない攻撃に弱い。だが時折見えていないはずなのに反応するときもある。


見える攻撃に関しては予知でかわし、見えない攻撃に関しては小百合との訓練で身についた直感的な回避行動と偶然予知できたことによる回避であるということに船越はまだ気づいていない。


だが見えない攻撃を繰り出すことこそ勝利につながると船越は考えていた。


暗闇を使っての攻撃は確かに有効だが、暗闇に加えて攻撃ともなればその分魔力を多量に消費してしまう。


何より暗闇にした状態でも射撃攻撃なら晴は反応してくる。それが索敵を発動しての回避行動であるということを船越は理解できていなかった。


晴は予知による攻撃への対処に加え、小百合との訓練で培った直感的回避、そして見えない攻撃に対しては索敵を用いて対応するという三つの方法を使って船越の攻撃を防ぎ続けてきた。


この三つの技術を超えられるだけの攻撃を行わなければ船越の攻撃は晴には届かない。


康太ならば、晴が見えても反応できないレベルでの連続攻撃を叩き込み終わらせるのだろう。


文ならば、晴の対応能力を超える量の攻撃魔術を同時に放ち徐々に追い詰めていくのだろう。


戦闘経験の豊富な康太と優秀な素質と経験豊富な文の手法を船越はとることができない。何より未だ晴がどのような手段で攻撃を感知しているのか明確に把握できていないのだ。その状態で無理矢理攻勢に出れば被害は免れない。


今船越がほぼ無傷なのは晴との距離を保ち、自分自身も安全な距離から攻撃しているからである。


晴自身の攻撃能力の低さも相まって、互いに無傷の状態を維持できているがそのままでは何も変わらない。いやこうしている間にも状況は晴有利に傾いている。


ここで考えを変えないと何も変わらないと船越は意気込む。どのように攻撃するか考え、策を弄し、晴に攻撃を通さなければならない。


今まで晴が使ってきた魔術は主に氷のものが多かった。風なども使用してきたがそれ以外の魔術は今のところ見ていない。


氷の魔術と風の魔術は炎の魔術と相性がいい。氷は炎で融かせるし、風は炎の力を強めることができる。

炎をベースにして戦えばまだ勝機はあると考えていると、船越の索敵に晴が動いたのが確認できた。


まだ船越の魔力は完全に回復はしていない。だが晴の魔力はすでに完全に回復してしまっているようだった。


使用できる魔術の最大出力、同時発動できる魔術の数、そして魔力の回復速度、これらすべては素質の優劣で決まってくる。


同じ時間回復に費やしたとしても素質が違えば当然その差も表れる。


「くっそ・・・もう来たのかよ・・・まだこっち準備できてないってのに・・・」


晴は魔力の回復に加え、集中力を高めるために身体能力強化の魔術を併用することで体力の回復も行っていたためにこれだけの時間を使っていた。


魔力面と体力面でも船越は不利な状況に立たされていることになる。


船越が手にしている情報は晴が視覚をベースにして魔術を感知していること。見えなくてもある程度は対応してくるということ。



ここまでくればどのような手段をとるかは限られている。だがこのままの攻撃をしていても勝てるはずもない。


どうやったら勝てるのか、船越は考えていた。そして自分に勝った康太ならばどのような手段をとるだろうかと少し考えた。


あの時は本当に一瞬だった。何が何だかわからないうちにやられてしまった。一気に近づかれて、起きた時にはすでに戦いは終わっていた。


記憶があいまいになるほどの衝撃に加え、それほどすぐにやられたのだ。参考にするのは情報が少なすぎる。


だが船越は意を決していた。こうすれば勝てるかもしれないという考えを元にゆっくり立ち上がる。


晴ならば対応してくるだろうという確信をもって行動する。相手が予知を使っているということを知らなくても、晴の能力ならば対応できてしまうだろうという、ある種マイナス思考の中で作戦を組み立てていく。


その船越の動きに康太は仮面の下でわずかに笑みを作っていた。船越がそろそろ覚悟を決め始めたのを感じ取ったのである。


晴と船越は廊下で対峙していた。晴はほぼ万全、やや休憩をはさんだことで集中力も戻ってきている。


対する船越は万全とはいいがたい。体力の回復もできていないし、魔力も完全には回復していない。


両者の状態を見れば船越が不利なのは明らかである。晴は未だ武器を持ち、魔力も体力も回復している。

だが船越は勝負をあきらめてはいなかった。


狭い廊下の中で船越は集中を高めて魔術を発動する。


強く発光する光の弾丸、目くらましと攻撃を両立した攻撃を見て、晴は即座に予知と索敵の魔術を発動した。


放たれた発光する弾丸の軌道は直線的、直撃してもさしたる威力はないということを確認すると、晴は発光する弾丸を回避しながら徐々に近づいていく。


晴が近づくのを確認してから、船越は地面に手をついて集中し、今度は炎の波を複数作り出した。


発光する弾丸のせいもあって視認しにくい状態ではあるが、晴の目には複数作り出された炎の波が床から壁や天井を這いながら接近してきていることに気付けた。


見えにくい状況を鑑みて晴は攻撃の対処を予知から索敵へと切り替える。規則的な動きをしている攻撃ならば継続的な予知でなくても十分対応できるという判断のもと、常時索敵を発動し、断続的に予知を発動するタイプの感知に切り替えた。


索敵に切り替えたことで晴は船越がこちらに走ってきていることに気が付いた。接近戦を挑むつもりだろうかと少し驚いたが、晴の手には日本刀が握られている。接近戦を使って不利になるのは間違いないだろうにと、予知の魔術を発動し確認する。


だが予知しても何も見ることができなかった。いや正確には『何も見えなかった』というべきだろう。


予知で見えた光景は完全な暗闇、何が起こっているのか把握できない、晴は歯噛みしながら索敵を発動し、光の弾丸を回避しながら反撃と言わんばかりに氷の刃を船越めがけて放ち、同時に炎の波を防ぐべく氷の盾を作り出す。


晴の行動に対して船越は氷の刃を小さな障壁を作り出して自分の身だけは守りながら接近し続ける。


攻撃力そのものが低いおかげで単純な障壁でも十分に対応できる。船越は晴との距離が近づいたことを確認すると目の前に手をかざし、強力な光を発生させる。


あらかじめその光が来ることを予想していた晴は目を隠して対処するが、次の瞬間周囲が一転暗闇に覆われた。


先ほど晴が予知をしても何も見えなかったその理由はこれである。強い光の後に一気に暗闇にされる。


もとより夜の校舎内だ。魔術の暗闇によって暗くされれば光は入ってこない。魔術による強い光の後で急に暗くなれば目が暗闇に慣れてくれない。


晴は索敵を密にし、船越の攻撃がなんであるのかを把握しようとする。その瞬間、船越は手を大きく広げてその手から巨大な炎を作り出していた。


廊下全体を覆いつくすような巨大な炎。かつて康太にも使おうとした巨大な炎の塊を眼前に作り出した船越に、晴は巨大な氷の壁を作り出す。


炎で融かされても問題ないレベルの薄い壁だ。そして氷の壁に加えて晴は刀を手にしてその刀に魔術を込めた。


巨大な炎が氷の壁を突破し襲い掛かってくる中、晴は刀を思いきり振り下ろす。


瞬間、風が発生し炎が真っ二つに切り裂かれる。


刀を振ったことによりまるで炎を切ったように見えるが、実際は炎を斬っているわけではない。


風を作り出し、炎の存在している場所に酸素がない場所を作り出して炎を割ったといったほうが正確である。


氷の壁を突破してきた炎に対しての晴の対処は正確である。だが炎を越えて接近してきている船越に対する対処がわずかに遅れた。


自らも炎で焼きながら接近してくる船越に、晴は驚愕の表情を仮面の下で作っていた。


予知の魔術でこの光景を見ることができたのなら、驚くことなく対処できたのだろう。だが暗闇によって予知が使えない状態であるために晴は動揺を隠せなかった。


自分を炎で焼きながらも近づいてくるとは思わなかったのである。


船越は晴に手を伸ばしその手に炎を灯して攻撃しようとしてくる。


晴は氷の盾と風の魔術を発動し、炎の軌道をそらせ、その身を氷の盾で守ると同時に周りの炎を風で巻き込んで船越の体を焼いていった。


とっさの反応にしては良く反応できた。小百合との訓練の成果を実感しながら晴は船越の体を氷で覆いつくそうとする。


焼くよりは拘束も可能だし、何より被害も少ないだろうという晴の配慮だ。だがその瞬間、焼けながら船越は晴に手を伸ばしてくる。


明らかに激痛を覚えているはずなのにと、晴はわずかに恐怖も覚えていたが、船越がダメージを受けていないことを晴は即座に気付けた。


全身を覆う炎が、その手に集中している。そう、船越は炎を操って自分が傷つかないようにしているのである。


エンチャントの魔術に近いが、自らの体が傷つかないようにする程度のもので攻撃や防御には転化できていない。おそらく炎をコントロールする魔術でその場で対処しているのだろう。


船越が手を伸ばし、晴の胸ぐらをつかむと同時にその体を思いきり投げ飛ばす。


晴の体は軽々と投げ飛ばされ、廊下の壁に叩きつけられる。


ここしかない。船越はそう考え一気に晴めがけて魔術を発動していた。


痛みによって集中を乱せていると判断した船越は残った魔力をすべて費やして全力攻撃を仕掛けた。


巨大な炎に加え、光の弾丸を勢いよく倒れ伏した晴めがけて放つ。


普通の魔術師であれば、痛みのせいで集中が乱され、防御の魔術を張るのも苦労するところだろう。事実、船越が同じ立場であれば間違いなく呼吸困難を起こし、まともに魔術を発動するどころか体を動かすこともままならなくなるだろう。


だが、奇しくも晴は今、苦痛に慣れ始めていた。


それは才能などではなく、持って生まれた素質でもなく、環境によるものでもない。ただひとえに一人の人間に与えられる苦痛を経験しただけの話だった。


向かってきている攻撃に対して、晴は防御することはなかった。だが船越を攻撃することもしなかった。


逆に、自分の体を攻撃して見せた。


地面から勢いよく氷の柱を突き出し、自分自身の体を真横に弾き飛ばした。


攻撃を集中させていた船越は、自らが放った炎と光弾によって晴の姿を見失っていた。


あのタイミングでは避けることは不可能だろうという考えと、先ほどまで晴が倒れていたという事実が、すでに晴に攻撃が着弾しているという思い込みが、索敵を発動するという考えそのものをなくしてしまっていた。


晴を弾き飛ばした氷はすでに炎に融かされている。晴の姿を見つけるには視線をかなり動かさなければいけない。だが晴は船越が自分を見失っていることを確認すると魔力をみなぎらせて攻撃を仕掛けた。


地面を凍らせ、船越の足元から首までを一気に凍らせ機動力を奪うと同時に、晴は自らが持つ中で最も攻撃力の高い魔術を放つ。


それは風属性の魔術だった。だが単なる風ではない。それは振動を用いた魔術だった。


空気の振動を用いた魔術。一種の音の魔術ともいえるそれは相手が動きを止めていないと高い効果を発揮しない一種の定点発動系の魔術。


強い振動を与えることもできるが、晴はその振動をとある場所のみに集中して放っていた。


それは脳。人間のもつ臓器の中でも最も重要かつ繊細な機能を持つ部位だった。


最大の威力で放てば間違いなく脳を破壊できる威力を持ったその魔術を、晴はあえて性質を少し変えて発動していた。


いわば、脳震盪を強制的に引き起こせるような振動のレベルである。


特定の場所のみに高い威力を発揮するために、実戦どころか訓練でさえ当てるのが難しい魔術だ。

だからこそ一気に凍らせて相手の動きを封じ、魔術で一気にとどめを刺す。


小百合からの教えの一つを、晴は確実に実践していた。油断する奴が悪い。油断しているものがいたら即座に倒せと。


それで毎回倒されていた晴からすれば、船越がわずかに気を緩めたのを見逃さなかったのは日々の教訓からくるものが大きい。


「・・・はぁ・・・はぁ・・・勝った・・・!」


船越が完全に意識を手放し、わずかに体を痙攣させているのを見て晴は小さくガッツポーズをとる。


少なくとも完璧な勝利とはいいがたい。多少なりとも体にダメージはあるし、何よりとっさのこととはいえ自分自身の魔術で自分を攻撃したのだ。その痛みは今も晴の体の中に鈍い痛みを残している。


無茶苦茶な戦い方だと自覚している。だがそれでも先ほどの行動以外に方法があったとも思えなかった。

とっさのことで予知も発動できなかったが、それでもあの行動が最善手だと晴は確信していた。


きっと、小百合ならばあのような行動をしたら一瞬で移動した先に回り込んで攻撃していただろうな、などと少し嫌なことを考えながら船越の体を覆っていた氷を自らが作り出した炎で融かしていく。


「なんだ、炎の魔術も使えたのか」


やってきたのは康太だった。どこからどこまでを見られていたのだろうかと、晴は少し疑問に思ったが、おそらく戦いのすべての内容を見て、なおかつ分析していたのだろうなと晴は小さくため息をつく。


「使おうと思えば使えますけど・・・あんまり使いたくないですね・・・氷との相性が悪くて・・・風とは結構いいんですけど・・・」


「そのあたりは好みの問題よ。好きにするといいわ・・・さて、見事なもんね・・・あの状況でこれだけ精密に発動できるなんて・・・なかなかレベルが上がったんじゃない?」


「これそんなすごい魔術なのか?」


「えぇ、私がやろうとしてもこうはいかないでしょうね。音とかの振動を利用して衝撃波を作る魔術だと思うけど、今回はそれを使って脳を揺らしたのね。私はこんな使い方しようとは思わないわ」


「どうして?」


「失敗したら相手を殺しちゃうもの。そんな危ない真似はしたくないわ」


晴がやった行為は一歩間違えば人間の脳を簡単に破壊できる。晴からすればちょっとしたコツでできることなのだが、それが常人にはできないということを知って晴は少しだけ誇らしくなっていた。


得意な魔術とはいえ、文にこれを言わせたのは晴にとってかなりうれしいことだった。


もしこれを動いている相手に当てられるようになれば、はっきり言って防ぐことはかなり難しくなる。


脳だけではなくその衝撃を体のどこかに当てさえすれば強いダメージを与えられるのだ。この魔術はかなり高い攻撃性と、可能性を秘めているのである。














「・・・あ・・・あー・・・負けたか・・・」


「お、さすがに二回目ともなると飲み込みが早いな・・・おはようトール君、気分はどうかね?」


「・・・あんまりよくないです・・・思い切り吐きそうです・・・」


脳震盪の影響からか、未だ体を起こすことはできていないが船越は康太にやられた時よりは意識がはっきりしているようだった。


倒れたまま、仮面をつけたままであるためにその顔を見ることはできないが、おそらく苦悶の表情を浮かべていることだろう。


「最後の最後で訓練の質の違いが出たな。ハレ、とりあえずは訓練が身になっているようで何よりだ」


「えっと・・・そんないいところありましたかね・・・?」


「あったよ。あれがあるかないかで大きく違う。よくやったな」


最後の最後、ダメージを抱えながら晴はそれでも行動した。立ち上がることができなかったために魔術で強引に体をはじき出すというやや強引な手段であったにせよ、あきらめなかったからこそ晴は勝利を手に掴んだのだ。


体が痛めつけられて、動くのもつらい中、意識を保ちなおかつ行動する。体が動かないのであれば魔術で体を動かす。


我武者羅で無茶苦茶で、情けなくみっともなくしぶとく、それでも戦おうという意志を持てるかどうかが小百合の訓練では問われる。


あきらめれば早々に気絶させられるし、足掻こうとすればそれだけ気絶するまでの時間が延びる。


わかりやすくなんとも単純な訓練だが、魔術だけではなく精神的な部分も苛め抜くことができる、もとい鍛えることができるものなのだ。


「トール君のほうは最後の最後で油断したわね。あの時勝ったって思ったでしょ」


「・・・はい・・・あの状態なら動けないって思いました・・・」


壁に叩きつけられ、肺の空気が一気に押し出されたような状況であれば一種の呼吸困難に加え、痛みのせいで動くのは困難になる。


確かに間違いではない。普通の状態であれば康太も動くのが億劫になるだろう。だが一般人としての常識を魔術師に当てはめてはいけない。


戦いの場ではあくまで魔術師として活動しなければいけないのだ。常人の常識は捨ててかからなければ痛い目を見る。


「ハレもそうだけど、あのくらいのダメージなら動こうとするやつはたくさんいるわよ。中には電撃受けながら無理やり体動かして攻撃してくる奴だっているんだから」


「そんな人いるんですか・・・?いたとしたら変態ですよ」


「・・・そうね、それは否定しないわ」


名指しはしていないが面と向かって変態扱いされたことに康太は不満を抱いていた。勝とうと努力しているだけなのに変態扱いされているのだ。憤慨するのも無理のない話ではあるが、文や船越の言い分が正しいというかのように晴は何度もうなずいている。


実際ダメージを受けながら動いてその厳しさを理解したのだろう。痛みを覚えながらも魔術を発動するというのは難しい。


集中を乱され、正しく発動できなければ魔術は形にならない。痛みを受けながらも魔術を発動する訓練をしなければ容易にはいかないのだ。


康太の場合は日々文と訓練していることもあって電撃に慣れているというのも理由の一つだろうが、この場ではそんなことは完全に無視されていた。


「さて・・・それじゃあ反省会といこうか・・・トール君は途中まではなかなかよかったぞ。こいつの弱みをうまく突いてたと思う。最後の最後の詰めを誤ったな。それ以外はほぼ最善手だ」


「・・・そりゃどうも」


褒められても負けていたのでは嬉しくないようで、倒れ伏したまま船越は少しだけ不貞腐れた声を出していた。


とはいえ康太に素直に褒められるとは思っていなかったのか、仮面の下では少しだけ笑みを作っている。

素直ではない男子高校生の心理が働いているというべきだろうか。


「それに対してハレ、魔術を駆使してうまく防御はできていたが攻撃はなんだありゃ。せっかく色々覚えてるのに攻撃がひどすぎるぞ」


「すいません・・・なんかこう・・・感覚的に見ながら攻撃するのって難しくて・・・」


「防御ができるんだから攻撃なんて楽なもんだろ。攻撃と防御を一緒にできなきゃこれから苦労するぞ」


「・・・あんたが言うと説得力がすごいけど、今それをハレに求めるのはやめてあげなさいよ・・・あんただって最初はできなかったでしょうに」


「まぁそりゃそうなんだけどさ・・・もったいないというかなんというか・・・」


康太のように訓練で何とかするしかなかったタイプと違い、晴には予知という禁術クラスの魔術を保持しているのだ。


使い方を覚えればかなり強くなるだろうにと考え、康太は今後の晴の訓練に攻撃を当てるだけというものを加えようと考えていた。


「まぁとりあえず、両者ともに悪いところの目立ついい戦いだったわけね・・・今後、より一層励みなさい」


「・・・うす」


「はい・・・頑張ります」


二人は疲れた体のままため息をつきながらうなだれていた。死力を尽くしたと思われる戦いでも、康太と文からすればお遊びのようなもの、そんな事実を叩きつけられ二人はやる気をだしながらも疲れを隠せないようだった。


誤字報告を15件分受けたので四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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