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41「連邦結束記念日」

 カナル騎兵署が襲撃された事件の顛末はこうだ。


 まず、レイフレールの自白は真実であったと認められた。残党が潜んでいないかと数日捜索を行ったが、他に仲間がいた痕跡は見つからなかった。供述に嘘はないと判断されたあと、拉致犯はその全員が捕虜収容施設へと移された。


 彼らの現状だが、それぞれ負った怪我の治療を受けている最中だ。騎兵署を爆破した子供は頭部から左上半身を熱で焼かれたものの、騒ぎの中でも迅速に手当を受けたおかげで一命は取り留めた。三八は指などを欠損し、足にも不自由が残るだろうが、話もできる状態で命に別状はない。シャノンに軽く燃やされた七一は予想通り軽傷で済んだ。一番の重傷者はやはり四〇で、意識は戻ったものの失血がひどかったため、体の機能に何らかの不具合が残る可能性が高い。


 ちなみにレイフレールは袈裟切りの傷があるほか、複数箇所を骨折していた。見た目は悲惨なことになったが損傷自体は単純で、大人しく寝たきりになっていれば回復にそれほど手間はかからない。二八、三八、四〇に比べれば軽傷の部類である。


 レイフレールからは拉致計画の全貌も聞き出した。彼女は子供を連れ去って洗脳し、身分を偽造してノアリズへ送り込み、次の拉致の手引きなり諜報活動を担わせようと画策したのだった。レイフレールはナタリヤの脱走・亡命を許した過去がある。今回の計画は何年もしつこく嘆願して手に入れた家名再興のチャンスでもあった。もっとも、成果は惨憺たるもので、レイフレールの没落は免れない。現在は身柄の扱いをクィンと交渉中だ。


 また、この騒動は連邦全土に知れ渡り、険しい山地の国境も直に監視せよとの声が高まった。その要望は本日、連邦結束の記念日にあわせて開催された臨時合議で多くの賛同を得た。望遠魔法による国境監視の強化以外にも、カナルの長城と同様の防壁を山の中腹に設ける案が可決。これまでは過酷な地形と天候の厳しさに頼ってきた国境封鎖であるが、今後はクィンと接する全域において建造物で遮断する運びとなった。


 合議が終了すると、夜は結束記念のパーティーである。各地の頭領ほか様々な分野の有力者が一堂に会する中、エリク・カーターはトーマス・ロセスを探していた。彼を見つけることは容易い。多様な色がひしめく頭髪の海において、大男で恰幅のいいその人は一人だけ波間から顔が見える。エリクにしても背は高い方なので、少し首を伸ばして辺りを見渡せば、目的の人物はすぐ目に付いた。


 エリクは力強く一歩を踏み出し、ずんずんと目標に迫る。トーマスには誰よりも先に挨拶をしなければならない。綿のごとくフワフワと広がる赤毛は目前だ。髪を撫でつけネクタイを正しつつ、給仕のトレーから飲み物を取り、満を持してエリクが声をかける。


「お久しぶりです、ロセス殿」


「これはこれは、カーター殿ではありませんか。ご無沙汰しております」


「この度は我が息子たちをクィンの魔の手から救っていただき、感謝申し上げます。ご息女シャノン様の活躍はカーターの港にも届いておりますぞ。いやはや、さすがは辺境の騎士ですな!」


 本人は一切の他意なく謝意のみを伝えたつもりだが、どうにも皮肉めいて聞こえてしまう。これはもう、ある種の才能かもしれない。


 しかし、トーマスは眉尻を下げて素直に喜びを表した。


「それがですね。当人に話を聞いてみれば、娘はあとから駆けつけて賊を取り押さえただけとのこと。機転を利かせたノエルくんが拉致犯らを追いかけ、果敢に挑みかかり逃亡をくい止めたそうなのです」


「アレがですか? ハハハ! 貴殿のご息女はお優しい方でらっしゃる。不出来な婿にも花を持たせるとは」


 これには温厚なトーマスも目尻をぴくりとさせた。


「ご謙遜を。ノエルくんは実に立派な男ですよ。彼のような逸材をロセスに迎えられたこと、私も誇らしく思っております」


 (フィオナ)が一時的にこの場を離れていたのは幸運だった。いたとなればエリクに掴みかかるか、飲み物を顔面に浴びせたかもしれない。


 悔しい気持ちを押さえつつ愛想笑いで凌いでいると、フィオナが人を伴って戻ってきた。


「貴方、やはりエスターは欠席だそうよ。あの人の社交性はもう矯正しようがないわね」


「申し訳ありません、ロセス夫人」


 フィオナに連れられてきた女が瞼を伏せて謝罪する。


「ほんの一瞬でもいいから顔を見せたらどうかと説得したのですが……」


「貴方が謝る必要はなくてよ。というわけで、代わりにエスターのお弟子さんを捕まえてきたわ」


「代わりって、キミなぁ……」


「いえ、それが夫人のおっしゃるとおりでして。こちらからお声掛けした次第なのです」


 女は魔法総合研究所に所属しながら、国都学院でも教鞭を執る新進気鋭の若手研究員だった。


「我らが師の秘蔵っ子、ノエルくんが偸盗(ちゅうとう)の輩から子供たちを守ったと聞き、是非お話をとついて参りました」


「おお! ノエルくんの評判は国都(こちら)まで及んでいましたか。これはカーター殿も鼻高々ですな!」


 トーマスも義息子の評価に意気揚々である。ここで注釈を一つ、トーマスはエリクを見返してやりたくてこんな言い方をしたのではない。裏表なく、本心から、素で、ノエルの名誉をエリクと分かち合いたかった。


 ところが、トーマスが振り向いた先でエリクは鼻白んでいた。これはマズいと思ったトーマスはすかさず話題を変える。


「さらに双子のご子息ご息女も学院で着実に成績を重ねているそうで。我が息子エドワードもよきライバルを得たと言っておりました」


「……アレンはカーターの頭領となる男ですからな、それはまあ当然のことです。シルビアも魔法など学んで結果を出しているようだが――」


「ええ!」


 シルビアの名前が出たところで、イライアスの弟子が待ってましたとばかりに食いついた。


「ノエルくんの妹君とあって私ども魔総研でも注目はしていましたが、彼女はなかなかに筋がいい! これからの成長が実に楽しみな生徒さんです!」


「おや、ならば残念ですな」


「え? 残念とは、何が……?」


「シルビアは折を見てカーターに呼び戻すつもりなのですよ。最初は女に学などと思ったものですが、将来アレンの助けとなるなら悪くはないと国都に送り出したわけですから」


「ンン゛?」


 ドスの利いた声で不快を露わにしたのはフィオナだった。

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