白い花弁の手紙
フェリアは屋根裏の自分の部屋で、ベットに横たわっていた。手にはラヴィエルからもらったハンカチを握っていた。
急に舞踏会で泣いたこと、しかも初対面の人の前やらかしてしまったこと思い出して、羞恥で顔を赤くした。
ぐぅ~っとお腹がなった音がし、フェリアは慌ててお腹を抑えた。
彼女はもう二日間何も食べていなかった。
舞踏会が終わって家についたあと、案の定、アメリオラは部屋で暴れていた。
公共な場であんなふうに恥をかいたことがないからだろう。
アメリオラはフェリアが一生買うこともできないであろうきれいな花瓶を、大理石で作られた精巧な彫刻を、可愛らしいティーセットを、それらを手当たり次第投げていた。
割れた音と狂ったような叫び声が屋敷中に響き渡った。両親は必死に彼女をなだめた。
フェリアはただただ、理性の欠片もない、獣みたいに暴れているアメリオラを見た。
義母はツカツカとフェリアに向かい、バチン、と頬を打った。
フェリアはその勢いで床に倒れ込んだ。実の父親も倒れたフェリアを冷たい目でちらりと見て、何も反応しなかった。
「このあばずれがっ!」
義母は怒鳴った。
「アメリオラが恥をかかされているのに、助けもしないなんて」
フェリアの髪の毛を掴んで、また頬を打った。
髪の毛を掴む力が強すぎて、ブチブチと嫌な音がした。
「ラステルのくせに、闇の一族の次期ヴェリスとお話までもして」
アメリオラが父親の腕の中で泣きながら言った。
「ほんっとにこの上なく図々しいわ、ラステルのくせに」
義母は慌ててアメリオラを抱きしめ、頭を撫でた。
「可哀想なアメリオラ、母がしっかりとあれをしつけておくから、大丈夫よ」
そして近くにいたメイドに命じた。
「あれを部屋につれていきなさい。わたしがいいと言うまでご飯も与えることも禁止よ」
そして、フェリアはメイドに引きづられながら、自分の部屋に閉じ込められた。
お腹はすくけど、それはどうでも良かった。閉じ込められることによって家族に出会わなくて済むから。
だけど、平和の時間は短かった。
バーンッと、壊れそうな勢いで扉が開いた。
アメリオラが怒鳴り込んできた――わけではなかった。
そこに立っていたのは、屋敷付きの老執事だった。この屋敷の中で唯一、フェリアのことをいじめることがない人だ。
普段は穏やかで淡々としているはずの彼の顔が、今は妙に緊張でこわばっていた。
「フェリアお嬢様。至急お伝えせねばならぬことがございます」
フェリアは急いでベッドから身を起こした。胸の奥がざわついた。
自分に“伝えるべきこと”なんて、この家にはほとんど無いはずだ。
執事は黒の封蝋を押された厚い封筒を両手で差し出した。
それは銀色で色付けされた――“闇の一族”の紋章だった。
フェリアは息をのむ。
「な、なんで...私に?」
「差出人は闇の一族の次期ヴェリス、ラヴィエル様でございます。宛名も...間違いなくフェリア様のお名前が...」
ラヴィエル。
舞踏会で、自分にハンカチをくれた、あの人。
手が震えた。
封蝋には〈光の一族〉と〈闇の一族〉、両方の紋章が重ねて押されていた。これは両家の許可を得た正式な“封緘書状”で、通常は身分の高い者や、特別な縁を持つ者へ送られるものなのだ。
フェリアは封をそっと切った。
中には一枚の厚紙と、一輪の白い花弁。
――フェリアへ。
あの夜、貴女が流した涙を忘れられない。
名乗れなかったことを後悔している。
よければ、次の満月の日に、光の庭園で再び話をさせてほしい。
強制ではない。
あなたの意思で来てほしい。
闇の一族 次期ヴェリス
ラヴィエル・ノクスプリマスタ・レイヴンドーン
読み終えた瞬間、フェリアの胸がじん、と熱くなった。
そんなフェリアの心とは対照的に、執事はちらりと扉の方を見た。
嫌な予感が、静かに足音を立てて近づいてきた。
「...アメリオラお嬢様が、先ほどからフェリアお嬢様の部屋へ向かわれております。お気をつけくださいませ」
そう告げた直後だった。
階段の向こうから、ヒールの鋭い音が響き始めた。
カツ、カツ、カツ――。
アメリオラが、こっちへ来る。
そして手紙を見つければ、絶対にただではすまないだろう。
フェリアは胸の前で封筒を握りしめた。
どうする――?
逃げる? 隠す? それとも覚悟して、殴られる?
どれを選ぼうと、ビンタは欠かせないであろう。
先日の舞踏会のこと、アメリオラはまだ怒りの真っ最中だから。
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