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銀河最弱物語  作者: 柿衛門
アナタと再び
3/48

3


お腹が満たされてきたハナは、冷静に考える余裕が出て来た。


先ず本当に地球に戻って来たかどうか、という事。


魔王にぶつけた術は、ランダムな転送術で、どこの界に繋がるか分からない術だ。

ハナの魔力だけでは転送陣を動かす事は出来ても制御までは出来ないのだ。


そのため魔王討伐後にハナを地球に返す協力をすると言う約束だった。


魔王の魔力がどう作用したか分からないが、地球に辿り着いた可能性は限りなく0(ゼロ)に近いと言える。


しかも助けてくれた白い人は美人だが地球人離れしている。


ついでに、天辺だけで東京タワーだと思うなんて余程テンパッテたんだろう。


寧ろ、地球に近い文明が発達した世界に渡ってしまったと考えるのが妥当では無いか?


うん、きっとそうだ。


そうだとしたらどうやって帰ろう?

魔力がすっからかんではどうもこうもない。


何かないか?

何かないか――


「お口に合いませんか?」


お行儀悪くスプーンを銜えたまま突然黙り込むハナを心配するように見つめる白い人。


「あ、いえ……あ……あぁっ!」


ハナは白い人を見て閃いた。



魔王以上の魔力を持つ人が目の前にいるではないか!

この人に手伝って貰えば良いんだよ!



思いついた勢いで、白い人の手を握り身を乗り出すハナ。


「お願いです!」


「は、はい。何でしょう?」


白い人は突然のハナの行動に若干引き気味だ。


「帰る手伝いをして欲しいのですが!」


「え? ……私の一存では決めかねます」


「家に帰りたいだけなんですけど……ダメなんですか?」


「ええ。陛下がお決めになる事です」


「へーか?」


「そもそも貴女を捕……助けるように命じたのが陛下でして。是非ともあなとお話したいと仰っていますので」


「じゃあ、その陛下にお願いすれば良いんですか? 陛下ってどこにいるんですか!?」


「先ず落ち着いて、お待ち下さい。今、こちらに向っておいでですので」


「ふぅん、そうですか……どれくらいで会えるんですか?」


「先ほど司令部を出発なさいましたので直ぐに謁見できますよ」


白い人は宥めるように微笑んだ。


「30分くらいで会えますか?」


白い人は首を傾げた。


「後、89時間ほどお待ち頂ければ」


「……へ? どこから来るの?」


「司令部からですが」




***


小型地球観察艦メルカーノは直径6、794kmの球状の宇宙艦である。

外形は火星とほぼ同じ大きさで、中心から半径1、100kmに動力部、重力、磁力発生装置その他諸々を有する。

それを囲むように地球の植生が移植、保護、研究されている。

地表面は半径約2、300km。


要は火星の中に直径4,600kmの縮小された地球がある。

その中には研究施設以外に店舗やら娯楽施設がありそれなりに人がいる。


ところで、大型地球観察艦があるのか? 

と言うと、ない。


研究用艦は全てこのサイズで、大型は全て戦艦になる。戦艦は更に大きく大体木星サイズになる。それと比べて小さいため『小型』と称されているだけだ。



さて、ハナが保護されたラボは司令部から結構な距離がある。


メルカーノ艦内は諸々の事情(エネルギー、植生保護、安全面)の点から移動時の上限速度72kmと厳しい速度制限が設けられている。


銀河を総べる皇帝陛下と言えどもそこはキッチリ守って貰わなくては、メルカーノ動力部破損などという事態は免れない。



*


「ヒマだわぁ~」


ラボ内の客室に寝泊りが決まったハナはベッドで丸一日ゴロゴロしている。


この2年、魔王討伐のため寝る間も惜しんで経験地稼ぎに励んでいたハナだが、勝手の分からない場所に来て暇を持て余していた。


白い人に大体の説明は聞いたがもちろんチンプンカンプン。

何回か聞いて、ここが宇宙船の中っぽいとだけ分かった。


確かに窓の外は太陽光とは違うどこかセピアがかった色の光に照らされているが俄には信じがたい。


「そっか……地球より科学が進んでるところに来ちゃったのか……」


体内のリズムが狂わないようになのか、夜になれば暗くもなり「芸が細かいのぉ」くらいにしか考えていない。


好奇心に任せて外に出てみたい気もするが、白い人に拒否された。


客室内は風呂も水道も冷蔵庫もあまつさえTVまで完備されているため不自由はないがツマラナイ。


ツマラナイのだ。


そしてゴロゴロしているせいか気力が充実して魔力が漲っている。

どうやら魔力が戻ったようだ。


目を瞑り呼吸を整える。

白い光をイメージして体に気を巡らせる。


「水」


「ハナさん、夕食に行きましょう」


ハナが水系魔法を放つと同時に白い人がノックもせずに部屋に入って来た。



***


ハナは居た堪れない思いをしていた。


「ハナさんは水芸が得意なんですね。是非、陛下に披露して下さい」


「はぁ……」


白い人がハナの部屋に入ると、新春隠し芸宜しく、指の先からチョロチョロと水を出すハナがいた。


嫌味か皮肉か、白い人は濡れた床を拭きながらそんな事を言った。


結局コップ一杯分の水が出て来たくらいで、嫌味を言われるほど水浸しにした訳ではない。


しかも、コップ一杯の水でハナの魔力は再び枯渇した。



ダメじゃん……



ガックリして折角の食が進まない。


「そう言えば、陛下がハナさんと食事の席を設けたいと仰っておいででしたよ」


「はぁ……」


白い人は、ガックリしているハナを喜ばせようと言ったのだが、言われた本人は生返事を返している。


「後、45時間ほどでお見えになりますから」


「へぇ……」


「帰れるかもしれませんよ?」


「そ……そっか。そうですよね!」


そうだ。

ショボくなった魔力はどうでも良い(白い人の魔力を借りるから)。


やっと帰れるんだ!


そう思うと嬉しくなり、ニコニコしながら食事を口一杯に頬張る単純なハナ。


白い人は内心溜息を吐いた。


――直ぐには帰れないでしょうけどね。





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