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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十三話「追って追って、その先に」

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二人の実力差

「やっぱりこうなったわね・・・予知を使っての対応・・・これじゃトール君圧倒的に不利じゃない」


「まぁそりゃそうだろ。基本的にどっちも戦闘経験皆無の中で比べるならハレが有利になるのは目に見えてる。問題はここからだ」


「ここから・・・?もう形勢逆転は難しいと思うけど?」


「トール君がこのまま根性見せなければそうなるだろうな。ここで怯んでるだけか・・・あるいはここから巻き返すか・・・それは本人次第だな」


予知を使う相手と文は戦った経験がない。最近土御門の双子と訓練はしているが、その訓練も本格的なものはすべて小百合が行っているために実際に予知の恐ろしさを肌で感じているわけではないのである。


そのため、文は予知の弱点もまだ把握できていない。康太が船越の立場であればどのような方法で攻略するのか、文には理解できていない。


「・・・今の状態からでも逆転できるってこと?」


「できるな。多少身を削ればさっきまでで使った魔術でも十分に形勢をひっくり返すことはできる。あとはあいつにその覚悟があればな」


「覚悟ね・・・難しいんじゃない?今回のこれは実戦に限りなく近づけてはいるけど、やっぱり実戦とは少し違うわよ」


康太が仲介して二人を引き合わせ戦わせている時点である意味実戦とは程遠い状況になっている。


両者が適度に挑発しあっていることもあって実戦に近い雰囲気はあるが、やはり心のどこかにこの戦いは練習のようなものであるという先入観にも似たセーフラインが引かれているせいで必死さが欠けているのである。


「・・・なんか思い出すわね・・・私たちの時のこと」


「・・・あぁ、あの時は俺は結構必死だったんだけどな・・・お前からすると余裕しゃくしゃくだったろ?」


「途中からそんな余裕はなくなったけどね・・・あんたが普通の魔術師とは違うって気づいてからはもう余裕はなかったわよ・・・ってそういうことね」


「そういうこと。今のトール君に必要なのは意外性だ。ただの魔術師戦をしてたらハレには絶対に勝てない。勝つためには普通じゃないことをしなくちゃいけない」


魔術師としての戦いを行っている以上、すでに覚えている魔術とその扱い方、そして素質に左右されるのは仕方のない話である。


だがそれは普通の魔術師として戦っていればの話で、康太のように普通の魔術師として戦っていなければ崩すのはそう難しい話ではない。


特に晴のように今まで温室育ちで魔術師としての実戦経験に乏しいタイプであれば、仮に予知によってこちらの手の内が見切られやすい状態にあっても切り崩すのは不可能ではないのだ。


問題はその切り崩し方。相手のほうが格上である以上、それを切り崩すには自らも身を斬らなければならない。


それを理解し、なおかつ実行に移すだけの胆力がなければ格上の魔術師に勝つことなど不可能なのだ。

常に才能に左右される魔術師としての戦い、覆すにはそれだけの覚悟が必要なのである。


「意外性で何とかなるかしらね・・・相手は未来の情報を知ってるのよ?」


「だからこそだよ。そこに付け入る隙がある。相手はどうやって未来の情報を見ているのか、そこから行動を変えればいい」


「・・・あとはトール君が気づけるかどうかね。ハレが未来を予知してるって」


「そうだな・・・たぶんだけどそろそろ気づいてるんじゃないか?さっきから動きがちょっと変わってきてる」


康太の言うように、先ほどから船越の攻撃に少々変化が生まれ始めている。戦いが始まってすぐのころは射撃系の魔術を多用していたのに対し、今は威力こそ低いものの定点発動系の魔術を途中にはさみ始めている。


ダメージを与えることが目的とは思えない、この攻撃をよけられるか否かという、ただそれだけを確認するための魔術のようだった。


康太の言うように、船越は晴がどのようにして攻撃に対して判断を下しているのかを把握しようとしていた。


ただ勘が鋭い、あるいは実力が高いのであれば攻撃に関してももっとレベルが高くても不思議はない。


康太のような鋭い動きをしてくるわけでもなく、動きそのものは少し運動ができる程度の人間の動きだ。


だというのに魔術の動きだけを完璧に見切られる。魔力を可視化しているのか、それとも何か別のものを見ているのか、船越は考え始めていた。


そこで攻撃の中にいくつか別の魔術を混ぜることにしたのである。どのような攻撃に対して反応するのか、どのような攻撃ならばあたるのか、まずはそれを確認しようとしたのだ。


戦いの序盤に主導権を握られてはいるものの、何とか持ち直そうとしているその姿勢を康太は大きく評価していた。


「さぁトール君、根性見せろよ。エリート様にはエリート様なりの弱点があるんだから、そこを見逃すな?」


「随分と肩を持つのね」


「才能がある奴にはこういう気持ちはないかもな。エリートに負けてたまるかって感じの気持ち」


「ふぅん・・・じゃあ私はハレを応援しようかしら。凡人なんて叩き潰しなさい!」


いつの間にか応援合戦になっている二人をよそに、晴と船越は魔術を放ちあう。


徐々にではあるが船越は晴の魔術について把握しつつあった。



船越が把握できたのは、晴が視覚や聴覚といった五感などを強化して情報を確認しているわけではないということ。そして単純な魔力の探知でもないということである。


魔力によるフェイントに引っかからず、確実に攻撃だけを回避し、攻撃に対してのみ反応している。


「気づき始めたな・・・攻撃が変わってきた」


「見えにくいようにうまく暗闇を使い始めてきたわね・・・あいつも光属性を得意としてるってわけか・・・ちょっと複雑な気分ね」


船越が使い始めたのは文も多用する暗闇を発生させる魔術だった。光に属する魔術で、直接的な攻撃力などはないが一時的に相手の視界を鈍らせることができる魔術である。


晴の予知の魔術は視覚をベースとしたものである。未来の情報を見える形で把握するため、そもそも見えない状況を作り出してしまえば未来はかなり見えにくくなる。


当然その未来が見えたからには晴も対応しようといくつか魔術を繰り出すが、余計な魔術を使う分防御に意識を割けなくなり攻撃に対する対応がお粗末になってしまっていた。


「攻撃されっぱなしになってきたな・・・そろそろトール君もハレの弱点に気付いてきたかな?」


「弱点?そんな露骨なもの?」


「まぁ致命的ではないけどな・・・ハレは攻撃が下手くそなんだよ。さっきからトール君でも対応できるような反撃しかしてないだろ?」


攻撃の合間とはいえ、晴が行っている攻撃は本当に単調なものばかりだ。単純な射撃系魔術ではいくら戦闘経験の少ない船越でも十分に対応できる。


防御に関してはかなり達者だというのに、攻撃がおざなりな晴の行動に文は首をかしげてしまっていた。


「防御ではあんなに予知を使いこなせてるのに何で攻撃だとあんなに中途半端なのかしら?もったいないわね」


「それに関してはうちの指導方法の問題だろうな・・・基本的に防御ができないと攻撃に回らせてくれないから、うちの師匠は」


「・・・あぁ、そうだったわね。あの人はそういうタイプだわ」


戦闘において何よりも重要なのは防御である。相手の攻撃を防ぎ、躱し、反撃することこそ無事に戦いを終わらせることができる最善手。


実戦においても、防御があるからこそ攻撃に手が回るのだ。康太も回避行動を多く行っているからこそ、相手の攻撃を無力化できているからこそ攻撃ができる。


小百合の訓練はまずその攻撃から身を守るところから始まる。そして防御できるようになってきてから反撃が許される。それまでは一方的に攻撃を防ぐことしか許されないのだ。


晴は普段小百合の訓練でとにかく攻撃されっぱなしだ。そのせいで、いやそのおかげで防御に関していえば予知の魔術の使い方やその対応もかなり達者になった。


だが未だその防御は未熟、攻撃に関しての訓練はほとんどしていないのである。


先ほどからほとんど防御ばかりしていて肝心の攻撃ができていないのがその証拠といえるだろう。


付け入る隙があるとすればそこだ。相手の攻撃が大したことないのであれば恐れることはない。


康太の言う『覚悟』を決めて攻撃を行えばいいだけの話だ。


「なるほど・・・トール君の攻撃力よりもハレの防御力が勝っているからこそ、ハレのほうが優勢に見える・・・けど実際はハレの攻撃力が低すぎて拮抗状態が続いてしまっている・・・と、そういうことね」


「あぁ、このままだと素質の差でハレが勝つだろうな。その素質の差を埋めるならちょっと危なくても無茶をするしかない」


魔術師の素質というのはその戦いの性質を決めるものでもある。長期戦を臨むことができるかどうか、出力を選べるかどうか、魔力の残量を気にする必要があるかどうか。


晴の素質は文にも匹敵する。あるいは文にも勝るかもわからない。一流の素質を持っている晴に対して船越の素質は優秀とはいいがたい。


才能で劣っている魔術師が格上の魔術師に勝つにはどうすればいいか。できることはすでに決まっている。


「拮抗状態を脱するには、急激かつ相手の想像を超えた変化が必要ってことね・・・どう動くと思う?」


「トール君もそろそろじり貧だってことに気付いただろ・・・徐々にだけど距離を取り始めてる」


「ハレからすれば逃がさないでこの状態を続けたいけど・・・暗闇のせいもあってうまく追い詰められてないわね・・・もったいないわ、本当に」


船越は暗闇の魔術を駆使して奇襲戦法を使い始めている。相手に見えない形での攻撃を繰り返すことで晴の処理能力を防御に集中させることで徐々に距離を取り、安全圏へと移動しつつあった。


消費した魔力の回復と、少しの間考える時間を作るのが目的だろう。そして晴の体力が削られ、集中がわずかに乱れた瞬間に一時的に戦線から離脱することに成功していた。


晴の索敵の範囲内ではあるとはいえ、その攻撃が届く場所から離れ、船越は少しだけ魔力の回復と考える時間を作ることができていた。


回復するのは魔力だけではなく体力もである。常に移動しながら魔術を発動していたために高い集中を必要とした。そのせいもあって通常の訓練の倍、あるいはそれ以上の体力を消耗しているのである。


晴のほうは訓練のおかげもあって多少ましではあるが、攻撃を受け続け、対処し続けたこともあって集中力が落ちてきている。このインターバルは両者にとって好ましい状況であるようだった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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