7 アナタと再び?
「あれが、初恋……」
時空を隔てた遥か彼方。皇帝の初恋は自覚するとともに幕を閉じた。
「愛する娘と殺しあわなければならなかったとは……」
涙声のセルゲンに頷く皇帝。
「あの娘も、死ぬ気で愛(魔力)をぶつけてくれたのだろうな」
単なる殺し合いの話が、愛の思い出に塗り替えられている。
「見届ける事は出来なかったが、あの娘も余の放った愛(魔力)で、かの地『ディリア』に眠っている事だろう」
皇帝が切ない過去話を締め括ると、そこの空気は微妙になっていた。
「ひっ……!?」
その空気をハナはヘンな声で台無しにした。
「どうした?」
「い、今『ディリア』って……」
ハナは青い顔でガタガタ小刻みに震え始めた。
『ディリア』とは魔王の城があった地名だ。
「ああ。余の出身地だが。どうした?」
「い、いいえ! ステキな思い出だなぁと思って」
「ああ。そうだ……美しい思い出だ」
思い出は往々にして美化されるが、彼の思い出のどこに美しい要素があるかは不明だが。
そしてセルゲンは僅かに眉根を寄せて切ない表情で皇帝を見詰めた。
「魔王……ゴホン。陛下にそのような過去が……」
「へ……?」
やっぱり、魔王じゃないかーー!
バレたらヤられる……。
いや、勇者は『敵』じゃなくて『初恋』認定されたから大丈夫……なのか?
ブツブツ言うハナに魔王皇帝陛下はじっとりとした湿度の高い視線を送った。
「だから、そなたが気になったのだな。そなたは余の『初恋』の娘に似ておる」
「なるほど、陛下がこの娘をペッ……傍に置きたいと仰られた理由が解りました」
「うむ。そなた余のペッ……傍にいるが良い。存分に可愛がってやろう」
「ぼふぉっ!」
『初恋ですか?』などと言わなければ、もしかして帰れたかもしれないのに。
墓穴を掘ってしまったハナ。