スキー合宿
今日から、スキー合宿。
二泊三日の学校行事とはいえ、超憂鬱。
なぜって?
スキーなんか、一度もやった事がないド素人なんだよ。
しかも、合宿の二日目がバレンタインデー。
私の愛しの彼は、絶対って言って良い程、沢山のチョコを貰うんだろうなぁ…。
「梓ー」
朋子が、声をかけてきた。
「おはよう、朋子」
「って、何呑気なこと言ってるのよ。ほら、バスに乗らないと」
朋子に背中を押される。
バスは、クラス毎になっていて、彼とは別々。
っていうか…。
王子の彼女が、私だなんて、誰も思っていないだろう。
「梓。ちゃんとチョコ持ってきたんでしょ?」
「うん、一様は…」
一様、頑張って手作りチョコを作ってみたんだけど…。
それだけじゃなくて、手作りの毛糸の帽子も一緒に渡そうと思ってる。
「一様って…。もっと、自信持ちなさいよね」
朋子が、私の背中を叩く。
「痛いって…」
私達は、空いてる席に座る。
出発直前に、クラスの女子がキャーキャー騒ぎだした。
私と朋子は、顔をあげると彼が立っていた。
エッ…。
「何で?」
私の口から、その言葉が出てきた。
「梓、おはよう。明日の自由行動、一緒にどう?」
彼、流崎紫音くんが言ってきた。
クラス中の女子の視線が私に注目してる。
何て、答えたら…。
「流崎。梓が困ってるから、後にしたら…」
朋子が、助け船を出してくれる。
「朋ちゃん。俺は、梓に…」
「だから、もう出るみたいだけど…」
朋子が、他のバスを指差して言う。
それを見た紫音くんが、慌て出した。
「梓、後で返事聞かせて」
と、出ていった。
ハァー。
視線が痛いです。
これは、どうしたら良いんでしょ。
何て答えよう。
ロッジに着く間、ずーっと考えていた。
バスを降りて、昼食を摂った後、各自部屋に向かう。
四人一部屋で、二泊する。
もちろん、朋子とは同室。
後の二人も同じクラスの子だ。
「ねぇ、田口さん。王子と付き合ってるの?」
聞かれて、どう答えれば良いのかと思ってると。
「あぁ、ここでの事は、他言しないから大丈夫だよ」
と、スキーウエアに着替えながら言う。
「私達、他の学校に彼氏居るから、とろとう何て思ってないからね」
私は、突然の告白に驚いた。
「そうなの? それ、私と一緒だ」
朋子が言い出す。
そうは言っても、朋子の彼は大学生。
朋子自身も、同級生は頼りないみたいだけど…。
「へぇ、そうなんだ。ねぇ、その辺の話、夜にしない?」
との提案に。
「いいね」
朋子が頷く。
「田口さんも…ね」
「…う…うん…」
仕方なしに頷いた。
「ほら、もう時間だよ」
私も慌てて、着替えて部屋を出た。
集合時間ギリギリに並ぶ。
今日のウエアは、朋子に付き合ってもらい買ったもの。
朋子が、選んでくれたものだから、大丈夫だと思う。
…けど…。
「……では、各コースに毎に集まって怪我の無いように…」
ということで、私は初心者コースに向かう。
初心者は、私を含めて十人。
でも、私以外の人、運動神経良さそうなので、直ぐに慣れてしまう気がする。
「コーチをします、長瀬です。宜しく」
っと、目に前で挨拶されて。
「あっ、田口梓です。宜しくお願いします」
今回は、初心者が少なかったらしく、マンツーマンで指導してくれるみたいです。
「じゃあ、田口さん…。梓ちゃんって呼んでもいいかな?」
「エッ…。あ、はい。構いませんけど…」
「とりあえず、板を借りに行こうか」
「はい」
私は、長瀬さんについて行く。
長瀬さんは、手慣れたように板を借りてくれる。
「梓ちゃんは、スキー自体が初めて?」
「恥ずかしながら…」
「そっか…。じゃあ、平らのところで、板のはめかたからだね」
長瀬さんは、そう言って私の分の板まで担いで、移動する。
「あのー。自分の分は、自分で持ちます」
と声をかけたら。
「あれー。俺、そんなに頼りないかなぁー?」
ニコニコしながら言う。
「そう言うわけじゃ…」
「じゃあ、このまま…ね」
「……はい」
って、頷くしかない。
「この辺で良いか…」
長瀬さんがそう言って、板を下ろす。
「まずは、板と足を繋ぐところから始めようか」
「はい」
「俺が、見本、見せるから、見てて」
長瀬さんが、そう言うから彼の行動を見逃さないように凝視した。
「梓ちゃん。そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど…」
「あっ、ごめんなさい…」
そんなこんなで、長瀬さんが丁寧に教えてくれる。
「じゃあ、少し休憩をとってから、なだらかな斜面で、ゆっくり滑ろうか…」
「はい」
私の返事を聞いて、ロッジのある休憩室に向かう。
休憩室には、数人しか居なかった。
私は、空いていた席に座る。
フー。
私、本当に滑れるようになるのかなぁ。
「はい。梓ちゃん。ココアでよかった?」
「あっ、はい。ありがとうございます」
私は、長瀬さんからココアを受けとると一口、口に含んだ。
その温かさが、体に染み込んでいく。
「梓ちゃんって、可愛いよね」
「そうですか? そんな事言われた事ないですよ」
って苦笑する。
「本当? 同学年の男供は、見る目がないんだな」
って、ニコニコ顔で、言われました。
エッと…。
それは、どういう意味なんでしょう?
「いや。梓ちゃん程の可愛い子って、いないよ」
うーん。
それは、喜んでいいんでしょうか?
「梓」
声をかけられて。
「あっ、朋子。朋子も休憩?」
「うん。梓は、頑張ってるの?」
「うん。長瀬さんが、丁寧に教えてくれるんだよ」
私は、隣に座ってる長瀬さんを見る。
「そう。でも、王子は、他の子達と楽しそうだけどね」
朋子が、呆れたように言う。
そうなんだ。
でも、仕方ないよね。
こればかりは…。
紫音くん、何でも楽々こなしちゃうから…。
「梓ちゃんの友達?」
長瀬さんが、声をかけてきた。
「エッ、あ、はい」
「棚橋朋子です。梓が迷惑かけてませんか?」
朋子は、自分から自己紹介しだす。
「大丈夫だよ。梓ちゃん、素直な生徒だよ。もしよかったら朋子ちゃんも一緒にどう?」
「私は、遠慮しておきます。梓の事宜しくお願いします」
朋子は、長瀬さんに頭を下げると行ってしまった。
「梓ちゃん。俺達もそろそろ行こうか」
「はい」
長瀬さんは、私が持ってた紙コップを取るとそれをゴミ箱に捨て外に出る。
やることが、スマートだよ。
私は、その後を追った。
「リフトも初だよね」
長瀬さんの言葉に頷く。
「じゃあ、オレが先に乗るから、後ろのリフトに乗ってきて」
長瀬さんに言われて頷く。
乗る事は、出来た。
でも、降りるときは?
リフトが、終着まで来ると折り返していく。
えーっと…。
私が、慌ててると。
「梓ちゃん。軽く飛んで」
って言われて、私は怖じけずく。
が、このまま乗ってても戻ってしまう。
私は、意を決して飛ぶ。
すると、ボフ…。
長瀬さんが、抱き止めてくれた。
「あっ、ありがとうございます」
「いえいえ、さっ、コースに出よう」
長瀬さんは、私の前をゆっくりと歩く。
初心者コースに着くと。
「さっき、教えたように板をつけてね」
長瀬さんは、さっさと準備してる。
エッ…と。
こうだったよね。
さっき教わった事を忠実に行う。
「よし、じゃあ、俺が先に行くから、その後をゆっくりと降りてきて」
長瀬さんが、先に滑っていく。
「梓ちゃん。おいで」
長瀬さんに言われて、ゆっくりと滑る。
ワッ…。
「梓ちゃん。腰が引けてる。もっと、膝を使って…」
そんな事言われても、どうしたらいいの…。
って…。
あっ…。
止まらない…。
「梓ちゃん…」
あっ…。
と思ったら、長瀬さんが受け止めてくれる。
「大丈夫?」
「はい。すみません…」
私は、萎縮してしまう。
「俺の事はいいから…。梓ちゃんが無事なら…」
そんな返事を聞きながら、周りが黄色い声をあげてるのに気づいた。
声の方を向くと紫音くんが、綺麗なシュールを描いて降りてくる。
その横に寄り添うように有美さんが、一緒に滑っていた。
それが、凄く絵になってて…。
私には、無理だな。
有美さんは、いかにも紫音くんの彼女のような素振りを見せている。
ハァー。
「あの二人、お似合いだな」
って、長瀬さんまでも…。
やっぱり、そうですよね。
あの二人が並ぶと、美男美女ですもんね。
なんで、こう悲観してるんだろう。
「でも、俺は、梓ちゃんの方が好みだけどな」
長瀬さんが言う。
エッと…。
どう返したらいいのか…。
「さぁて、梓ちゃん。続けようか」
長瀬さんに言われて頷いた。
「大分、滑れるようになったね」
長瀬さんが、ニコニコしながら言う。
「そうですか? まだ、ちょっとぎこちないと思うんですが…」
「あまり無理しても仕方ないから、今日はここまでだね」
陽も沈みかけてるし…。
「はい」
「明日も教えてあげるから、安心して…」
エッ…。
明日も…。
「何か、問題あった?」
「いえ、大丈夫です」
「そっ、じゃあ、また明日ね」
「あ、ありがとうございました」
私は、頭を下げた。
ハァー。
溜め息交じりで部屋に戻った。
「お帰り」
朋子が、笑顔で言う。
「ただいま」
落ち込み気味の私にたいして。
「どうしたの?」
心配気味な朋子。
「明日も長瀬さんとマンツーで滑ることになちゃった」
「エッ…。明日もって…。流崎どうするの?」
う…うん…。
「どうしよう…」
私は、朋子に泣きついた。
夕食後の自由時間。
「梓」
不意に呼び止められた。
「紫音くん」
「朝の返事、聞かせて?」
「ごめん。無理になっちゃった…」
私は、申し訳なく思いながら、紫音くんに謝った。
「まさか、あいつかよ!」
あいつって…。
私は、紫音くんの顔を見上げる。
「あいつが、梓を…」
紫音くんが、呟く。
「紫音くん?」
「梓は、あいつがいいのかよ」
エッ…。
「今日、梓のコーチしてた奴」
紫音くんの顔が歪んでいく。
「もういいよ。梓の好きにしな!」
「ちょ…ちょっと、紫音くん…」
私の声も虚しく、行ってしまう。
あー。
もう、何でこうなるんだろう。
明日は、バレンタインだっていうのに…。
このままじゃ、渡せないかも…。
部屋に戻ると、恋話が始まった。
「ねぇ、田口さん。王子と付き合ってるって、本当なの?」
不意に、朝と同じ質問が降ってきた。
どう答えたらいいんだろう…。
今の私、紫音くんの彼女っていえないよね。
「梓。どうしたの?」
朋子が、私の顔を覗き込んできた。
「どうしよう…。私、紫音くんを怒らせちゃったかも…」
私の言葉に三人が驚いた顔をする。
「何があったの?」
朋子が、諭す様に聞いてきた。
私は、さっきの事を話した。
「それは、ただの妬きもちだと思うよ」
他の二人も頷いてる。
そうなのかなぁ。
「田口さんをとられそうで、焦ってるんだよ」
「明日になれば、解決してるって…」
本当かなぁ。
「それに、明日はバレンタインだしね」
朋子に言われて…。
「今日は、もう寝ようよ」
「うん。お休み」
「お休み」
それぞれのベッドに入って、眠りについた。
翌朝。
「おはよう」
「おはよう。今日は、頑張りなね」
皆が、背中を押してくれる。
「うん…」
「さぁって。朝食、食べに行こうか」
四人で部屋を出て、食堂向かう。
その廊下で。
「紫音くん。これ、受け取ってー!」
って、声が聞こえてきた。
エッ…。
私は、その場で固まった。
「梓?」
隣に居た朋子が、私に声をかけてきた。
「…うう…ううん。なんでもない」
私は、笑顔を張り付けて、食堂に足を向けた。
わかってた事だけど、やっぱりだよね。
食堂に入って四人がけのテーブルに着く。
「私達、先にとってくるね」
「うん」
朋子が、返事を返してる。
「梓。あからさまに落ち込まないの」
「だって…」
って、私達が話してる間に、食堂に紫音くんの姿。
「紫音くん。これ、受け取ってー!!」
女の子が、紫音くんに群がる。
「流崎くん。これ、貰っていただけます」
紫音くんの横に並ぶように有美さんが、言ってる。
もう、見ていたくない。
私は、席を立つと食堂を後にした。
「梓…」
智子の声が背後でする。
何で、私、こんなに胸が痛いんだろう。
こんなに、心狭かった?
紫音くんの事だからかなぁ…。
部屋を出る前にウエアーのポケットに、チョコと帽子を忍ばせた。
渡せるとは、思えないけど…。
「梓ちゃん。大丈夫?」
長瀬さんが、私の顔を覗き込んできた。
「あっ、はい。大丈夫です」
ドアップの長瀬さんにビックリして、後ずさった。
「昨日の続きうをしようか?」
「はい」
早く上達したくて、そう返事をする。
今日も、長瀬さんが板を持ってくれる。
なんか、悪い気がするが…。
「気にしなくていいから…」
長瀬さんが、笑顔で言う。
うーん…。
なんだろう?
昨日より、ご機嫌なような気がする。
「大分、滑れるようになったね。じゃあ、中級コースに挑戦しようか」
長瀬さんの提案で、中級コースに移動。
ちょっと、怖いかも…。
「梓ちゃん。ゆっくりでいいから、下まで降りよう」
長瀬さんが、何時もの様に先に滑り出す。
私は、意を決して、滑り出した。
当たり前なんだけど、初心者コースより、斜面が急で、スピードが出てる。
ワッ…わ…。
勢いがつきすぎて、止まらない。
「梓ちゃん!」
長瀬さんも慌ててる。
私も、パニック状態。
どうしたら、止まるの?
「梓ーー!!」
大きな声と同時に。
ドン!!
衝撃と同時に目を瞑ってしまい、何がどうなったのか…。
でも、これが痛くないんだ。
私は、恐る恐る目を開けた。
「紫音くん!!」
私の目の前には、紫音くんが…。
私を抱き締めてくれてた。
「痛たた…。梓、大丈夫か?」
自分の方が痛いはずなのに、紫音くんは私の事を気遣ってくれる。
「うん、私は…。紫音くんの方こそ大丈夫?」
「俺は、大丈夫だよ。何て無茶しやがるんだよ!」
「…ごめんなさい…」
「…ったく、心配かけさせるな」
紫音くんが、私の頭を撫でる。
「うん…」
「…で、俺に渡すものはない?」
って、催促される。
「無いよ。だって、紫音くん一杯もらってるでしょ?」
嘘。
本当は、持ってる。
「あー、あれ。全部断った。それに、彼女が居るのに受け取るのは、失礼だろ。だから梓から貰わないと今年、俺ゼロになるんだけど…」
紫音くんが、照れながら言う。
そうだったんだ。
私は、ウエアーのポケットに隠してた袋を取り出す。
「はい、紫音くん。貰ってくれますか?」
それを紫音くんに差し出した。
「喜んでいただきます」
紫音くんの顔が、笑顔になる。
「開けていい?」
私は、頷いた。
気に入ってくれるといいんだけど…。
「…これは…」
そう言って、取り出したモノを頭に被る。
うん、似合ってる。
「梓。これ、手編みだよな」
「うん。紫音くんに似合う色を見つけて、編んでみたんだ」
「ありがとう、梓」
紫音くんに抱きつかれた。
エッ…、あっ…。
「紫音くん…」
「梓ちゃん…」
背後から、長瀬さんの声。
「長瀬さん…。あの…」
「うん。梓ちゃんの彼だって、直ぐにわかった。俺の完敗」
って、長瀬さんが言う。
エッ…。
あの…、それは、一体何の事?
「じゃあ…」
そう言って、長瀬さんは降りていった。
「やっぱり。あいつは、梓の事、狙ってたんだ」
紫音くん?
それは、つまりどう言う事でしょう?
「梓。お前、隙見せすぎ。もっと自覚持てよ。俺の女だって」
エェーっ。
もしかして、長瀬さんが、私の事を…。
って言うか、紫音くん。
今、めちゃ恥ずかしい事をさらりと言いませんでした。
あ、ダメだ。
顔が、熱くなってきた。
そんな顔を見られたくなくて、顔を背ける。
「梓」
「はい」
声が上ずる。
「こっち向いて」
無理です。
向けれないでいる私の頬に、柔らかいものが触れる。
エッ…。
私が、紫音くんの方に向くと。
「やっと、向いたな。梓、大好きだよ」
紫音くんが、笑顔で囁く。
「うん。私も、紫音くんが好き」
私は、笑顔で言い返した。
梓、凄い鈍感でしたね。
チョコ、どこにいっちゃったんだろう?
まぁ、紫音の事だから隠れて、食べたんでしょう…ね。