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28「異国の旅人」

 ノアリズ統領連邦において、北部の領土は二つの国と接する。境は山だが西部の山脈ひしめく地形とは異なり、高まりを一つ超えた先がすぐ異国の地となる。人が行き交う道は多くが渓谷に沿って通され、北部の西側に位置するミルズ領は左右に崖が迫る谷間に検問所を設けていた。


 内陸の隣国システルからの入国者を検査するその場所に、五人の旅行人がやってきた。馬に乗る女が一人と、連れの侍女が二人、年端も行かない少年が一人、そして荷物持ち兼護衛らしき青年が一人だ。


 婦人が馬から下りる。彼女はゆったりとウェーブを描くたおやかな黒髪が特徴で、つば広の派手な帽子を被っていた。灰青色の瞳を持ち、紅を引いた唇は乳白色の肌から少し浮いて見えた。衣服は細部に至るまで手を尽くした一等品である。


 検査官が女に尋ねる。


「ノアリズにはどんな目的で?」


「カンコウです。リアンデールではチミャクを使って街を明るくイロドッていると聞きましたもので。それを見に来たのです」


「ちみゃく……?」


「失礼、こちらの言葉を忘れました。ダイチの下を流れる、魔法のゲンリュウ。のことです」


「ああ、霊力ですね。ノアリズでは人や動物が持つ魔力と区別して、大地を流れる魔力を霊力と呼ぶんですよ」


「レーリョク。覚えました」


 彼女は片言ながらノアリズの言葉を話した。連れの四人は言葉が分からないのか、口を閉ざしている。


 女の顔つきは柔和で、微笑む姿は貴婦人といったふうだった。しかし化粧のせいか、気が強い印象を与える。右手のステッキには獅子を模した紋章が施され、それはシステルの有力者が好むモチーフであった。


 検査官は提出された書類や荷物を確かめ、問題がないと判断する。


「ようこそ、ノアリズ統領連邦へ。どうぞよい旅を」


「ありがとう」


 婦人は小さく会釈して静々と検問所を出た。続いて馬を引く侍女たちと子供、青年が続く。


 一行は建物を出たところの広場で立ち止まった。


 婦人が辺りを見回して鼻をフンと鳴らす。


『まったく、この国はいい気なものダな』


 システルの言葉だが、その発音はたどたどしい。彼女は検問所を振り返って、


『お前たチ。さきほど行き先をリアンデールと伝エた。しばらくは東へ向かう』


「ツェヅ、スー」


『……まったく』


 返事をした子供の頭を婦人がステッキで殴った。彼女は少年の顎を力任せに掴み、愛想の良かった顔を険しくする。


『本国の言葉は使うなと言ったろう。お前ときたら本当に覚えの悪い奴だ。次に下手を打ったらその目に魔石を埋めてやるからな。覚えておけ』


 少年は凍り付き、頭の代わりに目を左右に振った。婦人は彼を解放したものの、ステッキの先を頬に添えて軽く叩く。念を押すように睨みつけ、子供の瞳に畏怖が浮かんだのを見て目を離した。


『さて。東、東、東! 無駄な回り道にはなルが、焦らず行こうデはないか。ハッハッハ』


 侍女が引いていた馬に颯爽と乗り、彼女はもう一方の侍女に靴底の土を払わせる。婦人は高いところから下々を見下ろし、赤い唇をご機嫌につり上げた。

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