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初めての家族  作者: RK
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初めての感情

 『人』として見てくれる人に出会った。

 『人』として見れる人に出会った。

 抱きしめられて家族になってほしいと言われて初めての感情に戸惑うばかりだった。


 * * *


 子供は私の顔を見て楽しそうに――実際は無表情だったが雰囲気がそうだった――色々な話を語った。

 その内容はアニメや漫画、本の話ばかりで普通なら出てくるはずの友達の話や家族の話は一切出てこなかった。

 自分は普通ではないので一般的な子供の事はわからないが、それでもそういう話が一つも出てこないのは可笑しいんじゃないのかな?とは思っていた。

 そもそもとして、両親を殺された子供が、その人物に対して楽しそうに語らいかけること自体が異常だということには気付けていないのだが。

 子供の話にはついて行けない。興味がない、というよりも読んだことや見た事がないからだ。

 それでも一生懸命に話している姿は見ていて微笑ましい。

 そこで自分の感情に驚いた。人を微笑ましいと思えるなんて!!

 そんなことを思った時、自分がこの家に侵入する際に、窓を割って入って来た事を思いだした。

 更には自分が空腹だったということも。

 急いで準備をしなくてはいけない。肉は新鮮なうちが美味しいし、何より他の『人』が集まってきたら面倒だ。


「ま、まってまって!」


 だから、子供には可哀想だけど一旦話を中断してもらう。

 そうすると、嬉しそうだった雰囲気は見る見ると悲しそうな雰囲気に変わって行く。

 

「ご、ごめんなさい…」


 そして子供は謝って来た。どうして謝って来たのか考えて、もしかしたら怒られたと判断したのでは?と考えが至る。

 空腹も手伝って棘があった可能性もある。

 悲しそうな顔をさせるつもりではなかったので慌てて言葉を付け加える。


「あ、違う違う!怒ってるんじゃないから!」


 安堵した雰囲気と同時に今度は疑問を抱いている雰囲気が醸し出された。

 こんな短時間で目の前の子供の機微を感じ取れている自分に若干戸惑いつつも。


「お話を聞くのは全然構わないんだけど、ほら…、お肉が、さ…。あとここに長居するのもちょっと…」

「え…?」


 今度は絶望したような雰囲気が漂った。

 何か失言してしまったのだろうか?対人関係の能力の低さが悔やまれる。そもそも捕食者と非捕食者の関係だったので、対人関係が今まで成り立っていなかったのは仕方がないのだが。

 なんて言えばいいのか悩んでいると子供が袖を掴んできて言った。


「傍に居て…」


 ―――心が奪われた―――


 一瞬の思考停止の後、ハッと気付いた。

 先ほど発した『ここに長居するのはちょっと』ということが勘違いを生み出してしまったようだ。

 こちらはこのままでは人が集まってくるから移動したい、という気持ちで言ったのに対し、向こうはここに居るのは嫌だから置いて行くと判断したのだろう。


「大丈夫!キミを置いて行くわけじゃないから。ちゃんと一緒に行こう」


 もとより置いて行くつもりなどなかった。

 安心させる為に頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めた。

 それからそのままにしてしまった食材の元へと足を向ける。子供は後ろからついてきていた。

 普通であれば子供が親を殺されれば何か思うことはあるに違いない。

 親を食べた自分でさえ親の事は嫌っていたわけではなかった。好きでも無かったのは言うまでもないだろうが。自分以外の者に食べられていたら怒り狂っていただろう。


「ごめんね、キミのお父さんお母さん殺しちゃったね」


 だから謝った。キミの親を勝手に食べちゃうけどという意味で。


「ううん、いいの。『これ』をお父さんともお母さんとも思ってないから」


 そうしたら予想外の返事が返ってきた。

 この子は別に親がどうなってもどうでもいいようだ。

 転がる食材を見つめても嫌悪感を隠してはいない。この子は両親が好きではないようだ。


「そっか…」


 こんなにおいしいんだけど、嫌いならしょうがない。

 なら食べてもいいよね。


「そうなの、だから気にしないで」


 天使のような笑顔。それに再び心を奪われる。

 新しく出来た『家族』に微笑まれてこれから食べる肉の味と、始める生活に想いを馳せる。

 食欲以外に湧き上がる気持ちが以外に心地良い。

 だが、いつまでもその気持ちに心を委ねている暇はない。

 だから、子供の前でその子の両親だった食材の解体を始めた。

 それを笑って見つめる子供の前で舌舐めずりをしながら解体する人物。


 その光景を見た者は必ずこういうだろう。


 ―――こいつらは『狂っている』と。


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