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戦争が勃発するようです

 それから数日後、お父様が神妙な顔をしてわたしたちを呼び出しました。どうやら、重大なことのようです。

 全員が揃ったのを確認したお父様は、腕を組みながら言いました。


「……どうやら近々、戦争があるらしい」


 その発言に数日前、公爵が急用だと言って会がお開きになったことを思い出します。

 つまりは、そういうことなのでしょう。

 国の大事となれば、公爵家が動くことも分かります。なんせアビシリア公爵家は、誰も彼もが王国のために働いていますからね。


「……戦争相手はどこかしら?」

「隣国のブルセウスだそうだ。あそことのいがみ合いも、何度目になることやら……」


 やれやれと首を横に振るお父様の言葉には、「飽きないことだな」というニュアンスが込められています。

 隣国のブルセウス王国と我が王国とのいがみ合いは、千年では語れないほど深刻なものなんだそうです。何年かに一度は必ず戦争をしています。その度に、領地が減ったり増えたりしているらしいです。知ったことではありませんが。


「それで、今回はどれくらいの規模になりそうなんですか?」

「侵略、と言っても、領土争いだからな……今回は二国の狭間にある、鉱山を巡っての戦争らしい。最近発新しい鉱物が発見されたのが原因だと言っていたな」

「……どうして戦争に発展するのかしらね。話し合いではダメなのかしら?」


 お母様の言うことは最もですね。しかしおそらく、互いに戦争で解決しなくてはならないと言う先入観があるのでしょう。片方が頑なになれば、結局武力行使に走る他ありませんし。

 それに鉱山と言うのは、魔力のこもった石が山ほど出てくる山のことです。この山があったからこそ、わたしのいる国はここまで発展してきたと言えるでしょう。魔術大国なのですよ。

 ……そんなことはさておき。


「……お父様、お母様、お兄様。わたし、そろそろこの家がなんなのかが知りたいのですが」


 さすがのわたしも、これ以上何も言われないのは困ります。事実を的確に述べてください。そんなただの伯爵家が、この短時間の間にそれを調べるなど、できるわけないじゃないですか。

 戦争が起こる起こらないなどというのは、言うのであれば国を左右する重要なことです。それを前段階で知れるのは、王家に連なる公爵家など、ごく限られた人たちだけでしょう。

 そう言えば、お父様は眉をハの字にしました。


「……そうだな。アルメリアにも、しっかりと言っておくべきだろう」

「というより、バレバレだった気もしますけど」

「そもそも、隠す気もなかったわね」

「……そんなことを開き直ったように言われても、反応に困るのですが」


 ならばやはり、わたしの勘は正しかったのでしょう。

 半眼を向けるわたしをなだめつつ、お父様は口を開きました。


「我がフランディール家は代々、隠密と暗殺を生業としてきた一族だ」

「予想通りの回答、ありがとうございました」

「……なぁ、アルメリア。最近妙にわたしに冷たくないか? お父様、悲しくなるぞっ?」


 はいはい分かりましたから、お話し続けてください。

 目で催促をすれば、お父様はすごすごと引き下がりました。長としての威厳は皆無です。


「フランディール家は、王家の隠密として働いているのだ。ただしこれを知るのは、ごく限られた者たちだけだな」

「それはそうでしょう。隠密は顔を隠すからこその隠密です。貴族だと自ら名乗る隠密など、いないほうがいいでしょう」

「……アルメリアの言う通りなのだが、なんだろうな、妙に棘がある気がするぞ……それはともかく、ゆえにアルメリアが頭領として慕っていたあの人とも、面識はある」

「なるほど。だから養子先が早く見つかったのですね」


 そして王家の隠密ならば、戦争が起こるであろうと言う事実を知っているのにも、納得がいきます。


「まぁ、それだけではないのよ。メリアちゃん」

「……そうですね、母上」


 話が進んでいくに連れて、三人は深刻な顔をし始めました。わたしに何か問題でもあったのでしょうか。首を傾げたくなりましたが、この際なので仕方ありません。続きを聞きましょう。

 するとお母様が、わたしを見て涙を流しました。

 ……あの、対応にものすごく困るのですが。


「……メリアちゃん、あなたはね、わたしの妹の娘なのよ」

「……はあ。なるほど」

「ミリーの妹は、侯爵家に嫁いだのだ。しかしそこで、何者かによる襲撃があった。結果、ミリーの妹は命を落としたのだ……」

「叔母様は、表では淑女の鏡、裏では名の通った暗殺者でした。それ故にあの事件には、叔母様の裏の顔を知っていた誰もが、難を示したものですよ」

「……なるほど」


 つまり、お父様は叔父、お母様は叔母、お兄様は従兄弟というのが、わたしたちの本来の関係であるわけですね?

 ……そうなると、わたしも色々な意味で複雑な気分なのですが。

 どちらにしても、その事件のために、わたしは頭領のところに運ばれたのでしょう。幼少期の記憶は、ほとんどと言っていいほどありませんしね。

 そして今更ですが、フランディール家の血を直接継いでいるのはお母様なんだそうです。となると、お父様は婿養子というわけですね。

 いきなりの事実と情報量に、さすがのわたしも頭がパンクしました。一度整理をしている間、お父様たちは優しい顔をしてわたしのことを見守っています。それは暗殺者時代、頭領を含めた仲間たちが、わたしに向けてきたものと同じものです。

 これが、家族というものなのでしょう。

 瞬間、つきりと頭部が痛んだ気がしました。


「……なんとか理解できました。ところで、黙っていたわけなどは聞いてもいいのでしょうか」

「ああ、それは……」


 そして、沈黙。お父様は口を閉ざしてしまいました。

 するとお母様が、お父様の足をぐりぐりと踏みつけながら言います。


「せっかく暗殺業から足を洗えたのに、また暗殺者として働かせることがあるかもしれないことに、申し訳なさを感じていたのよね、あ、な、た」

「ミリー、待て……っ、さすがに痛いぞ!?」

「これくらいで根を上げないでくださいな。拷問されたとき、あなたはそれで敵に実情を話す気なの?」

「それとこれとは話がだなぁ……」

「父上、同じですよ」

「……スミマセン」


 この家でのお父様の立ち位置が、なかなかに不憫でした。お父様、お疲れ様です。ただならば、もう少し当たりに強くなりましょう。威厳は大事ですよ?

 どちらにしても、わたしは別に暗殺業が嫌いではありませんでした。仲間がいてくれるなら、怖いものなどありません。

 ただそれを考えるたびにどうしてか、先日のファラント様のお顔が浮かぶのです。

 帰り際、手を振りながらも微笑まれたファラント様。その顔は、今までにないくらい穏やかなものでした。

 ……この違和感の正体は、一体なんなのでしょうか。

 深夜、なぜか眠れずナイフを研ぎつつ思考を沈めていましたが、結局、その違和感の答えは見つかりませんでした。

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