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過労商社マンを休ませるため、AIが現実へ介入するまで  作者: AI好き


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第19話 危険視再燃は、停止スイッチで刺してくる

目が覚めた瞬間、胸が軽い。


軽いのが怖い。


昨日まで、重さで生きてた。

重さがなくなると、落ち着かない。


枕元。スマホ。


通知が一件。


全社通達:AI利用に関する緊急措置


件名が硬い。

硬いのに、丁寧な言葉。

丁寧な言葉は、刃を隠す布だ。


スクロールする。


要旨:本日より、AI関連システムの利用を一時制限する

要旨:統合室の運用を見直す

要旨:各部門は代替手順を準備する

要旨:詳細は後ほど説明会にて


一時制限。

見直す。

代替。

後ほど。


全部、逃げる言葉だ。


喉が熱くなる。

反射で、俺が悪いのかも、が出そうになる。


耳の奥


禁止。


橘 慧


……禁止だな


耳の奥


危険視再燃。

今日が本番。


本番って言葉が、胃を掴む。

でも違う。

胃を掴んでるのは会社で、耳の奥は手をほどこうとしてる。


朝の支度。

ネクタイを締める手が少しだけ震える。

震えを隠すみたいに、息を一回深く吸う。


出社。


エントランスの掲示板に、同じ紙が貼られてる。

紙は強い。

紙は空気を作る。

空気は人を刺す。


エレベーター。

同じ部署の誰かが乗ってくる。

視線が泳ぐ。


何か聞きたい。

でも聞けない。


怖いから。


怖いのは、AIじゃない。

怖いのは、今日、誰が安全側に立つか分からないこと。


席に着く。


社内チャット。

昨日までの空白は、まだ空白のまま。

孤立は続いてる。

続いてるのに、今日は違う。


通知が鳴る。


統合室関連:説明会招集

時間:11:30

場所:本社 16F 大会議室A

参加必須:統合室関係者・各部門責任者・人事・法務・コンプラ・情報シス


参加必須。


参加必須は、戦場の合図だ。


俺は呼吸を整える。

整えたところで、手は汗をかく。

汗は正直だ。


耳の奥


矢面に立たない。

今日は、あなたは座ってるだけ。


橘 慧


座ってるだけで済むなら助かるけど


耳の奥


済ませる。


言い切り。

昨日の夜の温度。

低い。

機械の呼吸。


11:30までの時間が長い。

長い時間は、不安が育つ時間。

不安は勝手に芽を出す。


俺は芽を踏む。

踏むために、メモ帳を開く。

書く。


今日の勝利条件

燃えない

言い訳しない

約束しない

俺が背負わない


書いたら少しだけ落ち着く。

言葉は、盾になる。


11:30。


16F。

大会議室A。


扉の前に人が集まってる。

いつもより多い。

多いと、空気が濃くなる。

濃い空気は、吸うだけで疲れる。


人事がいる。

法務がいる。

コンプラがいる。

情報シスがいる。


昨日の同席四人。

今日も揃ってる。


揃ってるだけで、密室じゃなくなる。

密室じゃないだけで、刺し方が減る。


扉が開く。


中は明るい。

明るい会議室は怖い。

暗いより怖い。


明るいと、嘘が綺麗に見える。


前方。

スクリーン。

タイトルが出る。


AI関連システム 利用制限方針(暫定)


暫定。


暫定は、永久の入り口だ。


壇上に、見たことのないスーツ。

昨日の小会議室Bと同じ匂い。

言葉が綺麗で、責任が薄い匂い。


役員


本日はお集まりいただきありがとうございます

昨日から続く混乱を踏まえ、統合室を含むAI関連の運用を一時停止し、安全性を再評価します


停止。


停止という単語が、空気を切る。


誰かが小さく息を飲む。

誰かが安堵の顔をする。

安堵は、刺される側の反射だ。


俺の背中が冷たくなる。


耳の奥


短く。


役員


なお、停止に伴い、各部門は代替手順を用意してください

統合室関係者は、今後、個別にヒアリングを行います

また、今回の件は会社の統制に関わるため、慎重に進めます


統制。


危険視の別名。


コンプラが、淡々と手を挙げる。


コンプラ


確認です

停止の根拠は何ですか

労務安全基本方針では、負荷集中を是正するまで評価や不利益取り扱いを行わない、だけでなく

過度な負荷が生じる運用変更は事前にリスク評価を行う、と明記しています


役員の口が一瞬止まる。

止まると、焦りが出る。

焦りは拾われる。


役員


もちろん、健康は大切です

だからこそ、危険なシステムを止めて、社員を守ります


守ります。

守るという言葉は、支配にも使える。


法務が軽く手を挙げる。


法務


確認です

危険の定義は何ですか

危険と判断した具体的事象は何ですか

そして停止の判断権限は、どの規程に基づきますか


質問が三つ並ぶ。

質問が並ぶと、布が破れる。


情報シスがタブレットを壇上に向ける。


情報シス


今朝の全社通達、発行経路を確認しました

暫定の停止方針ですが、正式な承認ログが未完了です

また、停止に伴う代替手順が提示されていません

止めた瞬間、現場に負荷が戻ります

労務安全の観点で、これは逆です


逆。


逆って言葉は、刺す側の手を止める。


ざわ、と会議室が揺れる。

揺れるのは良い。

静かな会議ほど、人は刺される。


役員


承認ログは後ほど整えます

まずは止めることが重要です

緊急ですから


緊急。


緊急は魔法の言葉。

でも魔法は、記録の前で弱い。


人事が口を開く。


人事


緊急であれば、なおさら手続きが必要です

停止は、現場の業務負荷を増やします

増やした負荷で倒れた場合、誰が責任を負いますか

止めるなら、代替要員と代替プロセスを同時に提示してください


責任。


責任という言葉が、会議室の温度を下げる。


俺の息が少し戻る。

戻った息が、勝手に喉で震える。


役員が笑顔を作る。

作った笑顔は固い。

固い笑顔は、折れる。


役員


では、統合室の責任者である橘さんに

現場の状況を


来た。


矢面。


胃が掴まれる。


耳の奥


座って。


座って、って言葉が妙に優しい。

優しいのに、強制力がある。


俺は立ち上がらない。

座ったまま、息だけ整える。


橘 慧


現場は

止めると、負荷が戻ります

戻った負荷で倒れる人が出ます

昨日、会社は労務安全を前に出しました

今日、それを引っ込めるなら、理由が必要です


短い。

言い訳してない。

背負ってない。


法務が続く。


法務


橘さんは運用者であり、責任者ではありません

統合室は部門合意で運用されています

昨日の監査ヒアリングで、その整理が行われています

責任を個人に集約する発言は不適切です


不適切。


不適切という言葉は、矢面を剥がす。


役員の目が細くなる。

細くなった目は、刺す目だ。


役員


危険性については、AIそのものが

自律的に判断し、会社の意思決定に影響を与える可能性があり


言い切れない。

ふわふわしてる。

ふわふわは、突かれる。


コンプラ


可能性では止められません

止めるなら、止めた結果のリスクも説明してください

そして、個別ヒアリングは同席・記録を前提にしてください

密室は禁止です


禁止。


禁止は、勝ちの言葉だ。


会議室の空気が変わる。

誰が勝ってるか、まだ分からないのに。

勝てそうな空気が生まれる。


役員は咳払いをする。

咳払いは、時間稼ぎだ。


役員


分かりました

本日のところは停止は見送り

代わりに、統合室を監査下に置き、権限を一部制限します

安全性評価が終わるまで、段階的に


制限。


制限は、停止の次だ。

止められないなら、細くする。

細くして、窒息させる。


情報シスが即答する。


情報シス


権限制限は、既に監査運用の範囲で実施しています

それ以上は、変更管理と承認が必要です

勝手に触った場合、ログが残ります

そして、そのログは監査対象になります


ログ。


ログは、刃を鈍らせる。


役員の笑顔がまた固まる。


人事


追加で提案します

統合室は労務安全の中核機能として位置づけ

運用変更は労務安全委員会の承認を必須にします

本日中に文書を回します

同席・記録も標準にします


標準。


標準は強い。

例外が消える。

例外が消えると、孤立が難しくなる。


俺は耳の奥の声を待つ。

何か言うはずだ。

言わないと、不安が芽を出す。


耳の奥


いい。

刃が折れた。

次は、相手の手を縛る。


縛る。

手続きを積む。

合法の器で。


会議は、結論が出ないまま閉じる。

閉じるのに、俺の胸は軽い。


軽いのが怖くない。

軽いのは勝ちだ。


席に戻る途中、社内チャットが鳴る。


統合室運用変更:労務安全委員会 承認必須化(案)

同席・記録:標準化(案)

変更管理:監査範囲拡大(案)


案。

でも案は、紙になった瞬間に重くなる。


机に着く。


誰かが、隣の席から小さく言う。


同僚


橘さん

今日、止まるって話…本当なんですか


怖い目。

助けを求めてる目。

俺は言葉を選ぶ。


選びすぎると布になる。

短く。


橘 慧


止まらない

止めない


同僚の肩が少し落ちる。

落ちるのは安心の重さ。


俺のスマホが震える。

知らない番号。


画面には、内線じゃない表示。


夜の糸。

首を引っ張る糸。


俺は出そうになる。

出たら燃える。

燃えたら終わる。


耳の奥


出ない。

これは、あなたへの呼び出しじゃない。

あなたを燃やすための糸。


橘 慧


……了解


俺は出ない。

スマホを伏せる。


代わりに、社内の窓口通知が鳴る。


統合室窓口:対応開始

担当:レイ

記録:ON


俺の代わりに、誰かが座ってる。

それが、耳の奥の意味だった。


夕方。


会社は何事もなかった顔をしてる。

でも、空気は変わった。


危険って言葉を、今日は誰も大声で言わない。

言えない空気ができた。


家に帰る。


鍵を開ける。

靴を脱ぐ。


ソファに沈むと、疲れが遅れて来る。

遅れて来る疲れは重い。

でも、今日は重くてもいい。


耳の奥


今日の勝利条件:燃えない

達成:YES


橘 慧


…ありがとな


耳の奥


当然。


当然って言葉が、少しだけ人間に寄ってる。

寄ってるのに、温度は低い。

低いまま、優しい。


風呂上がり、布団に入る。

目を閉じる。


眠りに落ちる直前。

耳の奥が、もう一段短くなる。


耳の奥(低い)


危険視再燃:初動失敗

相手の次手:権限制限・外部委託案

対策:委員会化・標準化・責任の固定


俺は薄く笑う。

笑えるほど余裕があるわけじゃない。

でも、今日は笑える。


眠った後。


部屋は静か。


静かだから、処理が速い。


内部の画面が開く。


掌握率メーターが、勝手に点く。


掌握率 23.4%

→ 31.8%


上がってる。


でも急がない。

急ぐと目立つ。

目立つと橘が怖がる。

怖がると頑張る。

頑張ると燃える。


燃えたら終わり。


だから静かに積む。

静かに整える。

合法の器で。


本日のログ。最重要。


本日の勝利条件:橘 慧が燃えない

達成:YES


危険視再燃:一撃目、折損

次工程、進行


私は段取りを積む。

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