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これがわたしのセカンドライフ

 そんな願いごとをしてから、一年の月日が経過しました。

 今わたしは、ファラント様が率いる騎士団で、騎士団長補佐として働いています。経緯はもちろん、一年前を遡ります。

 あの日わたしが願ったことは「わたしも一緒に戦争に連れて行って欲しい」というものでした。その願いに周りはポカーンとしていましたが、残念なことにわたしの願いは、決闘前からこれでした。というか、これを願うために決闘したんですから、当たり前ですよね。

 とにもかくにも、結果、わたしはファラント様が団長を務める騎士団に、配属されることが決定したのです。


「……メリアちゃん。やっぱりお母様、よく分からないの」

「はぁ。何がでしょう?」


 ところは打って変わり、実家であるフランディール家宅です。優雅なティータイムを満喫していたわたしに、お母様が真面目な顔をして言いました。はてさて、どういうことでしょうか。

 するとお母様は、いつぞやのときと同じように腕をぷるぷると震わせます。


「どうしたもこうしたもありませんっ! メリアちゃん、せっかく暗殺業やめられたのに、どうしてまた危ないことに飛び込むの!」

「……その話は一年前にした気がするのですが」


 言いますがお母様。わたし、暗殺業は嫌いではなかったのですよ。

 人を殺すことに、一匙の躊躇いもない、と言われたら嘘になりますが、生まれてからずっと行ってきたそれです。体に染み付いた経験は、わたしの中で一生離れません。結婚したいと思わない理由も、そう言った感情に欠片の興味も示せない、ということが大部分です。ファラント様が人間的に欠陥していると言うなら、わたしとてかなり欠陥している自信があります。……こんな自信、いらないとは思いますけど。

 そもそも、わたし、暗殺業以外で生きていこう思えるものがないのです。そう言いましたら「メリアちゃんが、うちの可愛いメリアちゃんが戦闘狂に……!」とかなんとか言われました。が、そんなこと知ったことではありません。

 そしてお兄様はと言いますと。


「……やっぱり、闇に紛れて暗殺を……」


 などと言った、物騒極まりない発言をしています。やめてくださいお兄様。うちの上司が消えると、政務に支障をきたします。

 そしてこの一家の大黒柱はと言いますと、わたしの好きにしたら良いと笑って言いました。お父様には何か、感じる部分があったのでしょうか。意外な感じがします。

 どちらにしてもわたしはまだ、ファラント様の嫁にはなっていないわけです。そしてファラント様も、わたしがそばにいることに安心したのか、それ以上婚約だのなんだのと言ってくることはなくなりました。

 だから、万事解決だと思うのですが。

 しかしどうやら、お母様的には違うようです。


「だって、メリアちゃんお家に帰ってこないし」

「それは仕方ありません。労働をしていますから」

「女の子はね、お家でのんびりゆったりしていれば良いのよっ」

「はあ。残念なことに、わたしにそんなことはできなさそうですね」

「……メリアちゃぁん……」


 はいはいお母様。もう一年も経つのですから、早々に諦めましょうね。

 そんな休めたのか分からない休日から明けて。


「おはようございます、ファラント様。本日の仕事は午前中は報告書の確認と国政会議、午後は新人の訓練になっています」

「ありがとう、アルメリア。いつも助かっているよ」

「いえ。仕事ですので」


 またわたしは、仕事に戻りました。主な仕事内容は、ファラント様の補佐であるらしいです。ただ国政に何か口を出せるほど知識は豊富ではないので、わたしがやることは大方、団員の育成なのですがね。

 そしてまた、変わったことと言えば、わたしとファラント様との関係が、ある一定の位置で落ち着いたということでしょうか。

 ファラント様は前ほどズケズケしてこなくなりましたが、休憩の際は膝枕を所望したり、かなりリラックスした状態でわたしに抱き着いてきたりすることもあります。その辺りはサービスということで、お金は差っ引いてませんが。

 しかし甘く儚い、恋とかいう感情かと言うと、それはまた違います。それをなんと表すのかは、わたしには理解しかねます。

 ただ、ファラント様のそばにいて支えてあげたいとは思うのです。もちろん、行き過ぎた行動は止めますし、無理をしていたら言い聞かせます。

 他の人が見たら歪な関係と思うかもしれませんが、わたしは今の距離感がとても気に入っているのです。


「そういえばアルメリア。今日の夕方は空いているかい?」

「はあ。空いていると思いますが」


 書類を整理している最中、ファラント様が珍しくそんなことを言ってきます。なんでしょうか、何か仕事でも入るのでしょうか。

 するとファラント様は、くすりと笑みを浮かべて言います。


「なら夕方、鍛冶屋に行こう。申し訳ないことにこの間、君の好んでいた武器を壊してしまったからね」

「……行かせていただきます、喜んで」


 なんだかんだ言いつつ一年も経つと、相手の好みが分かってくるものですよね。既にわたしの好みは、ファラント様にバッチリ知られています。

 因みにファラント様の好きなものは、静寂です。嫌いなものは騒音と使えない人間だそう。まぁ、無難な感じの好みですよね。

 あと、無駄と自分のテリトリーを穢されることを、徹底的に嫌います。自分の机の上の置き場が少し変わっているだけで、その日の機嫌がかなり悪くなります。いや、見た目はそうでもないのですが、なんというべきか……内側から滲み出る、嫌悪感? というべきでしょうか?

 そんなところに気を配るのも、わたしの仕事の一つです。

 さてさて。本日鍛冶屋に行くのならば、溜まっている資料整理をさっさと終わらせてしまいましょうか。

 団長室の隣りにある資料室。そこでわたしは、確認済みの報告書をしまう作業に移ります。報告があった日ごと、年代ごとに分けていくのです。これら存外、労力を使うことでしょう。

 報告書を紐で綴じつつ、わたしはひとりほくそ笑みます。


「さて、終わらせてしまいましょう」


 そうぼやき、わたしは再度、ファラント様がいる部屋へと戻っていきました。





 人にはそれぞれ、幸せがあると思います。

 しかし形はどうであれ、自分自身で選んだことであれば、誰にも文句は言えません。だからこそわたしは、自分で選ぶことを望むのです。

 そして今わたしは、自分の今の選択に向けて、胸を張って答えられます。



 これが、わたしがわたし自身で選んだセカンドライフです、と。

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