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銀河最弱物語  作者: 柿衛門
ハナの逆襲
34/48

3


 陛下は最近必ず日に一度、花やらお菓子を手にハナのご機嫌伺いにやってくる。

 ハナはハナであまり外に出なくなり、人付き合いが減っているため皇帝がやってくると、それなりに過ごしていた。

 皇帝はハナを急かす様なことは決してしない。大事な将来を決めるのには時間が必要だと分かっている。ハナが決めるまで、そのことは一切口にしないと決めていた。

 本日もお菓子とディスクを手にやってきたのだが、いつもより遅れてしまった。

 ハナの部屋まで疾走して勢いよく扉を開ける男の顔は、デートに遅刻して彼女に振られそうな男の形相をしていた。


「ハナ! 遅くなってすまな……」


 そして、必死なあまりにノックを失念した男は、ハナの姿を見て立ち尽くしてしまった。が、それは一瞬のことですぐさま駆け寄るとハナを抱き上げた。


「ハナ、ハナ! 何と言う……!」


 そこには、円な瞳でプルプルと震えながらヨチヨチ歩きで手を伸ばしているハナの姿。そして、突然入ってきた男に驚いて固まるハナがいた。

 その抱っこをせがむような姿に皇帝は、堪らず抱き上げると短い頭に顔を押し付けてグリグリしている。ハナは堪らず目を剥いた。


「ちょ、へ、陛下! 陛下!?」


「はっ……す、スマン。あまりの愛らしさについ……」


 皇帝がハナを下ろすと二人ともバツの悪そうな顔でソファに座った。

 いつものようにハナがお菓子を受け取って、箱を開けるとようやく皇帝が口を開いた。


「して、何をしておったのだ?」


「えぇと、新しいモノマネの練習?」


 ハナが頭をポリポリ掻きながら告げると、皇帝は目を輝かせた。


「おお! 余は愛らしくて良いと思うぞ? して、何のモノマネだ?」


「ええ? ミノタウロスの赤ちゃん……? 何か、今まで色々モノマネ覚えてたんだけど、思い出せなくて……それで、いっそのこと新しい物をと……」


 人間が口数多く言い訳をするときは、やはり恥ずかしいとか気まずいとか、そういった気持ちを誤魔化したい時だろう。


「おお! もしやそなた、ゆくゆくはそのような芸で身を立てたいと!?」


「いや、そうじゃなくて」


 何が悲しくて、未来の世界でモノマネ芸人にならなければならないのだろう。それはそれで需要はあるのだが、とにかくハナの未来設計図ににモノマネ芸人はない。

 いつもより遅い皇帝を待っている間、暇だったので出来心でやってしまっただけだ。それをノックもせずに入ってきた男が目撃してしまっただけ。


「そ、そうであったか、すまぬことをした」


 どうでも良いが、この男、ハナに謝ってばかりだ。

 それはともかく、もっと色々見せてもらいたいのだが、次の機会に見せてもらおうと皇帝は話しを変えた。


「そうだ、ハナ。イオとセテに会ってやってくれぬか?」


 以前は会うなと言っていたのに、今更何を、とハナは眉間に皺を寄せた。


「その、以前は禁止したのだが、二人ともそなたを心配しておって……な?」


 ハナの近況を知った二人が皇帝にお願いにやってきたのが今朝だったため、皇帝は遅れてしまった。



***


 朝の身支度もそこそこに二人の面会人がやってきた。


「一人で寂しく過ごしていると聞きました」


「ハナさんに会わせてくださいませ」


 静かに、だが、断固たる二人のお願いに皇帝は首を傾げた。


「ハナは余と楽しく過ごしておるぞ? 一人ではない」


 昨日も一昨日もその前の日もハナとお話した。アレスは何やら忙しいようだし、セルゲンやエレウもハナと会う理由はない。

 皇帝一人がハナを独占して非常にご満悦な日々を過ごしている。ハナも楽しそうだし問題ないではないか。余は満足である、という得意げな顔をする皇帝に二人は呆れ返った。

 そこまでして、自分の気持ちに気づかない皇帝。


「ところで、陛下の愛するアレス様はお元気ですか?」


 そこで、嫌味ったらしくイオが尋ねた。


「うむ、元気である」


「側室一同、陛下がアレス様を正妃として迎える日を首を長くしてお待ちしておりますのよ」


 イオの言葉に皇帝は目を見開いた。


 ――側室たちの首が長くなる、と? 見てみたい……ハナにも見せてやらねば! 否、そうではなくて、正妃? 妃だと!?


 皇帝は正妃という言葉に大いに動揺している。


「その、誰を妃にすると?」


「アレス様ですわ。他にどなたかいらっしゃいますの?」


 面白そうに歪めた口元を扇子で隠しながら宣う姫君に、セテも肩を震わせた。


「なぜだ? なぜアレスを妃に?」


「陛下の初恋の乙女でいらっしゃるし、以前、「愛しておる」と宣言なさったでしょう?」


「そ、そうだったな……いかん、最近、年のせいか忘れっぽいな……。して、正妃とはなんぞや?」


「愛する御方を陛下が妃としてお迎えすることを、側室――臣下一同心待ちにしております」


「そ、そうか……あまり待たせると、そなたらの首が大変なことに……。して、余の愛する御方とは?」


 堂々巡りの会話が始まりそうな予感にイオとセテは吹き出したいのを堪えた。


「ご自分でお気付きではございませんか?」


「本当に、銀河一鈍い御方ですこと……」


 言いたい放題の二人の言葉に、ああ、とか、うん、とかおざなりな返事をする皇帝。


「ともかく、ハナさんに会わせていただけますわね?」


「あ、うん。午後から、午後に……しまった、遅刻だ!」


 こうして、彼は二人に挨拶もせず慌ててハナの部屋へとやってきたのだ。



***


「分かりました、午後に会いに行ってきます」


 経緯を聞き、なんだかんだ気にかけてくれている二人に嬉しそうに笑うハナに皇帝の心が痛んだ。


「ハナ……すまん。余は、そなたのことを考えているようで考えていなかった……」


 それにすらハナは笑顔を返した。


「考えてくれてるのは、分かってる、と思います!」


 その裏表のない返事に皇帝は救われた気がした。

 が、次の言葉に地の底に叩きつけられたような感覚に陥る。


「早くアレスと結婚(?)できると良いですね!」


 あまりに無邪気に言われてしまい、しばらくの間、皇帝はウジウジと悩むことになる。





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