手のひらの光と小さな炎
フェリアの蕾が開くような笑みに、ラヴィエルの胸はどきりと鳴った。
「そうですね、星のお導きで今日出会いましたね」
「あ、あぁ...」
ラヴィエルの頬がうっすらと赤くなった。
「あら、ラヴィエル様、体調が悪いのですか?」
フェリアはラヴィエルが風邪にでもかかったのかを思った。
「慰め程度ですけど、わたくしの光があなたを癒せますように」
フェリアは体の中から必死に集めた、手のひらいっぱいの光をラヴィエルに注いだ。
温かな光がラヴィエルを包みこんだ。
「ありがとうございます」
ラヴィエルは礼を言った。
深夜、ラヴィエルはベッドの上に横たわっていた。天井をぼんやりと眺めながら、舞踏会での出来事を思い返した。
舞踏会の時に、フェリアが必死に集めた温かい光を思い出した。
フェリアが差し出した、あの小さな光。
手のひらいっぱいに集めようと必死で、けれど少しだけ震えていて、今にも消えてしまいそうだった。
なのに、温かかった。心の奥にまで届くほどに。
――やはり。
あの日の少女も、今日の少女も。
あの優しさも、あの弱さも。
全部、フェリアだった。
昔、人目の少ない中庭で、泣きながら光を差し出してくれた幼い少女。
「これくらいしかないの、ごめんね」
って申し訳なさそうに微笑んでいた。
あの時も、今日と同じように、あたたかい光が胸に広がった。
「やっと...見つけた」
ラヴィエルは静かに目を閉じた。胸がゆっくりと高鳴っていった。
高鳴りすぎて、呼吸が浅くなるほどだった。
思い出と現在が重なって、その中心にいるのがフェリアだという事実が、どうしようもなく嬉しかった。
「あの時もあなただったのですね、フェリア」
ラヴィエルは嬉しそうに呟いた。
フェリアの光を思い返しながら、ラヴィエルの胸の奥に、静かだけど確実に熱が広がっていった。
だけど、ラヴィエルは薄く目を開けた。
あの場で、フェリアが泣いていた。
泣きたくて泣いたわけではない。
ただ、必死に堪えていたものがこぼれただけ。
目尻に涙が溜まる瞬間、ラヴィエルの胸は鈍く痛んだ。
(なぜずっと、誰も気づかなかったのだろうか)
あの貴族たちの無神経な態度。さらにその中心に、彼女の妹までもいた。
そのことに、ラヴィエルの胸の奥が冷たくなっていく。
フェリアの涙を見たとき。
震える声で「大丈夫です」と笑ったとき。
それでも必死に気丈に振る舞おうとする姿を見たとき。
思い返すたびに、じわりとした怒りがにじみ出てしまう。
(あの場で、あいつらを許す必要はなかったのに)
彼は静かに息を吐いた。
怒りを押し殺すように、指先がシーツを握りしめた。
(守らなくては)
自然にその言葉が胸から生まれた。
義務ではなく、使命でもない。
ただ、そうしたいと強く思ったから。
フェリアの笑みは、蕾がほころぶように儚く、美しかった。
その笑顔が曇るのは、見たくなかった。誰にも、曇らせたくなかった。
ラヴィエルはベッドから身を起こし、夜の冷気に少しだけ肩を震わせた。
「フェリア...」
名前をつぶやいただけで胸が切なくなる。
けれどその切なさは、どこか甘く優しい。
幼い頃、光をくれたあの少女は、たった一度の出来事だったのに、ずっと心から離れなかった。
その理由を、自分でも分かっていなかった。
今日になって、その答えがようやくわかった。
(あの日からずっと、あなたを探していたのかもしれない)
ラヴィエル自身が気づかないまま、はるか昔から、心はフェリアへ向かっていた。
胸の奥は静かにざわめいていた。
(こんなに心が動くのは...)
少しだけ苦しい。
だけれど、不快ではなかった。むしろ心が満たされていく。
ラヴィエルは深く息を吸い、微かに目を細めた。
(フェリア、あなたを泣かせるものを...僕は許せない)
その想いは、まだ彼自身が完全に自覚するほど強いものではなかった。
だが、静かに、確実に根を張り始めていた。
やがて誰にも引き抜けないほど深く。
(もう、見過ごすつもりはありません)
ただの保護でも、ただの優しさでもない。
彼にはまだ名前のつかない感情。
けれど、ひとつだけ確かなことがある。
(あなたを守りたい)
それが、今日確かに芽生えた。
ラヴィエルはベッドに背を預け、そっと目を閉じた。
暗闇の中で思い浮かぶのは、舞踏会で見せたフェリアの小さな笑顔。
そして、必死に差し出した光。
(あなたの光は、小さくても温かい)
その温もりが、彼の心の闇をそっと照らしていた。
静かな夜の中、ラヴィエルはひとり微かに微笑んだ。
「もう二度と、泣かせませんよ」
それは誓い。
まだ口にしない、心の奥底で燃え始めた小さな炎。
やがてそれが、強く深い執着へと姿を変えていくことを、この時のラヴィエルはまだ知らなかった。
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