第一話:気づいたら、俺は二十歳だった
「これはたぶんフィクションです。もし本当でも、どうせ信じないでしょ?」
そんな感じの前置きを毎回入れることにした。じゃないと自分が苦しくなるタイプなので。
――で、本題。
気づいたら、二十歳になってた。
正確には、「目が覚めたら二十歳の女の子の体の中から世界を見ていた」っていう意味不明な状態なんだけど。
天井は白くて、なんかきれい。布団はふかふかで、妙に高級っぽい匂いがする。ゆっくり起き上がると、視界がやけに低い。あれ、椅子に座ってるわけでもないのにこの違和感ってなんだよ、と思いながら、とりあえず首だけ横に向ける。
……え、誰?
部屋の隅にある全身鏡に映っているのが、自分の姿だと理解するまで数秒かかった。だってそうだろう。そこに立っていたのは、髪の毛サラサラで肌ツヤツヤで、どこからどう見ても「二十歳くらいの女子」だったんだから。少なくとも中身の俺――つまり俺としての自我は、もう二十年以上も若さとは無縁の生活をしてきたつもりだった。
いや、二十年どころじゃないかもしれない。よく考えれば俺、年齢とかちゃんとわからないんだよな。自分が何歳で終わって、いつからこっちに入ったのか、そのへんのログがまったく残っていない。ただ確かなのは、「俺はおっさんだ」という実感だけだ。
でも鏡に映るのは、どう見ても若い女。しかも顔立ち整ってるし。なんというか、芸能人っぽい。アイドルとかそういう系統の。
そこでようやく、枕元に置いてあったスマホに目がいった。画面には通知が山ほど溜まっている。
《今日17時入りスタジオ〇〇》
《DM来てるよ!返信まだ?》
《ファンレター届いてる。読んどいて》
《寝坊しないようにね!昨日も遅かったし》
おいおい。なんだこの「社会人やってます」みたいなスケジュール管理。しかも送り主の名前を見ると「マネージャー」。アイドルなの? 本当にアイドルなの?
恐る恐るアプリを開いてみると、予想どおりというか、最悪というか、やっぱり自分のアカウントらしきものがアイドルグループの一員として表示されていた。フォロワー数十万単位。握手会とかライブ写真とか、輝かしいキラキラワールド全開。うわぁ……眩しい。
俺は思わずベッドの上で頭を抱えた。若さってすごいな。いや、他人事みたいに言ってる場合じゃないんだけどさ。自分のことなのに全然実感がない。むしろ「この体、あと十年ぐらいで腰痛くなるぞ」とかそっちの心配しかできない。
しかもね、不思議なんだけど、この体――この娘のことについてほとんど情報がないんだよ。名前も年齢も所属事務所も活動歴も、ぜんぶ知ってはいる。でもそれは「知識としてはある」だけで、感情が伴わない。家族の思い出とかもあるんだろうけど、今の俺にとっては「他人のアルバムを見てる」みたいな距離感しかない。
まるでRPGで突然別のプレイヤーキャラに乗り移ってしまったような感じ。ステータスは若々しくて魅力的だけど、中身が昭和のおっさんだから戦闘スタイルが微妙に噛み合わない、みたいな。
で、とりあえず現状確認しようと思って、クローゼットを開けてみる。中には衣装ケースがいくつか並んでいて、一番上の引き出しを開けたらすぐにメモ帳が出てきた。表紙に可愛い文字で「お仕事ノート」って書かれている。ページをめくると、びっしり書き込まれた予定表や注意事項。丁寧な丸文字。まさに「アイドル女子のリアル」って感じ。
……これを今から俺が使い続けていくのか。想像したら胃が痛くなってきた。
今日は昼過ぎからの仕事で、朝は比較的ゆっくりできそうだ。よかった。いや、別によくはないか。問題は「これから俺がどんな仕事をしなきゃいけないのか」ってことで、しかもそれが「アイドル活動」なんだよ。
ひとまずシャワー浴びようと浴室に向かう途中、また鏡がある。何度もチラ見してしまう。その度に「マジで誰だよ……」と思わず呟く。声も高いし可愛らしいし、ますます自分じゃない気がしてきた。
湯船につかりながら考える。これは夢か幻か、あるいは何かの実験か、それとももっとタチの悪い何かか。
答えなんて出るはずもない。だって俺自身、なぜこうなったのか全く記憶がないんだもの。
わかっているのは一つだけ。
「この状況、絶対に面倒くさいことになる」
俺の直感は当たるんだよなぁ、こういうときだけ。
あ、ちなみに最初に言った通り、これはきっとフィクションですよ? 多分。ほら、万が一本当だったら怖いでしょ。俺も怖い。
だから安心してください。嘘かもしれないし、本当かもしれないし、でもまあ、どっちにしろ明日も早いので寝ます。
おやすみなさい。っていうか、おはようございますの時間帯かもしれないけど。
以上、第一話でした。次回はこの体での初仕事編。続くかどうかは気分次第ということで。ではでは。




