母と私。王者とそのこども。
ところで、なぜ産まれたばかりの私が、自分は召喚獣だと断言できるのか。それをお話しなくてはなりませんね。
…いや、本当は話す理由も必要性もないのですが、誰かに聞いてほしいんですよぅお願いしますよぅ。
ごほん。
それは私の肉球の裏に召喚印があるからです!!
あっ、召喚印っていうのはですね、召喚する際に必要なもので…え?理由として弱い?
えー、そんなこと言われましても…ねぇ?
なーんてね!
ふっふっふ。さすがにこれだけじゃありませんよ。
というか、私の肉球の裏に紋様があるのは本当ですが、それが召喚印だなんて知りませんでしたし、複雑な模様だなーこれなんだろ?くらいにしか思ってませんでした。実際。
しかしですね、私が卵から孵ってすぐのことです。
あ、私たちにはふっわふわの毛がありますが、なぜか卵でした。ただし金色の。
そう、最初に気がついたとき、視界は真っ暗でした。当たり前ですよね、卵の中だったんですから。
しばらくしてどうやら薄い壁に包まれているようだと気づき(殻)、頭突きをしまくってそれを見事突き破ることに成功。
そしてめでたく私はこの世に生を受けましたーーと、同時にあのお方とご対面したわけですね、はい。
あのお方、というのは謎に包まれた黒幕とか名前を言ってはいけない危険人物とかではなく。
一言で言えば、母です。
そうです、私たちを産み落とした張本人です。
なんですが、どうもお母さんとかママとは言いづらく…。
あの人(人じゃないけど)を前にして「ママ(ハートマーク)」なんて言える勇者がいたらお目にかかりたいですって!いやマジで!!
ということで、今は「あのお方」呼びに落ち着いています。
なんていうか、お母さんって雰囲気じゃないんですよね。こう言っちゃなんですが、母性の欠片も感じられないというか…。
そんなはずはないんですが、目があった瞬間「食べられる!おいしく食されてしまううぅ!!」と本能的に思いました。頭の中で危険信号が鳴り響きました。盛ってないですほんとです。
こう、食物連鎖の頂点というか、生物界のヒエラルキーの極みというか…。
まあ、あのお方のおそろしさについてはおいおい語るとして。
どうやら卵から孵ったのは、私が最初だったみたいなんですよね。
あのお方から目を逸らして辺りを見回してみれば、ひび一つない黄金の卵がずらりと並んでいましたもの。
「あ…ごきげんうるわしゅう」
そしてまた目があったあのお方に発した第一声が、これでした。
もうほんと黒歴史ですよねあああ今すぐタイムリープして当時の私を殴り倒して口を塞いでやりたいいいい!!という思いでいっぱいですはい。
「なっ……ぷっ…くくくっ……あっはっはっはっは!!」
そして捕食者の顔から一転、目を見開いて、やがて堪えきれず大爆笑し始めたあのお方の笑いが止まるまでが、永遠にも感じられました。
「お前…我が仔ながら変わったやつよのう」
「はぁ…恐縮です」
「…っ、ふはっ、また妾を笑わせる気か? 笑い殺す気か? まったく、末恐ろしいやつじゃ」
…ふぅ、と一息ついた彼女は、にやりと不敵に笑いました。
いやいやいやいや! 何その笑み! 怖いんですけど!! あなたの方がよっぽど恐ろしいんですけどぉおお!!
というのはもちろん飲みこみましたよ? ええ、命が惜しいですから。
「あの…つかぬことをお伺いしますが、あなた様はお母様でいらっしゃいますよね?」
「くくくっ…いかにも、かわいい我が仔よ」
悠然と頷く黄金の獣は、王者の風格と言いますか…やっぱり母親らしさは皆無でした。
光り輝く力強い肢体に、風にたなびく立派なたてがみと、鋭い牙と爪、象牙色の角、そして巨大な翼。そして今の私の数百倍はありそうな体躯。
これだけ揃ってて、怖くないほうがおかしいと思いませんか!?
そしてそのおそろしい獣(母)は、私を品定めするように眺め、やがて満足そうに頷きました。
「お前が最初ということは…お前が最も強いということだな」
「え? そうなんですか?」
「そうだ。最初に目覚めた者が全てを制する。妾も、我が兄弟で最も早く目覚めた」
「そ、そうなんですか…」
そう言われると納得するしかありません。だってこの人(人じゃry)明らかに捕食者ですしおすし。
「ではお前に話そう。我らの種族と存在について」
「えっ、きょ、兄弟は待たなくていいんですか…?」
「構わぬ。どのみち生き残るのはごく少数だ」
「それでも母親かよ!」と怒鳴ってやりたくなりましたが、口を開くことすら出来ず。こくこくと赤べこよように頷くだけしかできませんでした。
「まあ、後から私が伝えればいいか」と、この時の私はのほほんと考えていたんですよね。
でもですよ、後で聞いたら、なんとなんとこの時私は試されていたらしいです。ええっ!
一人だけ選ばれし者として、おごりを持って一人で生き延びようとするか。
選ばれた者として与えられた情報を兄弟に伝えて、彼らの危険を回避させるか。
結果的に私は後者をとったわけですが、あのお方でさえ一か八かの賭けで肝を冷やしたと笑っていました。
どうやら、この「賭け」は私たちの種族の「しきたり」らしいです。
最初に孵るのは強いからであり、一番目の仔が最も強いというのは事実なので、その一体が他の個体をどう扱うか見るのだそうで。
この時に見捨てるようなら、もう他の個体はもちろん、最初の一体も生き残ることは不可能だと判断するそうです。その後どうするのかは怖くて聞けませんでした。
…私たちが中々繁殖しないのは、絶対にこのしきたりのせいだと思いますお母様。
そして肝心の伝えられた情報ですが…それは、私たちは召喚獣である、ということでした。
「しょ、召喚獣? ってあの?」
「召喚獣を知っているのか? ふふ、お前は本当に可笑しな仔じゃな」
「い、いえ、詳しくは知りませんが…」
どうやら前世ではファンタジーものが好きだったみたいで…あ、バカ○スって知ってます?
とはとうてい言えるはずもなく。
「えへ、えへへへへ」
と笑っているのが精一杯でしたがなにか?