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銀河最弱物語  作者: 柿衛門
もしものお話
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ハナと侯爵~その2



 ハナとミノちゃんがベッドに入ると、侯爵は一人晩酌を始めた。

 心なしグラスを持つ手がプルプルと震えている。

 一気に酒をあおるとグラスをテーブルに置きポツリと呟いた。


「ハナは……女子だったのか……」


 この朴念仁さんは、ハナの体を洗っている最中に気付いたのだが、皇帝陛下のように動揺して小指をぶつけるような真似はしなかった。

 ただひたすら無表情で焦っているだけだ。

 因みに、パンデモニウム内でハナを皇帝のペットだと未だに勘違いしているのは侯爵だけ。

 そんな彼は苦虫を噛み潰したような顔をして、一気に酒をあおった。


「そうか、ハナは女子か……」


 女子をペット扱いなど陛下もなかなか鬼畜だな、と自分のことを棚に上げてハナが可哀想になってきた。


「ハナは女子なのにな……可哀想に……」


 学校を卒業して、陛下の許へ返したらまたペット扱いになるのか。

 それはあんまりだ。


 一人グルグルと考えているうちに、返さなくても良いのでは、という結論に至った。

 しかも、半端に耳にしていたハナの境遇を、酒のせいで半端に思い出してしまったせいで、居た堪れない気分に陥ってしまった。


「俺が幸せにしてやれば良いのではないか……うむ。そうすべきだな」


 そして、噂話に疎すぎるせいでハナが陛下の想い人だということも知らない。


「学校も……ハナに丁度良いところがあるな。よし」


 ペットがのびのび過ごす学校ではなく、子供達がのびのび勉強に励む学校がある。

 侯爵は、ミノちゃんと仲良くスヤスヤ眠るハナの寝顔を見つめて決意を新たにした。



********


 ハナが通う予定の学校は現在夏休み。

 侯爵の屋敷の一室を与えられたハナは、夏休みの間に出されている宿題をこなしていた。

 学校に通っていた頃は勉強があまり好きではなかったが、今は勉強ができることがとにかく嬉しい。


「まさか、勉強が楽しい日が来るなんて……」


「楽しいか、ハナ?」


「は、はい!」


 分からないところが結構あり、そこはなぜか侯爵が丁寧に教えてくれる。ハナのそんな呟きが聞こえた侯爵は、目を細めて無表情だが優しい顔をした。

 学校の休みに合わせて、侯爵も溜まっていた休暇の消化に充てていた。


「そろそろ休憩にするか」


「はい!」


 そろそろ昼食後のお昼寝をしていたミノちゃんが起きる時間だ。


「ムモ……モ……」


「あ、ミノちゃんおっきするの?」


 案の定むにゃむにゃ言いながら起きたミノちゃんが、ハナの許にやってきた。

 ハナと侯爵がいると、ミノちゃんは迷わずハナのところに来る。そして、ハナの服の裾を引っ張って何か強請るような仕草をしている。


「モ!」


「じゃあ、お外行こうか」


「俺も行こう」


 ミノちゃんを間に挟んで手を繋いで外へ出る三人の姿は、まさに幸せな家族のようだ。侯爵自身も心がほっこりとして満更でもない顔をして歩いている。

 こうして概ね楽しい毎日を過ごしていたハナだが、一つだけ困ってしまったことがある。

 制服を作りるついでにお買い物に連れて行かれたときに、侯爵がハナが「かわいい」と言ったもの全てを買おうとしたのだ。

 「可愛い」と言ったもの全てが欲しいわけではなく、ウインドウショッピングを楽しむ感覚はやはり何時まで経っても男性には理解しがたいようだ。


「ううむ、女性はプレゼントをもらうと喜ぶと聞いていたが……」


 侯爵は侯爵でハナを楽しませたい一心でやったことが裏目に出てしまい、少し凹み気味だ。


「あ、ミノちゃんのオモチャ見に行きましょう!」


「モ!」


 そんな侯爵をハナがフォローする。

 たくさん歩いて疲れたせいか、侯爵に抱っこされてウトウトしていたミノちゃんも元気に返事をする。


「そういえば、ライオンの立体パズルを欲しがっていたな」


「ミノちゃんテレビにくっついて離れなかったよね」


「モーン」


 コマーシャルを食い入るように見ていたミノちゃんを思い出して、二人で笑う。もちろん侯爵は無表情だが、ハナには見分けがつくようになってきた。




********


「ハナから連絡はあったか?」


「ハナさんというか侯爵から連絡がありました」


 ところ変わって帝星のパンデモニウム内では、皇帝がセルゲンに尋ねていた。

 毎日一時間おきくらいに尋ねるのが習慣になってきている。


「今日は、カモミールの花束を贈ったのだが」


 皇帝は毎日約束通り花束を贈っていた。おまけに入学祝いに服やカバン、家具類まで贈っていた。

 ハナから一度お礼の通信と、お手紙を貰ったきりだ。手紙には遠まわしに「物品はいりません」と書いてあり、皇帝は約束の花束以外贈ることはしなくなった。


「ハナはいつ帰ってくるんだ?」


「まだ学校は始まっておりません、陛下」


「そ、そうか……そうだったな!」


 毎日の同じやりとりにセルゲンもちゃんとお付き合いしていた。



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