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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
一話「幸か不幸か」
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始まりの日

世の中には知らなくてもよいことというのが存在する。


得てしてそう言うものほど隠匿されていながらも、どこかしらから必ず流出してしまうものである。隠そうとしている者たちの本意の如何にかかわらず、誰かに知られてしまうものなのだ。


それは知られると困るものであり、知る必要がなかったことであり、知らなくても生きていられたようなものであり、知ったところでどうしようもないものであることが多い。


そしてそういうものを知ってしまった人間というのはたいていがこう思うのだ。

知らなければよかったと。


そして今このとき、また一人その感想を抱いたものがいた。知らなければよかったと、心の底から後悔しているものがいた。


後悔は先に立たずとはよく言ったものだ。後の祭りとはよく言ったものだ。今の状況からすでに元の状態に戻ることなどできない。だからこそ後悔した。後々になってから悔やんだのだ。


もっともその後々というのは、今この時の事なのだが。


知ったほうがよかったか、知っていればよかったか、知らなければならなかったのか、知っていないといけなかったのか。


好奇心を満たすという意味では、知って損はなかったかもしれない。知識というものはあればあるだけ役に立つ。だが好奇心は猫をも殺すという言葉があるように、知ることそのものが害悪になる場合もある。知ろうとすることそのものが危険を及ぼすこともある。


何の因果か、幸か不幸か、恐らく不幸だろうが知ってしまったことを都合よく忘れるなどという事は普通の人間にはできはしない。


その知ったことが衝撃的であればあるほど、印象的であればあるほど頭にこびりつくように記憶される。


逆にどうでもいいことであるほどに忘れられ、その記憶から消えていく。


だからもし、知らなくてもいいことがあったとしても過剰に反応されなければ『大したことではないのだな』と感じて特に気にするようなこともなく忘れることもできたかもしれない。


だが今この時、いや今この瞬間に至るまでの過程が、その出来事を頭に強くこびりつかせる原因ともなっていた。


恐らく、一生頭から離れないだろうというレベルまで、深く深く記憶が結びつきこびりついていく。


彼がいるのは自分の部屋のベッドの上。寝間着代わりのTシャツとジャージを着て、もう今日は早く寝ようと横になっているところだった。


部屋の電気も消して寝る準備は万端というところで唐突にいつもと違う妙な感覚に襲われることになる。


いや妙な感覚よりもまず先に襲ってきたのは寒気だった。窓は閉めたはずだったが布団をかぶっていても感じられる猛烈な寒気に気付いて体を起こして窓を閉めようと思った瞬間、その感覚は訪れたのだ。


まるで肩を押さえつけられて起きられなくされているようなそんな感覚だ。


目をつぶっていたせいもあって一体何が起こっているのかわからなかった。これがうわさに聞く金縛りだろうかと少しテンションが上がったのは別の話であるが、今重要なのはそんなことではない。


目を開けるとそこには明らかに不審者っぽい、というか不審者以外の何者でもないような人物がいた。


顔にはひび割れた仮面、そして黒い外套を纏った何者か。それを見た瞬間悲鳴を上げかけるが、不審者に口を押さえられたせいでその声は出ることはなかった。


そしてよくよく観察してみれば、ひび割れた仮面がそう言うデザインのもので、実際に割れているものではないのだなと気づくことができる。


こんなくだらないことを知っても仕方がないと他にも何か情報は無いものかと視線を上下左右に向ける。


すると外套の下にある衣服を少しだけ覗くことができた。


その体つき、というか体のラインからして女性だろうか。胸部のふくらみから察するに間違いないだろう。


なかなかいい情報が手に入ったと思いながらも勝手に侵入されていることに違いはない。もしかしたら自分はここで命を落としてしまうのではないかと思ったほどである。というか今この時点でもそう思っているほどである。


説明されたところで頭の理解は追いつかない。理解できない上に納得もできない。


頭の回転はそこまで遅い方ではないがさすがにこの状況には参ってしまっていた。


そしてこの女性はこんなことを言うのだ。おおよそ予想などできなかったこんなことを。


「死にたくなければ、一生をベッドの上で過ごすか、私の弟子になれ。」


仮面やら黒い外套やらを身に着けているその痛々しい外見からは想像できないほどに澄んだ凛々しい声だった。


こんな凛々しくも美しい声をした女性に馬乗りになられているというのは男の子としてはいろいろと思うところがあったりなかったりするのだが、そのことは今は置いておこう。


重要なことは今与えられている選択肢が死オア一生ベッドの上オア何者かもわからない人の弟子になるという一見すると頭おかしいんじゃないのかと思えるようなものしかないという事である。


そんなものをいきなり与えられたところではいそうですかとなるはずもなく、じゃあこれにしますなどと気楽に選べるはずもない。


そもそもこの状況を正しく把握するためには少し時間をさかのぼらなければならないだろう。


時間は約一時間ほど前までさかのぼる。普通の一日とは少しだけ違う終わり方をしたことだけは覚えていた。


前作から二十四時間の猶予をいただき今日から新作スタートです


なお諸事情により誤字報告をいただいても追加投稿などはできないかもしれません。その点どうかご容赦いただければと思います。


とりあえず新生活の様子見的な意味も含め大体二千字ペースで投稿していきたいと思います。スローペースでやきもきするかもしれませんがどうかご容赦ください。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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― 新着の感想 ―
[一言] そういうものに触れてると時々、何か感じたような感覚を覚えるんだ でもそんなのは勘違いだ そんなものは存在しない だから触れ続けた でもそれは間違いだったんだ 日常の中に少しづつ異物が紛れ込ん…
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