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銀河最弱物語  作者: 柿衛門
陛下と乙女とポチ
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1


 長い睫毛を震わせながら瞼がゆっくりと開き黒曜の瞳が現れた。暫く視線を彷徨わせると枕元にいる真白いエレウの姿に目を留めた。


「こ、こは……?」


「目が覚めましたか? 先ず、お水をどうぞ」


 エレウは目が覚めた少女の背中に手を添えてゆっくり起こしてから、水の注がれたコップを渡した。

 少女がそれを受け取るとゆっくりすこしずつ飲み干すのを見てエレウは一息吐いた。発見されてから意識のないままでエレウは一晩付ききりで看ていた。目が覚めたばかりでぼんやりとしているが、怪我や発熱、その他の異常も見られずホッと一安心と言ったところだ。


「ありがとうございます、ここは?」


 まだ少し擦れた声で不安そうにキョロキョロしながら目の前のエレウに尋ねる少女にエレウは優しく微笑んだ。


「ここは帝国の皇帝陛下の城です」


「……帝国?」


「はい。銀河帝国です」


 え、と傾げる少女の黒い大きな瞳にははっきりと怯えと不安が浮かんでいる。


「ど、ういうこと?」


 動揺を隠せずに泣きそうになる少女にエレウが困っていると、すぐにエレウの後ろからハナが出てきた。


「アレス……? だよね?」


 ハナに名前を呼ばれた少女は目をパチパチさせながらハナを見つめた。


「ハナ……? ハナなの!?」


 ハナはアレスを不安にさせないように微笑みながらコクコクと頷いた。アレスは少し緊張を解きながらハナを見つめて首を傾げた。


「そんなに、髪の毛短かったかしら?」


「えぇっと、色々事情がって……それより、お腹空いてない?」


 ハナの言葉にアレスもコクコクと頷いた。


「すみません、少しアレスと二人きりで話させて下さい……へーかには許可もらってるので」


 髪の毛のことより話さなければならないことはある――主に魔王のことだが。どうやってアレスがここへ来たのか。巻き込んでしまった可能性もある。時間差に関してはハナと魔王で数千年あるのだから、アレスと数か月の時間差があっても不思議ではない。などなど。


「分かりました、その間に食事の準備をしておきますね」


 エレウは微笑みながら頷くと寝室から出て行った。扉が閉まるとアレスはハナを見据えた。


「どういうことなのかしら? どうしてあの人、あんなに魔力が?」


「ん、と。人間じゃないから、だと思うよ?」


 そレに関してハナは驚くだけで全く考えたことがないに等しいので曖昧にしか答えられない。


「魔族なの?」


「さぁ……?」


 曖昧に首を傾げるハナ。彼女はエレウやセルゲンが魔族であるかどうかを深く意識したことはなかった。表面上は家に帰るから関係ない、という理由だが、無意識ではもっと根深くハナにとって都合の悪い理由がある。そして、ハナが家に帰ることにこだわる理由と関係している。

 ハナ自身そのことに気付いていない振りを今までしていたが、アレスの姿を見て更にそれを心の奥底へと押し込めた。


「それよりアレス、言っておかなくちゃならないことがあるんだけど……」


 ハナは無意識に話を逸らしてアレスに言うと、アレスの表情が緊張に強張った。


「あのね、ここってディリアじゃなくてあたしがいた世界なの」


「ハナの、世界?」


「うん、正確にはあたしがいた時代のかなり未来なんだけど」


 アレスはハナの言葉を咀嚼するように繰り返して呟いた。それから分かったと頷く。


「で、ここの一番偉い人って言うか皇帝陛下に拾ってもらったんだけどね」


「そうなの……?」


 何とも言えない表情でハナを伺うアレスの顔はやはり緊張している。


「すごく優しいんだけど、あの、魔王なの」


「……え? 魔王?」


 再び何度か呟くアレスだが、今度は意味を掴みかねているようだ。


「あたしたちが、ディリアで討伐した魔王」


 首を傾げながら復唱するアレスは黙り込んでしまった。

 意味は分かるが、分からない。と言う表情だが、次に大きな目を大きく見開きあんぐりと口を開けた。


「魔王ですって!?」


「そうなの、あの、でも、すごく優しいんだよ?」


 アレスが叫びを上げるとハナはバツの悪い感じで言い訳をするようにもごもごと言った。


「はぁ……そう。そうなのね……まぁ、元気そうだし、きっとそうなんでしょうね」


 何を言って責められるか身構えていたハナだが、意外とスンナリ受け容れたアレスにヘラっと笑顔を向けた。ここからが最も言い辛いことだ。


「それでね……アレス、へーかの初恋の人だと思われてるみたいだから」


「どういうこと?」


 眉を吊り上げただけで動揺を見せないアレスにハナは勘違いまでの流れを説明した。


「分かったわ、そこは上手くするわ……」


「ごめんなさい」


 肩を竦めながら謝るハナだが、ハナが謝らなければならないことは何一つない。勝手に勘違いをしたのは皇帝だし、そもそもハナが召喚などされなければ起こらなかった出来事だ。

 それでも居た堪れなくなったハナは謝ってしまった。


「ところでミレイユさんとファラは……?」


 落ち着いたところで気になることを尋ねたハナにアレスは首を横に振った。


「……はぐれてしまって、それきりなの」


「そっか、大変だったね……何とかしてディリアに戻る方法ってないのかな?」


 そして、ハナが一番聞きたいところはこれだった。ディリアに帰れるのなら過去に戻ることもできるのではないだろうか。そうすれば皇帝にも誰にも本当のことを言わずに帰れる。

 アレスは俯いて考えながらやはり首を横に振った。


「それは、わたしの魔力ではできないわ……ここへ来たのも事故みたいなものだし」


 憂いを帯びた悲しそうな声にハナはますます居た堪れなくなってきた。


「巻き込んでごめん……帰りたいよね? そうだ、へーかに頼んで何とかしてもらおう!?」


 ハナの提案にアレスの顔が曇った。


「それは、無理よ……召喚魔術はランダムで行われるものだから……どこの世界のどこの時代のどこに、ってできないのよ」


 ハナはあまりの居た堪れなさにアレスのこの言葉の意味を深く考えることが出来なかった。ただヘラっと笑いながらアレスを元気づけようと一生懸命になっている。


「なら、ここにいれば良いよ! へーか優しいし」


「……そうね。それしかないわね」


「失礼します、お食事をお持ちいたしました」


 そして話の区切りを見計らったようにエレウが食事を運んできて、二人は食事を始めた。




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