初めての人
亀更新で人を選ぶ内容かと思います。
食人行為や性倒錯が苦手な人は読まない方がいいと思います。
人を人として認識できない状況を経験したことがあるだろうか?
周りにいるのは人型をした何か。
異形を持ち、異音を発するそれが自分と同じ存在だと言われて、信じたくはなかった。
鏡を見れば自分の姿ははっきりと認識できる。
ただ、他人の姿が、言葉が分からないだけだった。
両親は早々に私と交流することをあきらめた。
私はテレビを見て、漫画を読んで、言葉を、文字を覚えた。
漫画やアニメの登場人物が何を言っているのかはわかったからだ。
食事は出してくれる両親に感謝をしつつも、そこに愛を感じ取ることなど不可能だろう。
彼らは自分が産んでしまった子供を殺す勇気も、投げ出す覚悟も無かっただけだ。
私の世界は異形に囲まれた世界。こんな狂った世界に私は一人。
いや、正常な世界に狂った私が一人だった。
孤独。孤独。孤独。
私は何処までも何処までも一人だった。
そんな私に転機が訪れた。
ゴトン。
何かが割れる音。何かが倒れる音。異形の上げる異音。何かが暴れる音。
そして静寂。
今までに無かったことだ。
私は何が起きたのか、好奇心を抱いた。
両親と思われる異形がいる部屋の扉を開ける。
そこには。
人がいた。
「あれ?まだ居たんだ」
その人は艶やかな笑みを浮かべて私を見る。
アニメや漫画以外で見る本物の人に私は感動して涙を流す。
「お父さんお母さんが死んじゃって悲しいの?大丈夫、すぐに一緒になれるから」
私の頬を伝う涙を見て、その人は違う心配をしたようだ。
私は首を横に振る。
「…嬉しくて」
人との会話をしたことがない喉を酷使して伝えたい言葉を伝える。
初めての会話。その最初の一投は相手をきょとんとさせた。
「んっんー?そんな反応は初めてかな?」
私の言葉に戸惑い頭を捻るその人。だが私は涙をぬぐってその人の元へと歩み寄る。
ぺたぺたとその人の身体を触り、感触を確かめる。
人の温もり、人の感触。
自分以外のそれは私に衝撃をもたらす。
他の人の温もりや感触がこんなにも安心感をもたらすものだったのかと。
そこからまた涙が流れる。
「ちょ、ちょっと?一体何なの?」
感極まるとはこういうものなのか。
私は湧き上がる感情に身を任せて、その人を抱きしめる。
そうして、初めて人と認識できる人に会ったら言いたかった事を告げる。
「私の家族になってください」
「ほえっ!?」
私の初めての『人』。
その人は人を食べる人だったけど、私にとっては関係なかった。
だって、この世界には私以外の人はこの人しかみたことなかったから。
この日、人を食べる狂人と人を人として認識できない狂人の奇妙な共同生活が始まる日だった。