二人揃って異世界トリップした場合
欝蒼とした森林の中、二人は言葉も無く立ち尽くした。
「日本が温暖湿潤気候から亜熱帯気候化してると言われてるけど……」
「突然森が映えるってのは、さすがに無い……よなぁ?」
そもそも、晴翔の自転車に二人乗りして帰る途中だった。
大通りの交差点に差し掛かった所で、二人に向かって大型トラックが突っ込んできたのだった。
あ、コレ死んだ。
と、二人は同時にあっさりと生を手離す覚悟をした。……筈だった。
しかし覚悟した衝撃はなく、目を開けてみれば豊かな緑の中。
とりあえず森を出ようと、太陽の位置を確認しながら南へ向かえば、割とすぐ森を抜けることができた。
ほっとした……かどうかは二人とも飄々としているのでわからない……のも束の間。
「二人とも変な格好しやがって!」
目の前には、皮の胴着?鎧なのか?と判断に苦しむ服を身に付け、片手に剣を握る、複数の男達。皆一様に背が高く、筋肉質な身体つきをしている。しかも金髪だったり赤髪だったり、瞳の色も実にカラフルで多彩だった。
「金目の物を置いて行けば、命だけは見逃してやる!」
別の男が剣を遥に向けて突き付ける。
「……遥。下がって」
「ん」
一応、男として女を守る気はあるらしい晴翔が、遥を庇うように一歩前に出る。
「でさ、遥。今幾ら持ってる?」
「んー。ちょい待って」
遥は制服のポケットを彼方此方探す。晴翔も同様の行動をすること暫し。やがて悟ったように二人で顔を見合わせた。
「「財布、鞄の中だ」」
鞄、どこ行った?
「俺、昼のお釣りがポケットにあって522円だった」
「私は丸ごと鞄の中だ。その前にここは円が使えるの?円が流通する国とは思えないけど」
「どこかで両替してもらう?」
「近くに街があるならその方が良いかも」
「じゃあ、このまま南へ向かうかぁー」
「それでいいよ」
屈強な男達に囲まれ、剣を突き付けられていることさえ忘れ、晴翔と遥は今後の方針を話し合うと、晴翔が手にしていた522円のうち、22円を男達の一人に渡した。
「これで勘弁してよ。でさ、この近くに街とかある?」
「……え?あ、あぁ少し先に村が……って、オイッ、なんだこれ!てめぇ殺されてぇのかっ!」
「いやいや、これお金だよー?俺の国のお金。銅製だよ」
「……銅?」
「そう、銅」
「……端た金じゃねぇかっ‼︎」
「酷くないっ⁉︎俺のなけなしの財産を分けてあげたのに!」
「うるせぇ!」
勢いよく振り下ろされた剣をひょいと交わした晴翔。
「晴翔。今のはお前が悪い」
「うぇっ⁉︎遥さん⁉︎」
「道を尋ねたのにお礼を言わないのは良くないよ」
「あ。海外では日本人のお辞儀はウケるらしいよ」
「そこはどうでもいい。ーー道を教えて下さって有難う御座いました」
遥がぺこりと頭を下げると、男達が反抗されると思ったのか、身構えた……が、遥はくるりと背を向けると晴翔を置いて、てくてくと歩き出した。
晴翔も慌てて跡を追う。
その場に残されたのは、いざ戦闘!と身構えたうえに肩透かしをくらって惚ける屈強な男達。
「さっきの何だったんだろねー」
「私達の鞄はさっきの森かな?」
「たぶん。森まで戻る?」
「面倒だけど、それしかないかな。無一文というのは流石に困る。言葉が通じるのがまだ救いだっわ」
「んじゃぁバイトするー?」
「雇ってくれる場所があれば」
「住み込みとかあると助かるかな」
「うん。それは有難いね」
「俺と遥の明るい家族生活かぁ」
「それは断固拒否しよう」
「遥が冷たいー」
森に戻る道すがら、今後の明るい家族計画について語る二人は、何時も通りのペースを崩さない。自分達が異世界トリップを体験していることさえ完全スルーな二人に、とある世界の神様が「人選ミスった」と頭を抱えたとかなんとか。
どこにいてもマイペースな二人でした。
思いついたまま書いていますので『?』な箇所はスルーな方向でお願いします。