素質の有無
「今からお前の魔術師としての素質を調べる・・・っとその前に魔術師に必要な素質について教えておこう」
幾つかの道具を置きながら小百合は康太が見ていた巨大な鍋を掴んで部屋の中心部に持ってくる。
あれを使うのだろうかと思いながらその様子を眺めていると、小百合はいくつかの道具を鍋の近くに配置していった。
「魔術を使うには魔力と言われる力が必要だ。まぁゲームとかで言えばマジックポイントだな。人間はその魔力を作るために大気中に存在するマナを取り込まなければならない」
「・・・そのマナを材料に体内で魔力を生成するってことですか?」
そう言う事だと言いながら小百合は準備を進めていく。鍋の中に大量の水を入れていき、鍋と一体になっている竈に道具を一つ放り込むと唐突に炎が巻き上がる。
あれも魔術の一種だろうかと思っている暇もなく、小百合は説明を続けていた。
「魔術師に必要な才能は大まかに分けて三つ。一つは魔力の材料となるマナを体に取り込むための供給口。二つ目は取り込んだマナを魔力に変換し貯めておく貯蔵庫。三つめは魔力を体外に放出するための放出口だ。これがすべてないと魔術師にはなれん」
「一つでもそれが欠けていたら、魔術は使えないってことですか?」
「ん・・・厳密に言えばそうなる。方法がないわけではないがまぁそれはまたあとに説明しよう。これからお前にその三つがあるかをチェックする。こいつを使ってな」
先程から何やら作業をしているその中心におかれた大きな鍋を叩いて小百合は着々と準備を進めていく。
あの大きな鍋で何か作るのだろうか。それこそ飲み薬とかそう言った類のものを作るのかと思っていた康太はその鍋の中を見ようと背伸びしていた。
「これでなんか作ってるんですか?薬みたいなのでも?」
「ん?いや違う、これ自体を使うんだ。別に薬なんて調合しない」
この巨大な鍋を使うのだという言葉に康太は眉をひそめた。先程火をつけていたことから何かしらの飲み物か薬あたりを作るのだと思っていたのだがどうやら違うらしい。
「・・・ひょっとして俺がこの中に入るとかそう言う感じですか?」
「そうだ、それ以外になにがある?」
まさかの提案に康太は思わずため息をついてしまっていた。明らかにまがまがしいこの鍋に自分がつかることになるとは思ってもいなかったのだ。
「それは全身ですか?それとも体の一部だけでオッケーですか?」
「正確に調べるなら全身の方がいいだろうな。だから服を脱いでおけ」
まさかの全裸にならなければいけないという状況に康太に強いめまいが襲い掛かる。まさか女の人の前で全裸にさせられるとは思ってもみなかったのだ。
確かにこの中にある水、今は徐々に温まってお湯になりつつあるが、それに浸かるなら全裸の方が都合がいいというのはわかる。だがそうならそうとあらかじめ言ってくれればいいものを。
「水着かなんか持ってくればよかった・・・」
「安心しろ、私はお前のような子供の裸を見ても興奮はしない」
「・・・俺だって誰かに裸みせて興奮なんてしないですよ・・・」
何も性癖の問題を言っているのではなく、ただ単に恥ずかしいからであるという言い訳は通じないだろう。
小百合につかまってしまったのが運の尽きだ、黙って従う他にはないのだと康太は半ばあきらめてしまっていた。
「ところで、この鍋って一体どういう道具なんですか?なにも知らないとちょっと不安なんですけど・・・」
「あぁ、説明していなかったな。こいつはゲヘルの釜と言ってな、手っ取り早く魔術師の素養があるかどうかを調べることができる道具だ。この中に入れた水に浸かると・・・まぁ説明するより実際やってみたほうが早いか・・・とっとと脱げ」
この中にある水に浸かることによって何らかの効果が発生するのだろうが、いちいち口で説明するよりもさっさとやってしまったほうが話が早いと思ったのだろう。
確かに説明されたところで「へぇそうなんですか」以上の感想を康太が抱けるとは思えなかった。
康太は渋々服をすべて脱ぐと両手と着ていた下着で前を隠しながら何とかそのゲヘルの釜の前までたどり着く。
二月という事もあって地下のこの部屋は非常に寒い。こんな中で全裸にならなければいけないとか一体どんな拷問だと思いながら康太は何とか登ろうとあちこち確認する。
「こっちだ、さっさと入れ」
あらかじめ用意してくれていたのだろう梯子を上って釜の中に入ると、中に入っていた水は丁度風呂と同じくらいの温度になっているらしく冷えた体をじんわりと温めてくれた。
これで水の中に叩き込まないだけ有情と言えるだろう。こんな寒空の下水に叩き込まれたら確実に風邪をひく。もっともここは地下だが。
「うあぁぁぁぁ・・・あったかい・・・で・・・これで何がわかるんです?」
「もう少ししたら効果が出てくるだろう。体に何か変化があったら教えろ」
体に何か変化。
非常に不穏な言葉を聞いたところで康太はそれを感じ取った。
体内にある神経がビリビリと痺れるような感覚に襲われているのだ。しかも一部ではなく全身にその傾向がみられている。
一体何事だと思っていると次は僅かに痛みも覚え始めた。
「あ・・・あの師匠・・・なんだかビリビリして・・・痛いんですけど・・・!」
「そうか・・・初期症状はそんなものだろう。今まで使っていなかったものを使おうとすればそう言う反応が出るのは当然だ」
変化が出たら言えと言っておきながら言ったところで特に何をするつもりもないようだった。まるで歯医者のような対応に康太は憤りを感じながらもその痛みを耐え続けていた。