私を溺愛する激重な幼なじみは、いつまで経っても年を取らない
「ユノー。ああ、僕の可愛いユノー。今日も君の亜麻色の髪は本当に綺麗だね。僕以外の誰にも触れさせたくないくらいだ。ずっと、ずっと僕のそばにいて」
ふわりとした柔らかな黒髪を揺らし、熱っぽいルビーの瞳を細めて私を見つめるのは――幼なじみのヨクヤだ。
彼は私が物心ついた頃から、文字通り私の隣にぴったりと張り付いて生きてきた。
私が他の男の子と少しでも話そうものなら、その美しいルビーの瞳からポロポロと涙をこぼし、「僕だけを見てくれないなら息ができない」と本気で倒れ込んでしまうような、恐ろしく愛情が重い少年だった。
私はといえば、幼い頃からそんな彼の執着とも呼べる溺愛に振り回されっぱなしだった。
どこへ行くにも手をつなぎ、私の好きなものは何でも貢ぎ、私が少しでも擦り傷を作ればこの世の終わりのように泣き叫ぶ。
鬱陶しいと思うこともあったけれど、私に向けられるその愛情には一片の嘘も濁りもなく、あまりにも純粋すぎた。
いつしか私自身も、ヨクヤのその重すぎる愛情の海に心地よく溺れ、彼を心から愛するようになっていた。
しかし、私たちが十六歳になる頃――私はある違和感に気づき始めた。
私は背が伸び、少女から女性らしい体つきへと少しずつ変化していった。
しかし、ヨクヤの姿は十代前半の、あの透き通るような美しい少年の姿から何一つ変わっていなかったのだ。
背丈もとうとう私に追いつかれ、柔らかな頬の輪郭も少年のあどけなさを残したままだ。
「ヨクヤ、あなた……ちっとも背が伸びないわね」
「そうかな? 僕はユノーを見上げられる今の背丈も嫌いじゃないよ。君のガーネットの瞳がよく見えるからね」
無邪気に笑う彼の手は、相変わらず私の腰をきつく、絶対に逃がさないとばかりに抱きしめていた。
その時抱いた微かな不安の正体を、私は深く考えないようにして心の奥底に押し込んだ。
彼が私を愛してくれている。
私も彼を愛している。
それだけで十分だと思っていたからだ。
私たちが完全に結ばれたのは――私が十八歳になった春の夜だった。
ヨクヤは「やっと君を、完全に僕だけのものにできる」と、熱に浮かされたような瞳で私をベッドに押し倒した。
彼からの愛情はどこまでも甘く、優しく、そして逃げ場がないほどに重かった。
私の指先から髪の毛一本に至るまで、すべてを喰い尽くすような熱烈な口づけの雨に、私はただ彼のふわりとした黒髪に指を絡め、その熱に身を委ねることしかできなかった。
――その時だった。
彼の黒髪の奥に指を滑らせた私の手が、ある感触にビクッと止まった。
生まれつき小さく、いつも豊かなふわふわの黒髪に隠れていて見えなかった彼の耳。
その先端が、人間とは違う――鋭く尖った形状をしていたのだ。
「ヨクヤ……あなたの耳……これ、は……」
私の震える声に、ヨクヤはピタリと動きを止め、深く、静かな吐息を漏らした。
「……ああ。見つかっちゃったね」
彼は少しも慌てることなく、私のガーネットの瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
そのルビーの瞳には、狂気的なほどの愛と、わずかな哀愁が混じっていた。
「エルフ、なの……?」
「そうだよ。だから僕は、もう何十年もこの姿のままだ」
――エルフ。
遥か長い寿命を持ち、人間とは生きる時間の流れが全く違う種族。
その事実が突きつける残酷な現実に、私の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「どうして……どうして言ってくれなかったの。私、あっという間に年老いてしまうわ。おばあちゃんになって、醜くなって、そして……あなたを一人置いて、先に死んでしまうのに……!」
「言えば、君は僕から離れようとしただろう? 『あなたの未来のために』なんて、残酷な優しい嘘をついて」
ヨクヤは私の涙を指ですくい取ると、自らの唇で舐めとった。
「醜くなんてならない。君がどう変わろうと、君は僕の世界でたった一人の女神だ。ユノーが年老いていくなら、僕はその増えていく皺の一つ一つに口づけをして愛を誓う。君が死ぬなら、僕は君の魂をこの胸に縛り付けて永遠に離さない」
ヨクヤの言葉は、恐ろしいほどの執着に満ちていた。
「寿命が違うから諦める? 馬鹿げているよ。君のすべてをこの腕の中に閉じ込められるなら、君が灰になる最後の瞬間まで、僕は君のそばで愛を囁き続ける……だから、お願いだ。僕を置いていかないで、ユノー」
泣きそうな顔で、まるで捨てられた子犬のように私にすがりつくヨクヤ。
エルフである彼にとって、人間の私と生きることは、確実に訪れる喪失を前提とした茨の道だ。
それでも彼は、私を愛することを選んだ――。
その重すぎる覚悟に、私はもう、彼から逃げることなどできないと悟った。
「……わかったわ。私が灰になるまで、絶対に離してあげないから」
「ああ、ユノー……僕のユノー……!」
私たちは互いの存在を確かめ合うように、夜が明けるまで深く、強く抱きしめ合った。
――それからの日々は、周囲の目から見ればひどく奇妙で、残酷なものだったかもしれない。
私が三十歳になり、四十歳になり、目元に皺が刻まれ始めても、隣を歩くヨクヤは相変わらず十代の美しい少年のままだった。
街の人々は「なぜあの美しいエルフが、年老いていく人間の女といつまでも一緒にいるのか」と不思議そうにヒソヒソと噂をした。
時折、そんな視線に耐えきれなくなり、「ヨクヤ、外を歩く時は少し距離を開けましょう」と言ったこともあった。
しかしヨクヤは、そんな周囲の目など微塵も気にする様子はなく、かえって私をきつく抱き寄せた。
「何を言っているんだい? 僕は世界中のみんなに自慢したいのに。ほら見てくれ、僕の愛するユノーが、今日もこんなに美しいって」
五十歳になり、私の亜麻色の髪に白いものが混じり始めた時、彼は私の髪を愛おしそうに梳かしながら言った。
「ああ、なんて綺麗なんだ。僕と過ごした時間が、君の髪に降り積もっているんだね。愛おしくてたまらないよ」
七十歳になり、私の腰が曲がり、すっかりおばあちゃんになってしまった時も、彼は私の皺だらけの手を両手で包み込み、ルビーの瞳をキラキラと輝かせて言った。
「ユノーのこの手は、僕のために美味しい料理を作ってくれて、僕の頭をたくさん撫でてくれた魔法の手だ。世界中のどんな宝石よりも尊いよ」
彼の言葉には、昔から一切の嘘がなかった。
私がどれほど老いさらばえようと、彼の目には、いつもあの頃と同じ、愛しい少女の姿が映っているようだった。
――いや、共に過ごした時間が長くなるほど、彼の私への執着と愛情は、静かに、そして底知れぬほど深くなっていったのだ。
そして――私がいよいよ寿命を迎え、ベッドから起き上がれなくなった日のことだった。
すっかり白髪になり、細い枯れ枝のようになってしまった私は、浅い呼吸を繰り返しながらベッドの横に座る彼を見つめた。
八十年の歳月が流れたというのに、ヨクヤは出会った頃のまま、ふわりとした黒髪と、透き通るような肌を持っていた。
「ヨクヤ……」
かすれた声で呼ぶと、彼はすぐに私の顔にすり寄り、皺だらけの頬に何度も、何度も温かい口づけを落とした。
「ここにいるよ、ユノー。僕の可愛いお姫様。今日はどこか痛むかい?」
「いいえ……痛く、ないわ……それよりも、ヨクヤ……泣いているの……?」
彼の美しいルビーの瞳から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ち、私の頬を濡らしていた。
「泣いてなんかないよ。ただ、君があまりにも愛おしくて……心がどうにかなってしまいそうなんだ」
ヨクヤは私の細い手を両手で包み込み、自分の額に強く押し当てた。
「ねぇ、ヨクヤ……ごめんなさいね。私、あなたを……一人ぼっちに、してしまうわ……」
これから何百年、何千年と途方もない時間を生きていく彼。
その永遠に近い時間の中で、私と過ごした八十年など、ほんの一瞬の瞬きに過ぎないだろう。
彼を残して逝くことが、何よりも心残りだった。
しかし、ヨクヤは静かに首を振った。
「謝らないで、ユノー。君は僕を一人になんてしない。絶対に、させないよ」
彼はふわりとした黒髪を揺らし、涙で濡れた顔を上げて私を真っ直ぐに見つめた。
その眼差しは、あの十八歳の夜と全く同じ、底知れぬほど重く――深い愛に満ちていた。
「僕はね、君のすべてをこの魂に刻み込んだんだ。君の亜麻色の髪の匂いも、ガーネットの瞳の輝きも、僕を呼ぶ優しい声も、皺の数も、君がくれた温もりも……一つ残らず、僕の中で生きている」
「ヨクヤ……」
「君の肉体が灰になっても、君の魂は僕の心臓と共にある。これから先、千の年が過ぎようと、万の年が過ぎようと、僕の隣にはいつも君がいるんだ。僕の目は、君以外の誰も見ない。僕の耳は、君の声しか聞かない。僕の愛は、永遠に君だけのものだ」
狂気とも呼べるほどの、凄まじい執着――。
けれど、その言葉が、今の私には何よりも嬉しかった。
この重すぎる愛こそが、私の人生のすべてであり、最大の幸福だったのだから。
「……ありがとう、ヨクヤ。私……あなたに愛されて、本当に、幸せだったわ……」
「僕もだよ、ユノー。君を愛せて、君に愛されて……僕は世界で一番の幸せ者だ」
私のガーネットの瞳が、少しずつ光を失っていく。
視界が白く霞み、音も遠ざかっていく中で、最後に感じたのは、ヨクヤの温かい唇と、彼が私の耳元で囁く、震えるような愛の言葉だった。
「愛しているよ、ユノー。おやすみ――また明日、僕の腕の中で目を覚ましておくれ」
その言葉を子守唄のように聞きながら、私はゆっくりと目を閉じた。
恐怖は全くなかった。
だって、私の魂はこれから先も永遠に、彼のあの温かく、激しく、重すぎる愛情の中に抱きしめられ続けるのだから――。
静かに息を引き取った私の亡骸を抱きしめ、いつまでも、いつまでも、子供のように泣きじゃくる彼の声が、夢の向こう側から聞こえた気がした。
――そして、数百年後の世界。
森の奥深くにある、小さな美しい墓標。
その前には、一人のエルフの青年が静かに座っていた。
「ユノー。今日も君の好きな花が咲いたよ。ああ、早く君に会いたいな」
彼のルビーの瞳は、永遠に一人の女性への重すぎる愛を湛えたまま――どこまでも澄み切っていた。
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