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銀河最弱物語  作者: 柿衛門
アナタと再び
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4


「……面白い芸だな」


皇帝陛下は移動艇のモニターで水を出すハナの様子を見て頬を緩ませた。

もちろんハナの事を移動中ずっと見ていた訳ではない。


移動艇内で、帝星の後宮から連れてきた愛人二人とイチャついていたのだが、休憩がてらモニターで人間の娘を見たら魔力で水を出している場面だった。


「地球の少女ですね」


それを見て意味ありげに微笑むのは赤金の髪に乳白色の肌。豪華なプロポーションの美姫、イオ・ウェネリース=ケルビナム。


天使の血を継ぐケルビナム種族ウェネリース公家の第三公女である。

宇宙一美しい美しいと言われるケルビナム系はプライドも宇宙一高い。


「これが、地球人ですか……」


そして美しい顔を可笑しそうに歪めているのは美貌の青年、セテ・バエル=リュシファウス。リュシファウス公国の親王殿下。


リュシファウス系は白金の髪に白い肌、白い瞳で清廉な美しさは天使を彷彿とさせるが、その実、獰猛狡猾で血生臭い種族だ。

彼らの出自は公にされていないがカナアンの堕天した神の末裔である。



帝国の宮に帰れば後宮には二人以外にも側室やら愛人が男女問わず数え切れない程いる。

それこそ一度も相手をした事のない室もいる。


大輪の薔薇の様な美女も、楚々とした愛らしい少女も、神々の彫刻の如く美しい青年、はたまた異彩を放つ紅顔の美少年とありとあらゆる美が後宮に納められている。


それと比べるのもおこがましい、平凡な容姿で品も教養の欠片も感じられない人間の少女。

一際目立つのは幸せそうに食事をする姿。

強いて言うなら愛嬌はあるかもしれない。


おまけにヘンな水芸。


『出よ、炎! えいっ!』


と、思いきや今度はヒョロヒョロとしたヒョーロク玉のような火を出した。


「あの娘、何をやっているのだ?」


慌てて火を消し穴の開いた絨毯を青くなって凝視する姿にまた顔が緩む。


「しかし、地球人とは随分と珍妙であるな。……よし、決めたぞ」


従者セルゲン・ライマール伯は皇帝の次の言葉を待っている。


「余はアレをペットにする。何やら芸も身に付けておるし、楽しめるだろう」


「御意」


皇帝に否を唱える者はいない。セルゲンは早速手配に取り掛かった。


それを見届けるとイオが皇帝にしなだれかかった。細い指を皇帝の赤い髪に絡ませるとまるで血を流しているかの様だ。


皇帝はそれを合図にモニターを落とし二人の愛人を伴い艇内の寝室へ向った。



*


「『地に落ちよ明星』」


丁度、皇帝がモニターを落としたときにハナは対魔王戦で魔王の魔力を削ぎ落とした高等光魔術を放った。

あの世界で現存する魔術の中でも最高等の魔術だ。


これで何とか魔王の魔力を削ぎ落としたのだが……


「……やっぱり、ダメか」


最高等魔術は、今はフヨフヨと蛍の光のような癒し系の光が出てきただけで、無駄に精神力と体力を消耗しただけだ。


「はぁ……はぁ……疲れた。は、早く来ないかな、陛下」


ハナはふ、と思った。


そういえば、『皇帝陛下』とかってエラい人にご足労願って良いもんなの?

メチャクチャ失礼じゃない?

普通下々の者から謁見しに行くもんだよね?


「……ま、いっか。私、ここの人間じゃないし」


それにしても何でこんなに魔力がショボくなったのかしら。


「にしても、白い人が魔王じゃなくて良かった……」


あの人が魔王だったら、万が一にも勝ち目はなかっただろう。

科学も発達している上に魔力の強い人間もいる世界。


最強だ。


グッタリしながら少し拗ねているとノックの音が聞こえた。


白い人はハナに再三言われてノックをしてから入るようになった。何気に失礼な人だ。


「ハナさん。人体検査を行いますので医療部へ行きますよ」


「ジンタイケンサ?」


「はい。ハナさんの全ての検査です」


「え、いえ。健康だから大丈夫ですよ?」


身体ではなく人体という言い方が気になる。何だか物凄く怪しい。

訝るハナに「大丈夫ですよ」と微笑む白い人。


「陛下に謁見する前に伝染病やウイルス、ウェポンチェックを行う決まりですので」


「ウエポン?」


って、武器なんて持ってないですよ?


「それを行わない限り謁見は適いません。まぁ、形式的な物ですから」


「あ、そういう事ですか。分かりました……」


少しよろめきながら立ち上がり、覚束無い足取りで白い人の後をついて行った。



*


そう言えば高校入学後の身体検査のときに、あの世界に召喚されたんだったな。


採血されながらそんな事を考えていた。



そう、あれはジャージを着て身長を測っていたときだった。


頭にコツンと身長計の測定バーが当たり、先生がハナの身長を告げようとしていた。


『野原さんの身長は、ええっと、百六――』


結局、最後まで聞く事はできず何cmだったのか分からない。




「尿に糖が出ていますね」


「はぁ……へっ!? えっ!?」


ちょっと脳内トリップしていたハナは白い人の言葉で現実に戻って来た。


「冗談です。ボンヤリしていたので、つい。疫病、ウイルスは問題なしです。糖も勿論出ていませんよ。ところでハナさんは何歳なんですか?」


「冗談ですか、ビックリした。17歳です」


「17歳……まぁ、ウェポンも問題なしです。へぇ17歳ですか」


白い人は何か言いたそうにハナの年齢を二度繰り返した。しかもハナ(の体)をじっと見ている。


が、彼が何を言いたいのか分かったハナはそれをスルーした。



どうせツルペタですよ。


魔王討伐に必要とされるのは体力、根性、知力、魔力。胸は必要ない。


でも、討伐メンバーの女戦士ミレイユはバインバインだった。


『ハナも大人になれば、ボインボインになる……多分』


普段無口な彼女だが、そう言って慰めてくれた事があった。



皆、今どうしているんだろう。


いずれにしろ別れる予定だったが、あの様な形で別れてしまったせいか非常に心残りだ。


それも無茶をしたせいだから自業自得なのだが。



「――ハナさんの検査結果は以上です。データは陛下の搭乗する移動艇に転送しました」


「あ……はい。どうも」



グッタリしつつトリップ状態になっていたため検査結果をすっかり聞いていなかった。





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