第四話 若い身体は眠らせてくれない
睡眠不足というのは本当に恐ろしい。いくら健康に気を使って食事制限したり運動したりしても、睡眠時間が確保できなければ全て無駄になります。それくらい重要な要素なんですよ、休息というのは。
ところがですよ、現在この若い肉体はなかなか眠らせてくれないのです。いや、正確には「頭が興奮状態で冴え渡っている」って表現の方が正しいかもしれません。日中はハードスケジュールで動き回り、夜は諸々のケアや連絡対応で時間を潰し、ようやく布団に入れたと思ったら……目が冴える冴える。
原因はおそらく二つあります。一つは体内時計のズレ。アイドル業界はどうしても夜型になりがちです。午後から深夜にかけての仕事が多く、帰宅が遅くなることもしばしば。そのため生物としての自然なサイクルが崩れてしまう。結果、本来ならば休息すべき時間帯に覚醒してしまうという逆転現象が起こるわけです。
もう一つは精神的なストレス。これはすでに何度か触れている通り、表層人格と内面のギャップによる葛藤です。いろんな不安や悩みが頭の中でぐるぐる回って離れない。ファンのこと、仕事のこと、未来のこと、過去のこと……考え始めると止まらない。思考の暴走ですよ。ブレーキ踏もうとしてもアクセル全開になってしまう。
特に多いのは「このままでは破綻するのではないか」という恐怖です。いつか化けの皮が剥がれてボロが出てくる。ファンに失望されて叩かれる。仕事失って路頭に迷う。最悪の場合、自殺願望まで抱く羽目になる。そういうネガティブシナリオばかり描いてしまう。
だから寝つきが悪くなるんです。羊を数えても全然効果なし。羊一匹、羊二匹……とか数えているうちに「そもそも羊って何匹まで存在するんだろう?」とかどうでもいい考察に入ってしまいます。最終的には天文学的な数字を出して自滅。「もうダメだ……寝れない」と呟きつつスマホいじる→ブルーライト浴びて更に目が覚める、という悪循環。
しかも若い肉体ゆえの特性か、朝になるとある程度回復してしまうんですよね。徹夜明けでもちゃんと起きられる。むしろ寝起きが良い。これが厄介で、周囲からは「元気そうだね!」なんて言われる始末。実際には寝不足でフラフラしているんですけど外見的には把握できない。結果、無理を重ねる要因になっている気がします。
そういえば昔読んだ医学記事に「若者は老害より多くのストレスを受けやすい」と書いてありました。理由は単純で、感受性が強いため。些細な出来事にも大きく反応してしまう。感情の起伏が激しい。その点、年齢を重ねるにつれて徐々に鈍感になっていくのでしょう。俺のようなおっさんメンタルを持つ者にとって、その激しさはある種羨ましくもあり、同時に残酷でもあります。
話を戻しますが、最近は寝る前にホットミルク飲んでリラックス音楽聴いてアロマ焚いて……といった典型的な安眠法を試しております。どれも効果薄いですが気休め程度にはなっています。たまには温かい飲み物で体温調整してみて「あぁ、多少は眠気が来たかもしれない」なんて錯覚を楽しむこともあります。プラシーボ効果でもいいんです。効けばそれでOK。
それでも完全に解決するわけではないので、どうにか根本的な解決策を見つけたいところですが、おそらく無理なんでしょうね。人間は習慣の奴隷ですから、一度身についた生活パターンを変えることは容易ではありません。特に睡眠に関しては自律神経が関わってくる分野ですので尚更難しい。
そうこうしているうちにまた夜が更けていきます。今日も相変わらず布団の中で延々と妄想大会を開催中。「明日は朝九時集合か……遠いなぁ」等と暗い呟きを漏らしながら、時計の針だけが静かに時を刻んでいく。枕元のランプだけがぼんやり灯る部屋で独り思考する時間も嫌いじゃないんですけどね、限界がありますよ。
最終手段として薬に頼るという選択肢もありますが、職業柄リスクが大きすぎるため回避しています。仮に服用したことがバレた場合の社会的制裁を考えるとゾッとします。ましてや精神安定剤だの睡眠導入剤だの使ったら「アイドルとしての資質が云々」と批判されること間違いなし。そうなったら終わりです。
だからといってアルコールに頼るのも危険だし……結局何もできないまま時間が過ぎていく。そんな堂々巡りを繰り返しているうちに、ふと気づけば窓の外が少し明るくなり始めています。東の空が薄紫に染まり、鳥のさえずりが聞こえてきます。あぁ、また朝が来た。
起床アラームが鳴る十五分前。もうすぐマネージャーからのメッセージが飛んでくる時間です。「おはようございます!今日も一日頑張りましょう!」みたいなフレンドリーな一文と共に、今日のスケジュールが送られてくるんでしょう。それを見て俺はため息をつく。
「はいはい、頑張りますよ……」
渋々返事を打ちながら身体を起こす。眠気はピークを超えてもはや麻痺状態。これが一種の強制覚醒モードなのでしょうか。若い頃特有の底力を感じます。
洗面所で顔を洗い、冷たい水で目を覚まします。鏡を見ると目の下にクマができかけていました。メイクで誤魔化せる範囲かな……とか計算しながら、今日一日乗り切るプランを立てます。
「まぁなんとかなるか」
根拠のない自信でも口にしておかないとやってられません。そう自分に言い聞かせて準備を始めます。歯磨きしつつ口角上げる訓練まで同時進行させるこのマルチタスクっぷり。我ながら逞しい限りです。
そんな感じで毎晩戦っているのですが、皆さんどうですか? 寝付きの悪さは共有できますでしょうか。それとも俺だけ特殊なケースでしょうか。いずれにせよ共感していただける方がいらっしゃれば幸いです。
さてさて、長々と書き連ねてしまいましたが本日のエッセイ(?)はここまで。第五話があるかどうかはまだ決めていませんが、とりあえず明日の仕事終わり次第検討させていただきます。お付き合いいただきありがとうございました。ではまたいつか。おやすみなさい。もう朝だけど。




