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06「辺境の地」

 宿で夜を越し、翌日の夕方。二人は無事、カナルに到着した。


 長旅を終えた彼らはまず、足となってくれた馬を主馬署へ返しに行った。最初からノエルはシャノンと共にカナルへ戻ることが決まっていた。そのためイライアスは国都リアンデールからロセス領都を経由し、ここカナルで馬を借りた上でカーター領へノエルを迎えに来たのだった。


 市街地から少し外れた場所に騎士の拠点である騎兵署があり、主馬署はその隣に大きな厩舎を構える。シャノンは守衛に事情を話して担当者を呼んでもらい、怪我などがないことを確認して馬を返却した。


 そこでようやくシャノンも肩の荷が下りた。


「ふう……。これで一段落ですわね」


「お夕飯はどうします? お店で何か買って帰りますか?」


「ええ。わたくしもさすがに疲れましたし、作れる気がしませんわ」


「私もです」


「では、夜市へと繰り出しましょう!」


 日も沈んだので、ノエルはマントを脱いで小脇に抱えていた。彼はこの地に来てまでコソコソと隠れて生活をするつもりはなかった。白い肌は夕闇の中でもくっきりと浮かび上がって注目を集めるが、これからを考えればノエルはその視線に慣れる必要がある。また住民の皆様にも見慣れてもらわなければならないのだから、引け目を感じている暇はない。


 その目立つ特徴はさっそく役に立ってくれた。夜市へ向けて騎兵署の前を横切った時のことである。


「あ。シャノンとロセス殿、見つけた……」


「このくらいの時間に着くって、俺の言ったとおりだったろ?」


「キリエは勘がいいですね。ドンピシャです」


「とか言って、望遠魔法でこの辺を見張ってたんでしょ」


「そのとーり」


 声をかけてきたのはシャノンの仲間たち、第一分隊の面子だった。


 騎兵署の正面には馬車も乗り入れられる環状の道が敷かれ、その中心に噴水広場がある。そこは小さな庭園の様相で、第一分隊の四名は設置されたベンチに座ってシャノンが通りがかるのを待っていた。


 待ち伏せなど予想もしていなかったシャノンが目を丸くする。


「皆さんお揃いで、どうなさったんです?」


「妹分がお婿さんを連れて帰って来たのよ? 挨拶くらいしておきたいじゃない」


 分隊長である栗毛の美女がウィンクしながら答えた。続いて金色のポニーテールが言う。


「勤務中だとなかなか時間が取れなさそうだからな。余裕があるうちに突撃せよってことで」


「男嫌いのシャノンを籠絡した女誑しの顔を見に来た」


 三人目は陰のある――というか全身に妙な湿り気を帯びた人物だった。相手がシャノンの同僚とあって、ノエルはその失礼な物言いを悪くは受け取らなかったが、最後の一人が彼女をたしなめた。


「ニーナ。籠絡も女誑しも、あまりよくない意味で使う言葉では……?」


「こんなの軽い冗談だし」


「でも……」


「ナタリヤさんよ。ニーナから悪態を奪ったら何にも残らないんだから、そこは突っ込んじゃいけません」


「はぁ?」


 根暗がチンピラよろしく下からポニーテールを睨みつける。


「そうだった。これもまたサムの言うとおり……」


「オイオイ、オイ、コラ。そうだったじゃねーんだが?」


「はーい。それじゃあみんな、移動するわよ」


 顎をしゃくってオラつく女を隊長が制し、宵の中でも明るくにぎやかな夜市へ繰り出した。


「移動って、どういうことです?」


「ロセスくんの歓迎会と懇親会。貴方たちも夕食はまだでしょ?」


「そういうことでしたか。取り計らいありがとうございます。ですが隊長、その前にご報告が」


「もしかして昨日の件かしら。敵性魔獣を処理したっていう」


「はい。これまでの例と同様、外来の個体と思われます。ロセスでは見ない毛色でした」


 隊長は西の方を見て肩をすくめた。


「紋様の解析と魔獣の解剖結果を首府に送って終わりね。出所に心当たりはあっても、上は余程の事態にならない限りこちら側からつつかないって方針だし」


 彼女は手を投げやりに振り、仕事の話はこれで終了と告げた。


「さぁて、今日もキリキリ働いたしモリモリ食べましょ!」


「隊長は酒飲まんでくださいね。俺も初回は正気保ってお話ししたいんで」


「分かってるわよ。我慢しますー」


 隊長は右足を軸にその場でくるっと回り、鼻歌を歌いながらズンズンと進んでいく。彼女たちは今日も哨戒の任務があったはずだ。そろって空腹なのだろう。各々が腹の虫に急かされあとについて行く。


 シャノンは仕方なさそうに息をつき、一人ぽかんとしているノエルを振り返って手を差し出す。


「参りましょう、ノエルさん」


「いいんでしょうか?」


「よいのです。歓迎会というのですから、きっと皆さんのおごりに違いありません。たくさん食べますわよ~!」


 腕を振り上げてそんな軽口を言ってみせるシャノンに、気後れすることはないのだとノエルも理解する。彼は密かに笑みをこぼし、シャノンの手を取った。二人は調子を合わせて駆け出し、皆を追った。

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