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やっとここまで来たのに……
この世界に勇者として召喚され、二年の月日を経て魔王の城へ辿り着いた。
目の前の魔王を葬れば帰れるのに……
野原花17歳。
この世界の人類史上最強と、後世に語り継がれる勇者と魔王の決着は未だ着かず。
寧ろ魔王に圧され気味の勇者パーティー。
聖なる剣は折られてしまった。
「くっ! ファラ! 魔王の動きを封じて!」
ハナは魔道師ファラへ指示を出した。
「ハナ! 何をするつもりだ!?」
「転移魔法で魔王を別世界へ転送させるの!」
仲間達はハナの戦略に瞠目した。
かなり外道な方法で魔王を消そうとしている。
「そんな事をしたら、転送先の世界に迷惑が掛かるじゃないか!」
「知ったこっちゃない! この世界から消えれば良いんでしょ!」
魔王さえこの世界からいなくなればハナは日本に返してもらえる。
ここまで来て手段を選んでいる場合ではない。
ハナは呪文を唱え始めた。
魔王の足元に魔方陣が描き出されている。
魔方陣から発せられる光が魔王を飲み込み始めた。
「おのれぇっ! 勇者!」
血みどろ色の目を憎々しげに光らせてハナを睨む魔王。
真赤な血を流したような髪を揺らめかせ、ハナに向って手を翳す。
暗黒がその手に集まり、魔王が消える瞬間にそれをハナに向って放った。
***
「……うそ……うそだ……」
やさぐれながらハナは呟いた。
何か、魔王の最後の魔法によってどこかに飛ばされみたいだけど……
けど、ここは……何?
まさか、まさか!
砂丘に突き出てるのは東京タワーの天辺のようだ
もしかしてスカイツリーの天辺も見えるかもしれない。
三日三晩かけて見つけたのが東京タワーの天辺。
昼間は暑く、夜は冷える。
生き物はおろか、食料も見付けられない。
「み、水……」
魔力を振り絞って、漸くコップ一杯の水。
それを出すと半日は魔力が戻らない……
「あは、は、は……」
乾いた笑いが、乾いた喉から出てくる。
バチが当ったのかな。
他の迷惑なんか考えないで、魔王を飛ばしちゃったバチが……
「もう、だ、め……」
ハナは砂漠の真ん中でとうとう意識を失った。