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銀河最弱物語  作者: 柿衛門
ハナの逆襲
33/48

2

「何あれ……?」


 全員が出て行った部屋でハナは一人で手を握りしめて、大きく息を吐いた。

 目が覚めたたときに、混乱していたハナだが落ち着いてくると思い出したのだ。よく考えれば、当然のことだ。ディリアで体験したことではなく、アレスと同調していた部分を移し替えられただけなのだから。



****


 ――あたし……あたし、頑張ったのに……このままじゃ、ウッ――


 ハナは波形を睨みながら必死に考えていた。そして波形を見ているうちにあることに気付いたのだ。

 波形のところどころ小さなギザギザ――ノイズが出ていることに。ハナはノイズに自分の思念を混ぜることを思いついたのだ。

 こういう時に人間性が出るのだろう。

 ハナが咄嗟に思い付いたのは、お猿の真似をしがらバナナを食べたこと。ゴリラの顔真似を部屋でコッソリ練習していたこと。などなど、花も恥じらう乙女としては、あるまじき色々なネタだ。

 なんでも良いから、アレスに何か影響を及ぼせれば、と記憶を移し替えられるときに思い浮かべた。

 上手く行くかなんて分からない。上手く行かなくても、何かしないと気が済まなかった。

 その結果がアレだった。


「いや、いくらあたしでも、ゴリラの顔真似は他人様の前ではやんないよ……アレはないわー……」


 アレスのゴリラの顔真似は恐ろしいほどのクオリティの高さだった。逆に言うとハナがそこまでクオリティを高めていたのだが、自分では覚えていない。


「そっか……アレスは残念な美少女だったんだね」


 おそるべし、ハナの執念。


 ――はあぁあ……それにしてもなぁ……どうやって生きていこう……


 帰って来ない日常生活を思い出して、今後のことを考えると憂鬱になってきた。


 ――でも、なんであたし、召喚なんてされたんだろう? 全然役に立たなかったのに……


 召喚されたことや、魔王討伐の旅に出たことは覚えているし、巻き込まれて未来の世界に来たことも分かった。そして、ここで皇帝陛下に拾われてからのことも覚えている。だが、アレスが来てからの記憶がところどころ抜け落ちている。

 

 ――そういえばアレス。昨日、変なことしてた……




****


「さきほどのアレスは、なんだったのだ?」


 皇帝とセルゲンの、フォローという名の辱めに耐えられなくなったアレスは、散歩に行ってきますと言いながら半泣き状態で出て行ってしまった。

 正確に言うと、「とっても似ていた」と褒めようとしたのを「とっても似合っていた」と言ってしまい、「ゴリラの顔真似が似合うってどういうことですか!?」と、怒らせてしまったのだ。まぁ、「似ている」と言われてもさっぱり嬉しくないのだが。


「さぁ、記憶が戻って安心したのではないのでしょうか?」


「まるでハナのよう……いや、ハナもゴリラの顔真似はしなかったな」


 ハナのお猿のモノマネはとても可愛らしかったな、と考えながらハナのことを思い出した。


「余はもう一度ハナに会ってくる……きちんと話しをしなければな」


 怒鳴られても嫌われてきちんと向き合わなければならない、と彼なりに誠意を示すためにハナの部屋へ向かった。



 現在ハナは皇帝の塔の客室を使用している。

 本当は皇帝はハナと同じ部屋で過ごしたかったのだが、アレスとハナを離すために仕方なく客室を与えたのだ。

 部屋の前で深呼吸をしてからノックをすると、「どうぞ」と、思ったより落ち着いたハナの声にホッとした。



***


 皇帝は部屋に入るなり土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。


「すまん、ハナ! 余が存在したばかりにそなたの人生をめちゃくちゃにしてしまった」


 煮るなり焼くなり気の済むようにしてくれ、と。

 もちろんそんなことをしても、元の時代に返してくれるわけではないので、「陛下のせいじゃない」とハナは許した。

 訳もなく――


「謝って済むなら警察いらんわー!」


 と怒鳴りながら、遠慮なくスネに蹴りを入れた。

 皇帝はそれを甘んじて受けた。


「さっぱり痛くないぞ、ハナ。そなた手加減しておるのか?」


 むしろ、もっと蹴ってくれ、といわんばかりの態度にハナは引いた。


「まぁ、陛下が悪いわけじゃないのは分かってるし……」


「そうは、言ってもだな……余の存在がなければ、ハナが召喚されることもなかったであろう」


 果たしてそうだろうか、とハナは首を傾げた。

 彼が存在しなくても、別の存在が魔王になっていたかもしれない。魔王がいなくても、何か理由をつけて異界人を呼び出したかもしれない。


「陛下が存在しなかったとしても、バカな人はバカな真似するんじゃないんですか?」


 その一言に、皇帝は雷に打たれたような顔をした。


「ハ、ハナ……そなたは……そ、そうだ! 何でも言ってくれ。何でも……という訳にはいかぬが、助力は惜しまぬ」


 ハナは腕を組むと、難しい顔で考え始めた。

 責任を感じているだろう皇帝に言えば、なんでもさせてくれるのだろう。だが、ハナが求めているのはそういうことではない。


「言ってくれぬと分からぬ……ハナ、なんでも言ってくれ」


 真摯な態度の皇帝に、考え込んでいたハナはポツポツと話し始めた。


「あたし、普通の高校生だったんです。それで……それで、大学に行ったら福祉関係の勉強したかった。それで、合コンしたり、彼氏も欲しかったなぁ……」


 本当に普通で良い。家族がいて、友人たちがいて、穏やかな人生を過ごせれば。


「学校に通いたいのか? 帝国内にも学校がたくさんある、後で案内書を取り寄せよう」


 ハナはその言葉に首を振った。学校に通えるのは嬉しいのだが、正直なところ今は考えたくないのだ。

 そのことを告げると皇帝は、顔をクシャりと歪めて分かった、と言った。


「だが、いつでも言うのだぞ」


「はい……」


 ハナは何かを考えるように心ここに非ずで返事をした。




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