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銀河最弱物語  作者: 柿衛門
宮殿と陛下とハナ
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宮殿と陛下とハナ……そして


「セルゲン様、ハナさんの様子がおかしいのですが……」


「エレウも気付いたか」


 お茶会から数日後、エレウが困ったような顔でセルゲンに相談を持ちかけた。セルゲンもハナの様子がおかしいことには気付いていた。お茶会はとても楽しかったです、という報告以外聞けずに以前より注意してハナを見るようになったからだ。尤も、注意していなくてもハナが変なのはすぐに分かる。

 突然転げまわって奇声を上げたり、そうかと思うと放心状態で体育座りでボヘっとしてると思いきや赤い顔でクルクル回り出す。

 見ている分には面白く、皇帝も新しい芸かと思って楽しそうに見ているのだが、明らかに怪しい。


「ちーがーうー!」


 見ている傍からこれだ。


「……体調に異常はありませんが、脳と精神の精密検査を一度」


「だな……それともう一つ、気付いたのだが」


「何でしょう?」


「ハナさんの魔力が消えてから、例の乙女の魔力も感じられなくなったな」


「確かに、そうですね」


 以前は度々ハナの殺気が魔力となり皇帝はそれを乙女の魔力として受け取り、その都度乙女を探していた。ところが、ハナの魔力がなくなってからそれが一切なくなったのだ。

 魔力は人により当然違ってくる。全く同じ魔力を持つものはいない。クローンを作ったとしても、そこに宿る精神が違えば魔力は当然違うものとなる。そこからセルゲンは一つの可能性に辿り着いた。


 ――乙女とハナは同一人物ではないのか?


「時空間転移であろうか……」


 ハナを問い詰めて洗い浚い白状させる手もある。そしてもしハナが乙女だったら……。


「はっはっは。楽しいな、ポチ!」


「違うんですー!」


 ハナと一緒にサンルームでゴロゴロ転げまわる皇帝を遣る瀬無い気持ちで見つめるセルゲンとエレウ。




***


 その日、帝星ナウイオリンのパンデモニウム上空は分厚い雲で覆われ、紫や青く光る稲妻が走っていた。


「チャルチウィトリクエ(パンデモニウム周囲の湖)全域が嵐で覆われているそうです。本日は外にお出でになりませんよ――」


 転げまわるハナを瞳孔を細くして見つめていた皇帝が突如立ち上がった。


「どうなさいました、陛下!?」


「乙女の魔力が……!?」


 セルゲンは片眉を上げて魔力を辿った。

 確かに以前ハナから発せられていたのと同じ、全く同じ魔力を感じる。しかもかなり密度が濃い魔力だ。


「チャルチウィトリクエの南だ!」


 そう言うが否や、皇帝の姿は消えた。突然のことにハナは何事かと目を丸くしている。


「ハナさんはここにいて下さい。エレウ、頼んだぞ!」


 セルゲンもそう言い残して姿を消した。



***


 魔力を辿って皇帝がやって来たのは、パンデモニウムから二百キロメートル離れた小さな島。周囲五百メートルにも満たない島は、きちんと手入れされ青い薔薇が植えられている。その薔薇に埋もれるように人間が横たわっていた。

 その人間をそっと抱き起す皇帝の手は震えている。


「……乙女」


 血の気の失せた倒れている少女から初恋の乙女と同じ魔力が感じられる。


「確かに乙女でしょうか!? 陛下、乙女の姿を覚えておいでですか!?」


 湖面に叩きつけられる雨に負けじと声を張るセルゲン。


「ううむ、直向きな瞳に細い体……」


 魔王を殺す気でかかってきたから目も血走るだろうし、普通サイズの人間であれば、デカい皇帝から見れば大概細いだろう。それだけでは決定的とは言えない。

 だが、皇帝は少女の髪を一房掴んで呟いた。


「美しい、流れるような黒髪であった」


 実際にはパサパサでゴワゴワだったのだが、彼の思い出は全てにおいて美化されている。そしてなにより――


「この魔力こそが、乙女の証である」


 皇帝は叩きつける横殴りの暴雨から少女を守るようにそっとマントに包み、孤島を後にした。



***


 消えたときと同じように突然、ずぶ濡れで姿を現した皇帝はいつになく真面目な顔をしている。皇帝は部屋が水浸しになるのも構わず寝室へと向かった。

 

「エレウ! こちらへ来い!」


「は、はい!」


 呼ばれたエレウの後に、先ほどから変な感じがするハナもついて行った。


「……ポチ、すまんがこの娘の体を拭いてやってくれ……それからエレウ、この娘を診てくれ」


 皇帝は自分のベッドにマントで包んだ少女を大事そうに寝かせてエレウとハナに振り返った。


「は、はい!」


「御意」


 ハナは急いでタオルを持ってくるとマントを開いた。その中の人物を見たハナの眼が大きく開かれこれ以上ないほどに驚いた顔になっている。


「ポチ、早く――」


「アレス!?」


「乙女を知っておるのか!? ポチ!」


 知っているも何も……。討伐パーティーのメンバーの一人だった。

 ただ、ハナは討伐に必死で帰ることばかり頭にあったので、それほどメンバーと仲良くしていた訳ではなかった。特に後衛の魔導師二人とはそれほど話はしなかった。斥候部隊の三人に至っては顔も名前もおぼろげだ。


「それは後だ! 早く拭いてやれ!」


「は、はい……!」


 珍しく声を荒げる皇帝に、ハナは急いでアレスの体を拭き始めた。アレスの体はすっかり冷えているが息はしている。


 ――どうしてアレスがここに……?





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