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銀河最弱物語  作者: 柿衛門
銀河最弱物語
41/48

2

 会議場に銀河の主要な貴族たち全員が集まると、皇帝陛下、そしてハナが入ってきた。

 そうそうたる顔ぶれにハナは緊張しながらキョロキョロしている。


「卿らに今日集まって貰ったのは他でもない、ハナのことだ」


「ええっ!?」


 皇帝の言葉に他でもないハナが驚きの声を上げた。

 ハナは自分のことで、こんな偉い煌びやかな人たちが集まったことをたった今知った。


「知らぬ者もおろうが、ハナは地球の人間であるが、異界へ呼び出されその後、事故でここへやってきた」


 誰もが静かに皇帝の話を聞いている。


「まだ、地球に人間が住んでいた時代、遥か過去よりやってきたのだ」


 そこで場内がざわめき始めた。


「静粛に願います」


 皇帝の横に静かに立っていたセルゲンが告げると、場内は再び静まり返った。


「本来、ハナはここにいて良い人間ではない。過去に家族も友人もいる」


 そこで皇帝は言葉を区切ると困ったような顔をした。


「そこでだ、卿らに頼みがある」


 真剣な皇帝の言葉に場内の誰もが固唾を飲み込み耳を傾けている。


「ハナを過去へ返したいのだ」


 ――帰れるの!?


「余の我侭であるが、異論のある者は?」


 誰も何も言わず頷いている。

 中には微笑みを浮かべているものすらいる。


「良いのか? 未来――現在が変わるやもしれぬぞ?」


「お言葉ですが陛下」


「なんだ、ウェネリース公爵」


「我ら地球産の生物――天使、悪魔などは人間から産まれし物。人間が滅ぶときに滅ぶ定めでした……陛下がおられなければ」


「そうは言っても、そなたらの存在がなくなるかもしれぬぞ」


「陛下のお言葉に異論があるものなどおりませぬ」


「では、決まりだな……みんな、済まぬ……いや、ありがとう」


「ちょっと待って、陛下!」


 当事者を無視して勝手に進む話にハナは怒りを覚えて遮った。


「ずっと考えておったのだが、余はそなたに笑っていて欲しいと願っている……余が存在しなければそなたは今頃楽しく暮らしておったであろうな……」


「それは違うって、あたし前に言った!」


「そうだったな……だが、余は、愛するものから全てを奪ってしまった己の存在が許せないのだ」


「え……陛下?」


 ――今、何て言った?


 何かさらっと重大なことを言ったような気がする。


「ハナ。そなたはディリアへ呼ばれた時から全て忘れて過去へ戻るのだ」


 だが、ハナはすぐに我に返った。


「ふ、フザけんなー!」


「おお、今の一撃はなかなか効いたぞ」


 嬉しそうに笑う皇帝にもう一度蹴りをお見舞いすると、ハナは会議場を泣きながら出て行った。



***


「ヒドイよ……ばか……」


「ハナ……」


「あたし、帰らないんだから!」


「だが、そなたが一番望んでいることだ」


 何よりハナが望んでいたこと。

 家族も友人も何気ない日常生活全てが何にも代え難いこと。

 だが――


「だって、そんなことしたら、イオさんもセテさんもミノちゃんもドラコもいなくなるかもなんだよ!?」


「すまん」


「謝ってすむなら、警察いらない……ねぇ、陛下」


「なんだ?」


「あたし、過去に戻ったら陛下にまた会えるかな?」


「……ああ、もちろんだ」


 皇帝は嘘を吐いた。

 他でもないハナのために。

 皇帝がディリアから転移するのは、ハナの生きた時代から五百年後だ。

 二人が生きて会うことはない。


「嘘吐き!」


 皇帝を好きかどうかなんて分からないけど、嫌いではない。

 イオもセテも侯爵もミノちゃんもドラコも、大好きだ。


「あのな、余は欲張りなのだ」


「……なにが?」


 ハナは顔を歪めて口を尖らせて投げやりに聞いた。


「そなたに笑っていて欲しいと願っている。心の底から願っている。それなのに、余のそばにいて欲しいとも願ってしまうのだ」


「何言ってるか、分かんない」


「だから、そなたがここにいると、余はそなたが欲しくて止まらなくなってしまうのだ」


 ――今更だがな……もっと早くに気付いて、告げていれば良かったのかもしれない


 ハナから目を逸らさずまっすぐに言う男に嘘はないのだろう。

 そしてハナは知っている。

  

「あたし、よく分かんないけど、これ以上あたしから大事なもの取り上げないで……」


 大事な人たちができたから、帰りたくないと言うが、そういう人たちがいなくとも帰ることはしないだろう。ハナはそういう子だ。

 だから、皇帝が無理にでも返してやらなければならないのだ。


「ハナ」


「お願い、陛下……あたしを、ここに置いてください。あたしのお願い聞いてくれるんですよね?」


 厳しい口調で説得しようとしたときに、ハナが頭を下げた。


「ここには、何もないぞ。家族も友人も……」


「友達ならいるもん! 大事な友達だもん!」


「……家族がおらぬだろう?」


「作れば良いもん!」


 皇帝はハナの言葉に手を握りしめて考えた。

 それからハッとして顔を上げる。


「それは、余と――」


「違うから!」


 何かを察したハナは最後まで言わせなかった。


「む、そうか……」


「ふ……ふふ……あはは!」


 ちょっとガッカリした顔の皇帝にぶすくれていたハナが笑った。

 楽しそうに笑った。

 その笑顔に皇帝も微笑んだ。





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