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迎えに来た夜

 夜。


 光の一族の屋敷に、不穏な気配が忍び寄る。


 警備の魔術結界が、音もなく歪んだ。

 侵入を告げる警鐘は、鳴らない。


 ただ、影だけが進む。


 屋根裏の部屋で、フェリアは浅い眠りに落ちていた。

 空腹と疲労で、意識が沈んだその時――


 カチャリ。


 確かに、鍵の外れる音がした。


「……?」


 扉が、静かに開く。


 逆光の中に立つ影を見て、フェリアは息をのんだ。


 灯りを吸い込むような、深い存在感。

 見間違えるはずがない。


「……ラ、ヴィエル様……?」


「起こしてしまいましたね」


 彼はそう言って、ゆっくりと部屋に入ってきた。


「迎えに来ました」


 それだけだった。

 大げさな言葉も、怒声もない。


 けれど、その一言で、フェリアの胸がいっぱいになる。


「……どうして……」


「理由が必要ですか?」


 ラヴィエルは膝をつき、視線を合わせた。


「あなたが来るだろうであったと満月の前に、消されそうになっていた。それだけで、十分です」


 フェリアの目から、涙が溢れた。


「……私、釣り合わないって……」


「関係ありません」


 即答だった。


「等級も、血統も。私が選んだという事実だけが、すべてです」


 彼はそっと手を差し出す。


「行きましょう、フェリア。今度は、閉じ込めさせません」


 震える手で、その手を取った瞬間。


 フェリアは初めて――

 未来が、少しだけ温かくなるのを感じた。


 その背後で、闇は静かに屋敷を包み込んでいた。


 もう、戻る場所ではないと告げるように。


 闇に包まれた屋敷を抜けると、夜風が頬を撫でた。

 フェリアは思わず身をすくめる。


 だが、次の瞬間。


 ラヴィエルの外套が、迷いなく彼女を包み込んだ。


「……冷えます」


 それだけ言って、彼はフェリアを自分の方へ引き寄せ、抱えた。

 考える暇もなかった。


「あ……」


「大丈夫です。落ちません」


 その声は低く、落ち着いていた。


 闇が足元で揺らぎ、次の瞬間、景色が切り替わった。


 空気が変わる。

 冷たさが消え、代わりに柔らかな光が満ちていく。


 そこは、白と淡金の光が折り重なる庭園だった。


 夜であるはずなのに、闇は一切ない。

 地面に咲く花々が、淡く、呼吸するように光を放っている。


「……ここは……」


「光の庭園です」


 ラヴィエルは、当たり前のように答えた。


「あの家に戻りたいのですか?」


 フェリアは、はっとして首を振った。


「……いいえ」


 本音だった。


 屋根裏の暗さも、閉じ込められた部屋も、ここでは遠い記憶のように感じる。


 ラヴィエルは、少しだけ安堵したように息を吐いた。


「なら、問題ありません」


 そう言って、彼は再び歩き出した。


 白い長椅子の上に座らせると、ラヴィエルは少し間を空けて隣りに座った。


「もし、あなたが許すなら、私はあなたを自分の屋敷で守りたいのです」


 フェリアは、しばらく黙っていたが――やがて、小さく息を吸った。


「……どうして、そこまで……?」


 視線を落としたまま、問いかける。


「どうして……わたしなんですか」


 ラヴィエルは、すぐには答えなかった。

 夜の庭園の光が、彼の横顔を淡く照らす。


 やがて、静かに。


「……愛しているからです」


 あまりにも簡潔な答えだった。


「……え……?」


 かすれた声が、夜の庭園に溶ける。


 理解が、追いついていない。


 ラヴィエルは、視線を逸らさずに続けた。


「重い言葉だということはわかっています。ですが、他の理由を付け足すつもりはありません」


 淡々としているのに、揺るがない。


「私は、一度そうだと決めたものを、曖昧にはしません。あなたが釣り合わないと言われるなら、その基準ごと変えればいいのです」


 フェリアの胸が、ぎゅっと締め付けられる。


「……そんな……」


 否定でも、肯定でもない。

 ただ、溢れそうな感情が、言葉にならなかった。


「怖いですか?」


 ラヴィエルの問いは、責めるものではない。


「確かにそうですよね。会って間もない人にこんな事言われたら」


 ラヴィエルはフェリアをアメリオラたちから守った勢いはなく、叱られた大型犬のようにしゅんとしてた。


「いえ、そういうことではありません……」


 フェリアは慌てて言った。


「ただ、少しだけ考えさせてください……」


 絞り出すように言うと、ラヴィエルは驚いて、そして微かに目を細めた。


「ええ」


 その答えは、驚くほど穏やかだった。


「時間はいくらでも差し上げます」

「ただ、忘れないでください。私は、あなたを守りたいと思っている。それだけは事実です」


 フェリアは、うまく返事ができなかった。


「……ありがとうございます」


 そう言うのが精一杯だった。


 ラヴィエルは、わずかに首を振る。


「礼を言われることではありません。私が、そうしたいだけです」


 フェリアは、うつむいた。

 心臓の音が、やけにうるさかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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